それは花曇りの、と或る午后
心がころりと鳴りました。
窓を横切る垣根の向こう
桜掻き分く春疾風
心に鈴が在る事を
此の日、初めて知つたのです。
貴方想ひ 踊りませう
春に喜ぶてふのやうに
ひらり ゆらり 裾は揺れて
そう これが戀なのですね
朝顔模様の風鈴を
窓辺に吊るしてゐるのです。
透綾で隠せぬ口許に
小指でそつと紅をさして
やけに零れる後れ毛を
なおして待つてゐるのです。
貴方想ふ 夢の通ひ路
七色蛍が乱れ飛ぶ
ほのり ふわり 光は揺れて
嗚呼 これが戀なのですね
夕べは、布団を抜け出して
背すじを伸ばしてみたのです。
母が遺した姿見に
ゆふさりのやう 楓の襦袢
想ひの寝床が、ちりと痛みて
姿見の覆ひを戻しました。
海老茶袴に矢絣の
彼の子のやうな出立ちで
貴方の隣を歩けたら
届かぬ願ひの秋茜
寝ぬ傍らに月の灯と
貴方の影が、伸びました。
宵闇色の外套に
募る牡丹雪 声上げぬまゝ
往ぬる背中を、千々と山茶花
静寂の底で見送りました。
貴方想ふ 繭の間中
胸でたゆたふ枕言を
くるり くるり 糸にしのばせ
ねえ これが戀なのですか
名無しの指に
止まる天道虫
爪先を宙に向け
愛し人へと祈り込め
空に消ゆ小さき命よ
君のやうに羽ばたけるなら
四季は巡りて、窓辺から
貴方は居なくなりました。
お天道様に祝福さる花
四角ひ籠に愛される虫
生きる世界のへだたりを
これほどまでに、知りました。
貴方想ふ日々はとても
目映く胸を灼きました
だから私は今日もひとり
ありがたう さよふならと
心にしたためるのです
つらり つらり
嗚呼、これが戀なのですね。
--------キ---------リ-----(かな)-----ト---------リ--------
【1A】
それははなぐもりの とあるごご
こころがころりと なりました
【1B】
まどをよこぎる かきねのむこう
さくらかきわく はるはやて
【1A'】
こころにすずが あることを
このひはじめて しったのです
【1S】
あなたおもい おどりましょう
はるによろこぶ ちょうのように
ひらり ゆらり すそはゆれて
そう これがこいなのですね
【2A】
あさがおもようの ふうりんを
まどべにつるして いるのです
【2B】
すきやでかくせぬ くちもとに
こゆびでそっと べにをさして
【2A'】
やけにこぼれる おくれげを
なおしてまって いるのです
【2S】
あなたおもう ゆめのかよいじ
なないろほたるが みだれとぶ
ほのり ふわり ひかりはゆれて
ああ これがこいなのですね
【3A】
ゆうべはふとんを ぬけだして
せすじをのばして みたのです
【3B】
ははがのこした すがたみに
ゆうさりのよう かえでのじゅばん
【3A'】
おもいのねどこが ちりといたみて
すがたみのおおいを もどしました
【3S】
えびちゃばかまに やがすりの
あのこのような いでたちで
あなたの となりを あるけたら
とどかぬねがいの あきあかね
【4A】
いぬかたわらに つきのひと
あなたのかげが のびました
【4B】
よいやみいろの がいとうに
つのるぼたんゆき こえあげぬまま
【4A'】
いぬるせなかを ちぢとさざんか
しじまのそこで みおくりました
【4S】
あなたおもう まゆのまなか
むねでたゆたう まくらごとを
くるり くるり いとにしのばせ
ねえ これがこいなのですか
【C】
ななしのゆびに
とまるてんとうむし
つまさきをそらにむけ
いとしひとへと いのりこめ
くうにきゆ ちいさきいのちよ
きみのように はばたけるなら
【5A】
しきはめぐりて まどべから
あなたはいなく なりました
【5B】
おてんとさまに しゅくふくさるはな
しかくいかごに あいされるむし
【5A'】
いきるせかいの へだたりを
これほどまでに しりました
【5S'】
あなたおもう ひびはとても
まばゆくむねを やきました
だからわたしは きょうもひとり
ありがとう さようならと
こころにしたためるのです
つらり つらり
ああ これがこいなのですね
【民族調歌詞】こころの文【四季】
参加中のコラボ「オイル☆ショック」にて進行中の企画「民族調歌詞制作スレ」に宛てた詞です。
タイトルは《こころのふみ》と読みます。一応仮題です。
日本明治中期の深窓の令嬢を思い描きながら制作しました。
外の世界を知らない少女の、人知れず咲いて、そして散った恋。
言葉の響きを重視し、あえて文法を無視した箇所がいくつかあります。
というか文法よくわからないまま書いています。
己の力不足で時代考証もザル。
おかけで、現代っぽい表現がいくつも紛れ込んでおります。
という感じで、まだ納得いってない部分があるのでひとまず個人ページにアップ。
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