ちょっとはオリジナル色のあるものを、と思って書いてみた。
ぽルカ(がくルカ)のカップリング要素あり。苦手なひと、ご注意ください。
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【ぽルカ支援】 留守番と和菓子の昼下がり 【がくルカ応援】
1.留守番
今日明日の二日間、隣家の年長組が家をあけるという。
「そういう訳ですカムイ! 今日明日はわたくしと一緒に初音と鏡音ツインズの子守りをなさい!」
「……それは、構わないが」
「ルカちゃん、ミク、そこまで子どもじゃないよ!」
「そーだよルカ姉、レンだけならまだしも!」
「なっ、リンがいちばん騒がしいくせに!」
やいのやいのと邸が一気に騒がしくなる。畑を挟んだ隣家は、二男四女の大家族だ。今日明日はその大黒柱ともいうべき年長のふたりが久方ぶりの旅行だとかで、こうして末の子たちの世話を頼まれた次第である。
隣家の長男はカイト殿、柔らかい笑顔が印象的な好青年で、その柔らかな物腰ゆえ不当に侮られることもしばしばだが、氏の魅力は氏を知る誰もが理解するところである。
そのカイト殿の一番の理解者であるのが長女であるメイコ殿。ふたりは我らが生まれる前から苦楽を共にしてきただけあり、連れ添う様は睦まじくとても微笑ましいのだが、メイコ殿は恥ずかしいのか一向にカイト殿との関係――まあ要するに男女の仲ではないかという話だが――について言を控えたままである。
それが今回は(あのふたりにしては)大々的に「旅行」であるという。何かあったのだろうか。
「カイト殿とメイコ殿が揃って不在とは、珍しいこともあるものだな」
「ううん、ミクたちが計画したんだよ」
「ミク殿が?」
かの可憐な少女は三女の初音ミク殿。可愛らしい外見とその歌声でいまや万人に愛される歌姫である。
「正確にはミクとリンちゃんね。ホラ、最近お兄ちゃんもお姉ちゃんも新曲やプロモで忙しかったから」
「ミク殿の方が、沢山の仕事をこなしているではないか?」
「……意外とそういうのズバッと言うよねえ、がくぽさん……」
「む……すまぬ。お気を悪くされたか」
ミク殿が眉根を寄せて苦笑した。少し配慮に欠けたかと侘びたが、それはすぐに末の双子に打ち消された。
「いーよ、別に。ミク姉が稼ぎ頭なのは否定できないし」
「でも、そうだとしても、カイト兄とメイコ姉だって仕事が増えてるのは事実だし」
四女の鏡音リン殿は快活で利発そうな笑顔で言い、次男で末弟の鏡音レン殿は少々悪ふざけを匂わせた笑顔で言った。
「そしたらねえ」
「必然的になあ」
「ふたりでデートとか、一緒にいる時間もないんじゃないかなって」
「ちなみに、旅行のチケット手配はわたくしがしたのよ。泣かせる兄弟愛でしょう、カムイ!」
「うむ、たしかに」
誇らしげに言い放ったのは次女の巡音ルカ殿だった。海外での修行が長く、この家族の一員としては日が浅いのだが、今ではもうすっかり馴染んでいるようだ。
たしかに、見事な連携プレイである。
「まあ、わたくしとしては青いのとねえさまが二人きりなんて、到底ゆるしがたいと言ったのですけれど」
「ルカちゃん、やっぱり反対だった……?」
「いえ、そういう訳ではないのよ、初音。あの青いのが一緒だと、ねえさまの気も休まらないのではないかと思っただけ。初音と鏡音の気遣いを否定してはいないわ」
彼女は彼女のねえさま(つまりメイコ殿のこと)を非常に慕っており、しかし、それと反比例するように青いの(つまりカイト殿のこと)の扱いは酷い。どのくらい酷いかと言うと、カイト殿がオムライスを作るためとルカ殿からケチャップのおつかいを頼まれた筈が、おつかいから帰って来る頃にはカレーピラフの夕食がはじまっていた、というような(これは地味に堪える、とカイト殿が嘆いていた。オムライス好きには尚更だろう)。ルカ殿に言わせれば、「初音と鏡音ツインズがお腹を空かせて帰ってきて夕飯を急かすので、仕方なかったのですわ」とのことらしいが、この言葉からも、ルカ殿の中での優先順位は年少の子どもたちの方に偏っているといえるだろう。
そのように、ルカ殿は弟妹想いのよい姉なのだが、なにぶんこちらに来てから日も浅くなにかと不慣れである。近所の地理に疎く、下手をすれば複雑な路地に迷いこんでしまい危険だ(と、メイコ殿が口を酸っぱくして言っていた)。さらに、家事はひととおりだが、大雑把にことを済ませてしまいがちなのは、海外での癖が残っているのだろう(と、カイト殿がのほほんとした口調で言っていた)。
そこで、この状況である。出立前のメイコ殿からは『がくぽ、ルカたちをくれぐれもよろしくね』と念を押され、カイト殿からは『がっくん、お土産は京ナスにしようと思うけど、どうかな?』と訊かれた。もちろんふたりの問いには是の言葉を返し、今に至る。
「ところでがくぽさん、来て早々、難なのだけれど」
「リンたち、これからマスターに呼ばれてるんだよね」
「時間的にそんな遅くならないと思うけど」
「おお、そうか。では、気を付けて行ってくるのだぞ」
「わかっていると思うけれど、遅くなるようなら連絡なさいな」
「はぁい。……ふふ」
「何がおかしいんですの、初音?」
「なんだか、いまのがくぽさんとルカちゃんの感じ、カイトお兄ちゃんとメイコお姉ちゃんにそっくり」
靴をはきなおすミク殿とリン殿が、なにやらニコニコしている(後者は若干「ニヤニヤ」が強いかもしれないが)。レン殿は早々に支度を整えて、門のところで女子二人を待っている。
「? わたくし、そんなにねえさまに似ていたかしら?」
「……そういうことじゃなくて、ミク姉が言いたいのはさ、がっくんとルカ姉がデキてそうってことだと思うんだけど」
「なっ……鏡音!」
「じゃ、行ってきまーす!」
ぱたぱたと駆け出していく二人を見送ると、不意に静寂が訪れた。ルカ殿がなにやら言いたげにこっちを見た(睨み上げたといっても過言ではなかった)ので、とりあえずにこりと笑顔で応えてみた。が、すぐにぷいとそっぽを向かれてしまった。
「そうね、カムイが青いのと似ているかも知れないのはわかるわ。だってとてもぼんやりしていますもの」
……それはあまり、褒められていない気がする。
とりあえず居間に戻り、茶を出す。洋食に慣れた舌に緑茶は苦いかと思ったのだが、意外と味のわかるひとらしい(意外と、というのは失礼かもしれなかったが、海の向こうでは緑茶だけだと物足りなく感じるというひともいると聞いた)。茶菓子を出そうとして、菓子のストックが切れかけているのに気がついた。そういえば、先日鏡音の双子が来たときに、たくさん食べられてしまった。さすがに客人の分は用意しなければと思い、白地に桜が絵描かれた絵付け皿を取る。
「なかなか可愛らしいお皿ではないの。いいセンスをしているわ」
いつのまにか台所に入ってきていたルカ殿が、私の手の中の皿を見て嘆息していた。これはわたくし好みのキュートなピンクですわね、と、勝手な批評をしている。描かれた桜の色よりもやや濃い彼女の髪の色がすぐ近くに――近すぎる位置に映り、思わず、すこしだけ彼女から離れた。
「どうしたのだ、ルカ殿? 手洗いなら風呂場の隣だぞ?」
「迷ったのではありません! なにか手伝おうかと思ってきてやりましたのに、失礼な言い草ですわね!」
両手を腰に、まさに仁王立ちといった風に堂々と立つ彼女を見て、はてなんと言ったものか、と思案する。客なのだからじっと待っているのが当然というか、そうしていただけるとありがたいのだが、しかし、子どもたちが家を出てから、そわそわして落ち着かないルカ殿のことだ。きっと手持ち無沙汰なのだろう。ひとりぐらしだから、家の中に娯楽が少ないというのもあるだろう(暇なときは日がな一日家事や庭と畑の手入ればかりしているから、せいぜい娯楽といえばテレビかパソコン、あとは仕事用の音響機器くらいだろうか)。たしかに、家にいればなにかしらあり、誰かしらがいる、という環境にしかいなかった彼女には、暇のつぶし方のレパートリーが少ないのだろう。他人の家の中ならなおさらだ。
そこで、ふと思いつきの提案をしてみる。
「和菓子はどうだろうか?」
「……? 省略が多すぎてわからないわ」
「ああ、失礼」
海外の語圏では、主語や述語を省略するという概念がないところが多いと聞く。逆にいえば、省略は独特の文化をはぐくんだとも言えるのだが、文化間交流のさまたげになるということもありえるということか。すこしだけ反省して、こころもち丁寧に言いなおす。
「ルカ殿は、和菓子が好きだろうか?」
「和菓子? おせんべいとかおまんじゅうとかかしら? それなら嫌いではないわね」
「では、水ようかんというのは食べたことがあるかな」
「……きいたことはあるけれど、食べたことはないわね。どんなものかしら」
「うむ……」
水ようかんをうまく説明する形容とは、どういったものだろうか。滑らかで美しいたたずまい、やや柔らかい触感、思いのほかもったりとした舌触り、あっけなく滑り落ちるような喉ごし、舌に残る甘い後味。水ようかんのあらゆる特徴を思い出そうとして、
「あんこ味のゼリーのようなものだ」
「それは……斬新ね」
綺麗な形容は挫折した。しかし、ルカ殿の表情を見るに、この表現も当たらずとも遠からず、といったところか。おっかなびっくりというていではあるが、彼女も興味を示したようだ。
「じつは、先日客が来た時に、茶菓子が切れてしまってなあ。これからその水ようかんを作りたいと思うのだが、ルカ殿も手伝ってはくれないだろうか」
「和菓子って、家でつくれるものですの?」
「うむ。むずかしいものもあるが、作れるものもすくなくない」
もっとも、洋菓子とはすこし質の違う手間と労力(つまり「待ち」や「単純作業」の工程)が要されるが、じつは和菓子もそれほど難しいものではない。菓子作りは慣れればそれなりの趣味になるし、手作りはだいたいの客に喜ばれる(うえに、賞賛の対象になる)。
「それは素敵ね! わたくし、和菓子は売っているものしか食べたことがありませんの。いいですわ、その水ようかんとやら、手伝って差し上げてよ! 当然、味見もできるのでしょうね?」
「味見どころか、完成品第一号の試食ができる」
ルカ殿の表情が輝く。店でしか見たことのないものを、家の台所で作れると知ったら誰しも喜ぶことだろうが、彼女の喜びようは、はじめて台所に立つ少女のようで、微笑ましい。彼女の表情は、ときに成人型のボーカロイドだということを忘れるほどに幼く愛らしくなる。
「何を笑っていますの?」
「いや、生き生きしていてかわいらしいなあと思って」
「なっ」
何を言っていますの、と、玄関での時のようにそっぽを向かれてしまった。思ったままを言っただけなのだが、なにか癪に障っただろうか。
「余計なことを言っていないで、作るなら作りましょう! 初音たちも驚くことでしょうし!」
なぜか先ほどより気合いの入った彼女に促され、はて、予備のエプロンはどこに仕舞ったかな、などと考えていた。
【ぽルカ支援】 留守番と和菓子の昼下がり 【eppy.01】
今まで曲からインスパイアされたものばかり書いていたので(それが二次創作の正しい
ありかたでもあると思いますが)、すこしはオリジナルな感じをだそうと一念発起。
なのに一番の贔屓カップリングであるカイメイを差し置いてぽルカってどういうことw
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しかし、ピアプロ内の「ぽルカ」「がくルカ」の検索結果がすくなくて涙。
個人的には、いちばん見目の良いカップリングだと思うのですが。うつくしい。
うちのがっくんは天然日本男児です。ルカ様はめーちゃんと別ベクトルのツンデレ。
カップリング設定なのに、文章に甘味のすくないのがつんばるクオリティです。
いや、おやつ的な意味では、これだけ甘いものを登場させるひとも珍しいですが。
甘くならなくてやきもきしているのは、作者も一緒です!(誰にともなく
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つづくよ!
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その時のルカの様子を、メイコもカイトもハッキリ覚えている。
目を大きく見開いて、口を引き結んで押し黙ったまま、まるで彼女だけ時が止まったかのように硬直して、じっと目の前にいる人物を凝視していた。
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