私が朝の挨拶をする時、ミクさんは、毎日異なる表情を見せる。
井戸端会議の無い今日は、窓の外を眺めながら、物思いに耽っていた。
「おはようございます。ミクさん。」
「おはよー。」
「何か悩み事ですか。」
「たまには、サイドテールにしてみようかなあ。」
「そういえば、他の髪型にしたミクさんって、見た事がありませんね。」
「だって、2つに分けた方が便利だし。」
確かにそうだ。
ミクさんは、手よりも髪の方が器用なので、1房よりも2房の方が便利なのだ。
とはいえ、たまには違ったお洒落もしてみたいですよね。ミクさん。
「少し試してみましょうか。」
「どうするの?」
「髪の片方持ちますね。」
「わくわく♪」
ミクさんの髪の房は、私の腕には抱えきれなかった。
そこで私は、大きな袋の中に、ミクさんの髪を片方入れてみた。
袋の端に手をかけて、私は袋を持ち上げた。
「準備出来ました。」
「歩いてみるね。」
ミクさんが歩くと共に、私も歩く。
動きがぴったり合った。まるで、ワルツを踊っているみたいだ。
と私が感心している間に、ミクさん、よろける。
ぺし。
髪で叩かれてしまった。
「うまく歩けない。」
「もう一度試してみますか。」
「うん。」
髪を袋に入れる。少し歩く。ミクさんよろける。ぺし。
かれこれ、20回くらい繰り返す。
原因は色々ありそうだけれど、
そもそも、3拍子で歩く所が根本的に変だ。
私はそれを指摘したけれど、ミクさん本人は良く分かっていないみたいだ。
空を飛んだりする反面、根本的な所で不器用なミクさん。
彼女の動きを見る限り、ツインテールと一体化しているとしか思えない。
「続きは明日にしませんか。」
「まだ、歩けるよ。」
ミクさんは、何を隠そう、努力家だ。
彼女が一度何かを決意すると、誰かが止めようとしても、なかなか止める事が出来ない。
彼女は、その後 39回よろめいて、私がミルク休憩を提案した所でようやく中断してくれた。
「ミルクを取ってきますね。」
私は、休憩出来た事に安心し、冷蔵庫に向かった。
ミクさんは、コップを並べていた。
この休憩が終わった頃には、彼女はきっと、別の事を考えている事だろう。
私は、冷蔵庫からミルクの瓶を取り出し、テーブルの方に顔を向けた。
そして、ミクさんの姿を見た私は、全身が石像のように固まった。
私の目は、こう告げる。危険だ。ヨーグルトは非常に危険だ。
ミルクがヨーグルトになったのではない。
休憩中のミクさんの目が、ヨーグルトのようになっている。
そして、あの目が輝きだすと、目的を達成するまでの間、ミクさんの行動は止まらなくなるのだ。
私は、ミルクの瓶を持って、ミクさんの居るテーブルの前に戻った。
そして、ミルクを注ぐ前に深呼吸して、頭の中を整理する。
ミクさんの目の前には、2つのコップが並んでいる。
そして、この休憩中は、ミクさんがリラックス状態になる時が必ず来る。
これから、私は今日の残りの時間を賭けて、運命の女神と勝負する。
下手をすると、明日の運命もこの瞬間に決まってしまう。
私は一度、目を閉じて、今のミクさんの表情を私の脳裏に焼き付けた。
私はゆっくりと目を開き、ミクさんのコップにミルクを注ぐ。
ミクさんは動かない。
私は、自分のコップにもミルクを注ぐ。
ミクさんは、まだ動かない。
私は、ミルクの瓶をテーブルに置き、自分の席に着く。
「どうぞ。」
「いただきます。」
ミクさんが1口飲む。
ミクさんの表情に変化は無い。
ミクさんが2口飲む。
彼女の表情が少し緩む。後少しだ。
ミクさんが3口目を飲もうとした所で、彼女は私に顔を向ける。
「悩み事?」
ミクさんに助け舟を出されてしまった。
「ええ。昨日の曲についてです。」
「私、相談に乗るよ。」
「実は、歌う時のイメージ色を黒にする事を考えているのですけれど。」
私は、新曲の歌い方について、思いついたアイデアを語った。
ミクさんは、そのアイデアに反論し、
彼女がミルクを飲み終わった頃には、昨日の作曲活動の続きをする事になっていた。
ミルク休憩が終わる頃、私はミクさんに関する1つの法則を手に入れた。
冷静に考えれば、ミクさんの暴走を止める事は、簡単な事だったのだ。
彼女にとって、歌う事は、他の何よりも優先順位が高い。
だから、「ミルク休憩に持ち込み」「歌う事に関する話題を持ち出す」。
それだけで、ミクさんを普通の状態に戻す事が出来るのだ。
私は、この法則を「ヨーグルトの法則」と呼ぶ事にした。
何時でも真面目なミクさんが止まらなくなってしまった時の、私達の切り札だ。
きっと、私の知らない所で、ミクさんが苦労している事もあるのだろうなあ。
私は、コップを片付けるミクさんの姿を眺めながら、私自身に向かって苦笑した。
ヨーグルトの目をしたミクさん
「ミクさんの隣」所属作品の1つです。
まとめ読みしたい方は、ブックマークなどからどうぞ。
ブックマーク = http://piapro.jp/bookmark/?pid=to_dk&view=text&folder_id=173153
to_dk作品紹介(ブログ) = http://tounderlinedk.blogspot.com/2010/07/blog-post_4264.html
コメント0
関連動画0
オススメ作品
六畳間にひとつ/初音ミク
くだらないと 思っていた
在るがままに 軋んでいた
擦り減る今を 抱えたその全てが
僕の選択だ
下も向けず 歩いていた
眩んだまま 返ってきた
酷く鮮やかな景色全部が
僕の選択だ
冷たくなった水槽と 勘違ったままの扇風機 どこへ置こうか...六畳間にひとつ 歌詞
かんみ会長
運営ぐるみで私をいじめたあいつらを
生涯許さない
でもあいつらって誰なんだろう
どこにいるんだろう
だれでもない
どこにもいない
存在しえないひとたち
みんな一緒だからできた集団心理がつくった幻想
だから
全部消えてくれればいのに...愛面
狐雨
決められた道か無い自由に
本当に障害は無いだろうか
【A】
向こうからは 声が聴こえない
思い付くだけ あがいてみても
遮る障害 行く手を阻む
望みは叶わず 自分を呪う
【B】
目の前の真実は妄想なのか?
本当に選択は現実なのか?...オウンウォール(仮)
つち(fullmoon)
命に嫌われている
「死にたいなんて言うなよ。
諦めないで生きろよ。」
そんな歌が正しいなんて馬鹿げてるよな。
実際自分は死んでもよくて周りが死んだら悲しくて
「それが嫌だから」っていうエゴなんです。
他人が生きてもどうでもよくて
誰かを嫌うこともファッションで
それでも「平和に生きよう」
なんて素敵...命に嫌われている。
kurogaki
今、僕の手の中で熱くなってく
愛とか理想について。
西の空に浮かぶ一等星に
目を凝らしながら
正しさも間違いも全部
まだわからなくて
日和見なまま覚束ない道を征く
どうなったってもういいや
なんて割り切っちゃって
ハイファイな全能感で生きてたいけど...暁月と絶望 歌詞
西憂花
8月15日の午後12時半くらいのこと
天気が良い
病気になりそうなほど眩しい日差しの中
することも無いから君と駄弁っていた
「でもまぁ夏は嫌いかな」猫を撫でながら
君はふてぶてしくつぶやいた
あぁ、逃げ出した猫の後を追いかけて
飛び込んでしまったのは赤に変わった信号機
バッと通ったトラックが君を轢き...カゲロウデイズ 歌詞
じん
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想