焔姫 ※2次創作
プロローグ
石造りの部屋で、男が必死の形相で羊皮紙に何かを記している。
それほど広いわけでもないその部屋には、簡素だが作りのしっかりした机と寝台がある。この部屋は男の居室なのだろう。
部屋の外はすでに真っ暗で、深夜のようだった。
机上には小さな器があり、明かり用の油を入れて火を灯してあった。そのささやかな明かりを頼りに、仕立てのいい布地を織り合わせた服をまとった男は羽根ペンを走らせる。男の脇には、リュートに似た弦楽器が立てかけてある。男の愛用品なのだろう、それはずいぶんと使われ続けている事が素人目にもわかるくらいにくたびれて見えた。
不意に部屋の――建物の外から、かん高い鐘が鳴り響く。宵も深まった深夜に鳴り響くものではない。それは時を告げる際の、均等に打ち鳴らされるものとは明らかに違った。鐘のもとにたどり着いた者が、危急の知らせを伝えようと必死に打ち鳴らしているようだった。
男は鐘の音に不安そうな表情を浮かべて部屋の扉を見やる。が、何も出来ることがないのか、あきらめたようにため息をつくと再び羊皮紙へと向かった。
が、集中が切れてしまったのか、羽根ペンの進みは極端に遅くなっていた。
鐘はそれから何度も打ち鳴らされていた。が、急に止んでしまう。鐘を鳴らしていた者が、鳴らせない状態になったということか。つまり――。
「……」
男の羽根ペンは完全に動きが止まってしまった。同時に扉の外の廊下がにわかに騒がしくなってくる。
兵士の怒号。
廊下を駆ける音。
そしてそれらは、すぐに剣が打ち合わされる音へと変わってしまう。
男はただ絨毯の上に座したまま、扉を見ている事しか出来なかった。
少しして悲鳴と共に剣の音もなくなって静かになると、まもなく扉の裏側でごとり、という重い音が鳴った。それは、かんぬきが外される音だ。室内の様子に、質のいい服装、そして高価な羊皮紙を使っている事からするととても囚人とは思えないが、事実としてこの男はこの部屋に幽閉されていたようだ。
扉が開くと、三人入ってくる。全員暗い色の布で全身をおおっている。その顔も両眼以外は巻きつけた布で隠れていて、明らかに賊といった雰囲気だった。三人とも、手には血に濡れた三日月刀をたずさえている。
男の手前に二人、奥に一人。奥の――扉の近くにいる者は、どこか歩き方がおかしかった。片足が思うように動かないのか、不自然な歩き方をしている。
「焔姫の居場所を答えろ」
手前の一人が三日月刀を男に突きつけると、低い声で言った。
対する男は座ったまま両手を広げる。
「扉、閉まっていたでしょう? 私はこの部屋から出られなかったんですよ」
「そんなことは聞いていない。さっさと質問に答えろ」
「いや、ですから。部屋から出られないのに姫の場所を知っているなんて、本気で考えているのですか?」
「余計な事はしゃべるんじゃない!」
手前の二人は男の態度にいらついているようだった。奥の歩き方のおかしな一人は、男の言葉にかすかに舌打ちすると、すぐに部屋を出ていってしまう。
「いいから答えろ!」
「答えるも何も……」
「チッ。……らちがあかねぇな」
二人のやり取りに、もう我慢の限界だというように、隣にいた賊が男に近づく。
「いいから殺しちまえ」
「だけど、いいんすか?」
「構わねぇよ。他の侍従かもっと偉そうな奴に吐かせりゃいい。こんなのに付き合ってられるか」
あまりにも無造作に振り上げられた三日月刀に、男は自らが殺されようとしているのだと気づきすらしなかった。危機感や違和感を覚えさせないほどに、ごく自然な動作に映ったのだろう。それだけ、賊は殺し慣れているという事だ。
「……あ?」
しかし、賊は三日月刀を振り下ろす事なく、奇妙な声を上げる。賊は、自らの腹部を見下ろしている。男もつられてそこを見ると、賊の腹からは銀色の棒が生えていた。
「……ぁあ?」
賊が、振り上げた三日月刀を取り落とす。
それが、その銀色の棒が剣の刃なのだと、そこにいた全員がとっさにはわからなかったらしい。
くずおれそうになる賊の背後にいる人物に男が気づいて、ぽかんとする。
「ひ、姫?」
賊の背後にあらわれた“姫”は、呼ばれた名にふさわしい衣装に身を包んだ女性だった。
主たる色は赤だが、紅から赤、そして朱と、様々な赤が織り合わされ、それを一言で表すなら紅蓮という言葉がふさわしい。その衣は、彼女の動きに合わせて炎のようにゆらめき、はためく。
その姿は、ひと目で彼女が賊の探していた“焔姫”だと誰もが確信できる出で立ちだった。
彼女は賊の背中に突き刺した剣を引き抜くと、その隣で呆然としていたもう一人をもまたたく間に斬り伏せた。
「怪我は無きか?」
男の前で膝をつくと、彼女は凛とした声で、けれど不安に満ちた表情で男を見る。
「……え、ええ。私は、なんとも――」
そんな男の弁が終わる前に、彼女は心底ほっとした表情で男に抱きつく。
「姫。な、なりません」
抱きついたのは、恐らく無意識の動作だったのだろう。おどおどとした男の声に、彼女は我に返る。
身体を離し――男にはわからないほどの、ほんのかすかな名残惜しさがうかがえた――立ち上がると、彼女は男も立ち上がらせようと手を差し出す。
「なれも来るがよい。ここにいては命かいくつあっても足りぬであろ」
確かに、彼女が二人の賊をまたたく間に倒したが、まだ廊下の奥からは怒号や剣戟の音が響いてくる。賊の襲撃は、どうやらまだ始まったばかりのようだ。
男はうなずいて彼女の手を取り立ち上がると、机に散らばる羊皮紙をかき集め、弦楽器を手に取る。
そんな男の様子を見て「ついてまいれ」とでも言いそうな様子で彼女が廊下へと出ていく。
男もそんな“焔姫”の後を追い、部屋を後にしていった。
焔姫 00 ※2次創作
プロローグ
と、いう訳で2次創作第7弾、仕事してP様の「焔姫」をお送り致します。
更新は年始スタートの予定だったのですが、せっかくなのでプロローグだけフライング。本格スタートは年始になります。もう少しお待ち下さい。
今回すでにありますが、残虐描写が今後も出てきます。むやみに細かく描写をするつもりはありませんので、規約に触れる事は無い……と思いますが、苦手な方はご注意下さい。
毎度のごとく今までにやった事のないテイストに手をつけた訳ですが、今作のテーマ(自分の目標)は「上質なエンタメ」です。理想は歴史物の壮大な映画、みたいなアクションサスペンス。あくまで楽しく読めるものにして、読んだ人に訴える、的なメッセージ性は極力入れない(←入れがちになる自分への戒め)。
ハードル高すぎる(震)
そして、あいかわらずCDからしか聞いて無くてニコ動見ずにプロットを書いたのですが、書き終わって嫌な予感がしたので動画見たところ……。
「MEIKOさん和装じゃん!!!」
仕事してP様、本当に申し訳ございません。
皆様のご期待に添える出来になるかはわかりませんが、最終話までおつきあい頂ければ幸いです。
それでは皆様、よいお年をお迎えください。
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