1度しか、それも前を通った事しかなかったのだが、俺はちゃんと覚えていたらしい。
だけど…彼女の家の前まで来て、躊躇う。
『あいつ、なんかきっついんだよな…理屈屋だし』
いつだったか、マスターがそう言っていたのを思い出して、俺は少し、不安になっていた。
―Crush―
第六話
きっつい、という事は、特に問題ではないと思う。
ここまで来た事が1度しかないだけで、彼女には何度も会った事があるけど、俺の認識では、"きっつい"態度を取られていたのはマスターだけだ。
あの人は俺もリンも、みんな可愛がってくれた。
だから、そんなに心配してないし、仮にそういう態度を取られても、それくらいじゃ引かない自信はある。
ただ…理屈屋、というのが、俺の頭の隅っこで引っかかっていた。
何故だろう、知りたいと思ったのは俺なのに。
「…おや、れんくんじゃないか。どうしたんだい、こんな所で」
考えていたところに声をかけられて、びくりとする。
振り返ると、ちょっと短めの濃い茶色の髪が目に入った。
学校のテキストが入った鞄が少し重そうだ。
白いカッターシャツに黒いロングパンツというシンプルな服装なのだが、それが彼女によく似合う。
彼女が、東雲晶さん。
うちのマスターの知り合いだ。
「アキラさん…あの、学校は?」
「今何時か、解ってるかい?とは言っても、確かに今日は少し早いけど」
半ば呆れたような声にぽかんとすると、晶さんが持っていた携帯電話の画面を見せてくれる。
表示されているデジタル時計が、現在の時刻が4時過ぎだと主張していた。
「いつの間に…」
「気付いていなかったとはね。まぁ、上がりなよ。ここに来たって事は、私か、めーこさんたちに用があるんだろう?」
言いながら、玄関の鍵を開けて中に入った晶さんの後を、慌ててついていく。
こうなってしまえば、今更帰るなんて言えない。
「…で、何の用だい?」
「あ…ちょっと、訊きたい事があって。色んな人に訊いて回ってるんだけど、アキラさんの話も聞いてみたくて」
「それは…珍しいねえ。私で良ければ聞いてあげるけど」
晶さんは少し眉をひそめたが、そう言って紅茶のカップを俺の前に置く。
水面から顔を上げて、俺は思い切って問いを発した。
「アキラさんは、片想いって、どんなものだと思う?」
途端に、晶さんの表情がさっと変わる。
困ったような、呆れたような、そしてそれを隠すような、厳しい表情。
「かいとくんだけかと思えば…君もかい」
皮肉っぽい声。
口元は僅かに笑みを浮かべているのに、目はまったく笑っていない。
明らかに、纏っている空気が、さっきまでと違う。
「私からも1つ訊いておきたいんだが…他の人たちからは、どういう風に言われた?」
「え、っと…苦しいけど抜け出せないって、そう言う人が多かった、かな。でも最後は、自分で考えて答えを見つけろって…」
「なるほどねえ…」
そう言うと、アキラさんは何やら難しい顔をして、考え込む。
すぐに厳しい意見をズバズバ言われるかと思ってたから、少し意表を突かれた。
「自分で考えて答えを見つける…確かにそれはそうだろうねえ。片想いだろうが何だろうが、恋なんてもの、自然と個人で定義が変わってくると思うよ。考えるための材料を聞いて回るってのも、まぁ理解はできる」
「だったら…!」
「ただ、れんくんにはまだ早すぎると思うんだけどねえ」
俺の声を遮るような彼女の言葉に、黙り込んだ。
そういえば、鋭いと感じた視線も、少し倦怠感を帯びている。
「れんくんが、単に興味があるだけなのか、それとももう誰かに片想い中なのかは知らないし、知ろうとも思わないが、君が思ってるほど、恋は気楽で楽しい物じゃあないんだよ」
1口だけ紅茶を飲んで、俺を見る晶さんの表情は、見た事がない、得体の知れない暗さを持っていた。
「かいとくんといい、君といい…VOCALOIDも人間に近付いてきたって事か。厄介だねえ…」
「え?」
「いや、ただの独り言だよ。忘れて」
気だるげにそう言う晶さんに、俺は違和感を覚えた。
この人は、こんな疲れはてたような顔をする人だっけ。
「そうだね、訊かれた事にはちゃんと答えるよ。私にも、解らない事だらけだけど、それでもいいのかい?」
「…ねえ、アキラさんって…」
「何だい?」
訊き返してくる声は、静かだ。
だけど、うんざりしたような響きを、隠しきれていなかった。
それを聞いて、俺は口から出かけた問いを、飲み込む。
「…ごめん、何でもない」
「そうかい」
晶さんはそれ以上問いただす事はせずに、盛大な溜め息を吐いた。
「それじゃあれんくん、また1つ質問していいかい?」
「うん」
気圧されそうになりながらも、小さく頷いた。
晶さんの唇が、言葉を紡ぐのを、じっと待つ。
「仮に、今れんくんに好きな子がいるとしよう。その子と付き合いたくて仕方ない。…ああ、あくまで仮定だと考えるようにね」
好きな子、と言われて、リンの顔が思い浮かんでドキリとした。
晶さんは仮定だと言うが、見抜かれているように思えてくる。
実際にはどうなのか解らないが、晶さんはさらに言葉を続けた。
「ある日、思い切って告白して、その子と付き合える事になった。…で、その後、れんくんならどうする?告白したその時から、いつか自分が消える瞬間まで、何を考えて、何をしていきたい?」
「それは…恋をする目的、って事?」
確認のつもりでそう言うと、晶さんは唇を歪めて笑みを浮かべた。
「そんなところだね」
その声は、皮肉とは別に、どこか不思議な響きを含んでいた。
まるで…何かを諦めてしまったような。
【レンリン注意】―Crush― 第六話
レン、色んな人に相談してみるの巻、4人目。
ゲストキャラ登場です!
つんばるさんのところの、恋するアプリの解釈小説に登場するマスター、東雲晶さんに登場していただきました!
つんばるさん、キャラ使用許可を下さってありがとうございます。
キャラの細かい設定もメールで教えて下さって…本当に感謝、です。
つんばるさんには、晶さんが登場する小説にて、悠さんと美憂を登場させていただけたんですが、今回は逆に、晶さんをErrorシリーズに…なんて、そういうのを狙ってたわけじゃ、ないんだから、ね…っ(殴
嘘です。半分くらいは確実に考えてました、すみません。
もう、つんばるさんにはお世話になりっぱなしで、頭が上がりません。
なんか、こんなので、申し訳ないです…。
今回晶さんにゲストとして来ていただいたのは…つんばるさんの小説のワンシーンで、恋について話しているところがあったんですよ。
その部分を読んで、レン君には貴重な意見なんじゃないかと思いまして…。
私が登場させてきたキャラは、みんな恋愛には肯定的ですからね。
こういう人もいなきゃいけないと思いつつ、実行できなかった辺り、私の実力の底がわかるorz
ただし、相談してるのが14歳のレン君なので、晶さんにはだいぶ手加減していただいてます。
…私の頭じゃあそこまで深い話は書けないだなんて、そんな事言えn(ry
イメージが違っちゃってたらごめんなさい…(滝汗
さて、次回はこの続きです。
レン君がどう答えるか、それに晶さんがどう返すのか。
じっくり考えながら書きたいので、更新は遅くなるかもしれませんが…また読んで下さると嬉しいです。
東雲晶さんの生みの親で俺のy(殴
…失礼しました、つんばるさんのページはこちらです。
→http://piapro.jp/thmbal
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ご意見・ご感想
桜宮 小春
ご意見・ご感想
今日来て見たら新着コメ3つも来ててビビリました(笑
皆さん感想ありがとうございます!
つんばるさん>
どうも、嫁です(殴
すみません自重します。。。
シンクロできてましたか?じゃああれはつんばるさんの考えだったんd(ry
ぷるぷるしていただけて良かったです(笑
つんばるさんのところでのあのシーン、息を殺してドキドキしながら読んでいた記憶があったので…あのドキドキ感が足りない!とも思ったんですが、ちょっと安心しました。
表現力なんて、つんばるさんにはまだまだおよびませんよ!手加減してもらわないと…これ以上怖くするのは無理でした…。
本当に、こんなおっかないキャラとして出演してもらってすみません…ちゃんと普段の晶さんとして出てもらうシーンも作りたい、な…!
応援してもらってるよれんくん!頑張れ!(お前が言うな
ブクマですと?!!!ありがとうございます!!!
長文ですみません、頑張ります!
+KKさん>
こんにちは~。
ちょ、褒めすぎです(///▽///)←
+KKさんの表現力だってすごいじゃないですか!
私のほうこそ、こんなすごい方々からこんなコメントをいただいていいんだろうかと震えております…。
今までにないくらい恋愛について考えながら書いているので、頭の中がぐちゃぐちゃになりそうで怖いんですが…。
辞書に載せられないような言葉のひとつだと思います。恋。
書く上で辞書を多用している人間が言うのもあれですが(汗
コメントありがとうございましたー!
西の風さん>
こんにちは~。
晶さんかっこよくて素敵ですよね!私も大好きです!
イメージぴったりと言っていただけて嬉しいです!
考え始めるとなかなか止められなくなりますよね…単に私が頭悪いだけかもしれませんけど(殴
れんくんもすごく悩んでると思います。
どうぞどうぞ、こんな中途半端な考え方しかできないようなのでよければ、いくらでも考える材料にして下さいませ。
…むしろ、これをもとに考えていただけるだけで幸せです…!
次回も頑張ります!
コメントありがとうございました!
2009/07/10 13:00:30
西の風
ご意見・ご感想
お邪魔致します、西の風です。
晶さんだ晶さんだっ、相も変わらずステキだなあっ、と思わず嬉しくなってしまいました。
…スミマセン晶さん大好きで。イメージぴったりでしたよっ。
恋愛感情、感情を持つ機械、などに関して私もうだうだと考えているからでしょうか。何だかれんくんと一緒になって晶さんの問いについて考え始めてしまいました。以前から少し、書きたいなと思っていた部分と重なったもので…。現状書いているだけではちょっと消化し切れていないものですから。
…またよそ様の発想から更に枝葉が広がりそうです。自重しろ私…。
れんくんの出す答えと、晶さんの反応、楽しみです。
ゆっくりじっくり、こっちも(勝手に)考えつつ待たせて頂きますっ。
2009/07/09 23:33:13
+KK
ご意見・ご感想
こんにちは、+KKです。
うああ、つんばるさん宅のアキラ嬢がいる・・・!寸分違わずアキラ嬢だ・・・!
桜宮様の表現力に感服致しました。
何故こんな方々と同じところで投稿してるんだろうと今更震えているという・・・。
恋愛って難しいですね。それぞれにそれぞれの考えがあって否定的な人もいるでしょうし・・・。
れんくんにはいろんな意味で頑張ってほしいところ。
これからの展開に期待しつつこれにて。
2009/07/09 18:21:49
つんばる
ご意見・ご感想
なんという俺の嫁。私の脳内トレースしたみたいです……!
こんにちは、桜宮さんの書くアキラと私の思い描いたアキラのシンクロ率が高すぎてぷるぷるしてるつんばるです。
あ、あんなチラ裏な設定まで盛り込んでいただいて……感謝しきりです!
人さまのところで見ると、アキラがこんなに読む者を不安にさせるおっかないキャラだとは思いませんでした(笑
この怖さも含めて、桜宮さんの表現力はやっぱりすごいとおもいます……ちょっとでいいから分けて下さい。
恋愛についてすてきだと思ったり、いいものだと思ったり、そういうイメージは大事だと思います。
むしろ、ゆきすぎの恋愛至上主義にならない程度には大事にして欲しい感性だと思っています。
この件に関しては、アキラがスレすぎてるだけなので、桜宮さんは自信をもつといいと思います!
もう、れんくん、負けるな……! としか、言えないあたりが歯痒いですが……。
速攻で作品ブクマいただきながら、次回をぷるぷるしながら待とうと思います!
2009/07/09 17:37:18