周雷文吾の投稿作品一覧
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2.
小学校の高学年になった頃だ。
急に勉強というものに価値を見いだせなくなった。
……いや、理屈としては理解できていた。勉強ができれば、成績がよければレベルの高い高校に行けて、さらに勉強していい大学に行ける。そうすれば大企業にでも就職できて安定した高収入を得られる。
全ては、将来いい生活を...ローリンガール 2 ※二次創作
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The Rolling Girl
1.
「私は今日も転がります!」
少女は威勢よくそう叫ぶと、駆け出して勢いをつけて前転していた。
緑茂る丘の上から、彼女は泥だらけになることも怪我をすることもいとわずに、お世辞にも美しいとは言えないみっともなさで不器用に坂を転がっていく。長い緑色のツインテールが...ローリンガール 1 ※二次創作
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17.
『都市の亡骸から炎は消え、燻り続けている。
静寂は全ての生命を包み込み、未来に帳を下ろす。
願いの果ての世界でも、夕焼けは鮮やかな紅い色だった。
これは愛の為に嘘を吐き続けた、ありふれた少女の物語』
彼女は丘まで歩きました。
礼拝堂でどれだけ泣いたかわかりません。
泣き疲れてしば...針降る都市のモノクロ少女 17 ※二次創作
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16.
わたしは復讐を果たしました。
わたしのアレックスを撃った浮浪者に。
わたしは復讐を果たしました。
わたしからアレックスを奪ったエコロジストに。
わたしは復讐を果たしました。
わたしからアレックスを奪った市長に。
……わたしは復讐を果たしました。
わたしからアレックスを奪った、...針降る都市のモノクロ少女 16 ※二次創作
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15.
ボロボロになった高級車の前には、閑散としたバリケードが。後には暴力と略奪と炎をまとった阿鼻叫喚の混沌が繰り広げられていた。
一番地区は無法地帯と化した。
女の破壊と扇動によって。
女の……怒りと嘆きによって。
「……」
女は高級車のボンネットから降り、背後の一番地区の惨状を眺める。...針降る都市のモノクロ少女 15 ※二次創作
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14.後編
細長いゴンドラの真ん中でスティーブの方を向いて腰を下ろす。
こういう小舟に乗るのは初めてだけれど、意外に揺れるな、というのが率直な感想だった。
「じゃ、お二人様ごゆっくり」
ダンが手を振るのに、わたしは微笑んでうなずき返す。
「じゃ、出すよ」
スティーブがオールを漕ぎ、ゴンドラが...針降る都市のモノクロ少女 14後編 ※二次創作
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14.
「ええと……その、リン?」
その声に、オレはようやくハッとする。
バリケードから暴徒と化した群衆が走り出していく……そんな頭の中の妄想が溶けて無くなり、崩壊した一番地区から七番地区のカフェへと、周囲の光景が様変わりしていく。
「あ……、その。すま……ごめんなさい。オ……わたし、ぼうっとし...針降る都市のモノクロ少女 14前編 ※二次創作
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13.
「ハーッハッハッハッハーッ! サイッコーだなぁ! ええ? おい!」
一番地区を駆け抜ける高級車の後部座席から身を乗り出し、女が高らかに笑っている。
車内は冷静さを崩しもしない運転手である執事と、恐怖に凍りついた警官と少年、それから一人呵々大笑している女だった。
飛行船が高層ビルを破壊し...針降る都市のモノクロ少女 13 ※二次創作
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12.
飛行船の船体がぐにゃりとたわむ。
破裂寸前の風船みたいになったそれは、衝突した相手が押し負けたことで辛うじて破裂を免れた。当の相手は、飛行船の衝突に窓ガラスが粉々に割れ、構造材を歪ませ外壁材が砕かれ、その巨大な体躯を傾かせる。
窓ガラスの欠片がキラキラと乱反射し、外壁材が瓦礫と化し、傾...針降る都市のモノクロ少女 12 ※二次創作
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11.
『市長、転落死!』
女はニヤニヤと笑みを浮かべながら、そんな見出しの新聞を広げている。
場所は富裕層の住む二番地区の端の端、三番地区との境界に建つ、二番地区にしては小ぢんまりした邸宅の執務室だった。
執務室のデスクに敷かれた厚手の絨毯、自己主張は控えめだが優雅な彫刻品の数々。建物の規模...針降る都市のモノクロ少女 11 ※二次創作
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10. 後編
「スパイカーズ、か。ニードルスピアにぴったりの名前じゃねーか。針よか釘の方がちっと太いけどな」
「彼らと現在敵対しているのが七番地区方面を拠点としているブルースカルズです。両者がこの都市の二大ギャングと言えるでしょう」
「さあて、どっちがオレの味方にふさわしいかねぇ。今んとこスパイカー...針降る都市のモノクロ少女 10後編 ※二次創作
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10. 中編
「……」
やがて廊下の途中にちょっとしたスペースのあるところにたどり着く。そこにはいくつかの放置されたロッカーと、上へと続く梯子があった。
梯子を登り、また別の室内へ。さっきの部屋よりはマシだが、それでもまだ汚い。
とはいえその汚れは先ほどまでとは違い、人の生活によって生じる汚れ...針降る都市のモノクロ少女 10中編 ※二次創作
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10.
「違う! 俺が指示した訳じゃない! 俺のせいにされたんだよ。殺したかったわけでも、殺そうと思っていたわけでもない!」
窓のない、コンクリートで囲われた薄汚い部屋の中央で、全身を椅子に縛られて座らされている男が絶叫する。
少しまどろんでいたオレは、夢想を止めて舌打ちする。
口にしていたロ...針降る都市のモノクロ少女 10前編 ※二次創作
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9.
「ギュスターヴ・ファン・デル・ローエ二世。我、ニードルスピアの名に置いて汝の罪を裁かん。己が罪を数えよ」
「は……? いったい何の冗談――」
「一つ。レオナルド・アロンソを操り、十二年前の革命もどきを引き起こした罪」
告げながら、女は市長の目の前まで悠然と歩を進める。
「待ちたまえ。誰の許可...針降る都市のモノクロ少女 09 ※二次創作
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8.
「彼は生前、この都市の為に良く働きました。市長と友人でもあった彼は、市長を助け、また一般市民の味方となりこの都市への貢献を忘れませんでした」
針降る都市から少し離れた郊外の墓地で、神父が聖書を片手に祈りを捧げている。
どんよりとした空からは、重苦しい雨が降っていた。いつもの霧雨と違って、雨...針降る都市のモノクロ少女 08 ※二次創作
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7.
女が路地裏を抜けて通りの道へと出る。
瞬間、黒い影が現れる。
「マム!」
少年が叫ぶが、黒い影は――。
「ミセス。お待たせしました」
影はそこで待っていただけで、そう女に声をかける。
「ん? ああ、ディミトリ。別に待ってねーよ。ありがとな」
女は影に――執事に声をかけ、振り返る。
「...針降る都市のモノクロ少女 07 ※二次創作
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6.
マスターの元にやって来てから、ずいぶん時が経った。
季節は何度も巡り、わたしはマスターの手に引かれてこの都市の酸いも甘いも見てきた。
色んな約束をした。
ゆびきりげんまんもした。
マスターに拾われるまで、わたしにはなんの価値もなかった。
けれど、今は違う気がする。
マスターの手助...針降る都市のモノクロ少女 06 ※二次創作
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5.
この都市は運河の河口に位置し、元々は運河と海路を使った交易で発展した都市だった。
産業が発展するまでは漁業も盛んだったが、産業の発展に伴い漁港は次々と貿易港へと作り替えられていき、あっという間に漁業は衰退した。
この都市――針降る都市は、運河で分けられた東西、そして貿易港や工場の密集する...針降る都市のモノクロ少女 05 ※二次創作
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4.
ぼくはとびらの外をポカンと見つめる。
すっごく高いところにきてるはずだってことはわかってたけれど、まさかそんなに高いなんて思っていなかった。
「どうした、早く入りたまえ」
「まーまーそんな焦んなって。コイツは初めて来たんだ。ビックリくらいするさ」
「ふむ、そういうものか」
「なんだよ。少年...針降る都市のモノクロ少女 04 ※二次創作
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3.
鋼鉄の都市の中央である一番地区。二十階を越える建造物が集まる高層ビルエリアの中でも一際高いその建物は、都市行政庁舎という名前だった。が、ここの持ち主――市長の名前から広くギュスターヴタワーと呼ばれ、市民の多くもそれが正式名称だと認識している。
仮に――ほとんどあり得ない話だろうが――市長が...針降る都市のモノクロ少女 03 ※二次創作
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2.
ぼくはただ空を見上げる。
きりさめがふっていたはずなのだけれど、そこかしこからでてくるじょうきや、たてものがこわれるときのほこりで、そんなのはあんまり気にならない。
ドン、ズドン。
さけびごえ、ひめい。
ズズン、ガシャン。
おたけび、ときの声。
ガラガラ、ガラガラ。
かんせい、...針降る都市のモノクロ少女 02 ※二次創作
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針降る都市のモノクロ少女 ※二次創作
1.
日が傾き、雲が赤く染まってゆく。
都市の至る所から蒸気機関の白煙が立ち昇り、都市の中央で一際高くそびえる鉄の塔が、その蒸気で揺らいでいた。
鋼の身体と蒸気の血液で脈動する鋼鉄の都市は、日の陰り程度でその活動を止めたりはしない。
鋼鉄の都市。
眠る...針降る都市のモノクロ少女 01 ※二次創作
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19
今日、僕らはようやく「ソルコタ民主主義共和国」として独立する。
国際連合ソルコタ暫定行政機構、UNTASの活動は、結局は三年四ヶ月もの期間に及んだ。
波打つ緑と黄色、そしてギザギザの青と橙色が交差する国旗は、カタ族とコダーラ族の伝統模様をあしらったものだった。
三年四ヶ月の間、僕らは新...アイマイ独立宣言 19 ※二次創作
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18
「ぐ……うあっ!」
銃声と共に、腹部に焼けつくような痛み。
「母さん!」
銃を構える彼の、悲愴な視線。
その奥で、座ったままのウブクが事態についていけず目を丸くしている。
「グミ!」
銃を撃った彼の方がつらく苦しい表情をしていることに、目を奪われてしまう。
モーガンとカルが私を呼ぶ声...アイマイ独立宣言 18 ※二次創作
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17
「久しぶりですな。ミス・カフスザイ」
「……そうですね。ミスター・ウブク。あれから、なにもかもが変わりました」
握手をして席につくなりそう声をかけてきたシェンコア・ウブクに対して、私は穏やかな笑みを浮かべてそう返答する。
あれから。
シェンコア・ウブクと私が前回顔を合わせてから、もう何年...アイマイ独立宣言 17 ※二次創作
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16
一ヶ月と十日後。
ソルコタとはほとんど利害関係のない第三国。
そこのホテル・ナヴァルーニエに私たちはやって来ていた。
国内有数のホテルであり、元々からして守りが堅固な上、今回はこの国の軍隊が警備を固めているという話なのだが……いま目の前に見える荘厳な教会建築を思わせる建物を前にすると、...アイマイ独立宣言 16 ※二次創作
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15
『ソルコタ国民の皆さん。
困難と共にあるこの日に、やっとこうやって皆さんにお話ができることを……たとえ痛ましい日々の合間だとしても、嬉しく思います。
私は訴えなければなりません。
ソルコタという国に住む――住んでいた人々の代表として。
私たちの国は、長い間問題を抱え、終わりの見えぬ紛争...アイマイ独立宣言 15 ※二次創作
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14
あれからあらゆる混乱がごった返して押し寄せてきた。
一つずつ、順番に語ろう。
まず、ソルコタは無政府状態となった。
……ケイトの予測は、正しかったと言えるだろう。私には、それを変えるだけの力がなかった。
行政府庁舎が破壊され、ラザルスキ大統領臨時代理以下、この国の政治と行政を取り仕切...アイマイ独立宣言 14 ※二次創作
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13
執務室に入ってきたのは、まだ幼い少年だった。
だがその視線は暗く、片手で構えた自動小銃にも、もう片方に携えた粘土のようなそれにも、私たちに対する敵意しかない。
粘土のようなものにはなにかを突き刺しており、その先にはスイッチが見てとれる。
あれは、十中八九プラスチック爆弾だ。
恐らくは...アイマイ独立宣言 13 ※二次創作
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12
『わかってる! いま大急ぎで引き返しているところだ! しかし……ええい、どんなに急いでも三時間はかかるぞ!』
四輪駆動車の助手席なのだろう。ハーヴェイ将軍の怒鳴り声の奥からは、四輪駆動車のエンジンがうなりをあげている。
「ここは、あと……二時間持てば長い方でしょう。実際には一時間弱かと」
...アイマイ独立宣言 12 ※二次創作