第十一章

彼からのキスを拒まなかった私が「都合のいい女」になるのは
当たり前の事なのかもしれない。
それから3年程だろうか、身体の関係を続けてしまっていた。
会う日は決まって水曜日だった。
そんな堕ちぶれてしまった日々の中で主人が倒れてしまったのである。
それから、主人の世話に私は忙しくなり、彼とも連絡がすっかりと取れない状況になってしまった。
主人が倒れてから13年経った今、私は未亡人になっていた。
最後の最期まで私は主人の傍にいた。
人はあっけなく亡くなってしまうのだな、と13年前を思い出す。
最期に主人は「ごめんな」そう言い残し、この世を去ってしまった。
私は主人が息を引き取る前に「そんな事ないよ、ありがとう」そう伝え、満面の笑みで
天へと送り出したのだ。
主人を責め立てる事もなく、私を残して先に逝ってしまう主人の「後悔」に
ならない様にと。
今、私は主人の残してくれた一人にしては大きすぎる家に独りで暮らしている。
私は独りになりたかったと共に、主人の存在の大きさに「有難い事だな」と
ふと考えるのだが、「こんな私と一緒にいてくれてありがとね」そう主人の遺影の前で手を合わせた。
「孤独感」は感じるものの、最期を看取れた事、私は誇りにも思う。
歳をとった私はコーヒーでも飲もうと思い立ち、キッチンへと向かった。
そんな時に家のチャイムが鳴り、あぁと玄関へと向かう。
「彩、今日は水曜日だよ、ただいま」屈託のない瑠偉の笑顔が私へと向けられていた。
「そうだったね、おかえり」そう言って、当たり前の様に家へと入って来る彼がいた。
私も歳を取ったが、瑠偉もそれなりに年齢を重ね私と彼は「水曜日」にだけ家へと来る
そんな不思議な関係へとなっていた。
彼は当たり前の様に私へと「コーヒーでも飲もうとしてたの?」そう言い、
「そう…」私も当たり前の様に答えた。
決して彼と再婚をした訳では無い。
ただ、毎週「水曜日」に家へと帰って来てくれる人がいる環境を私は手に入れていた。
傍から見ると可笑しな関係なのかもしれない。
毎週水曜日に私の所へと戻ってきて、1日を過ごし、彼が何処へ帰っていくのかは知らない。
それはそれで、私には充分な「関係」だった。
水曜に必ず、一緒に買い出しへと出掛け1日を沢山の言葉達で埋め尽くし、
彼は私に生活費まで渡して行ってくれる。
私も私なりに在宅ワークを日々こなしていたが、彼は「今は僕が彩のパートナーなんだから」そう言って
笑って帰っていく。
とても不思議な「関係性」。
彼の言ってくれる「パートナー」という言葉とは正反対に合い鍵は受け取らないのだが。
もう色々と考える事に疲れてしまっていた私はすんなりと受け入れる事しか出来なかった。

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煙の行方

歳を重ね、月日も経ち、彼との関係性は不思議なものになっていた。

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投稿日:2024/02/27 03:40:35

文字数:1,142文字

カテゴリ:小説

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