South North Story 特別編
秋口の出来事
北海道大学のキャンパスは、流石旧帝大というだけあって、相当に広い。
リンとリーン、二人の妹と別れてから、一月余りの時間が過ぎていた。夏季休暇はとっくに終わり、後期授業の履修届など、何かと忙しい秋口のことである。
そして鏡蓮は、教務課へと履修届を提出し終え、少し疲れたような吐息を漏らしてキャンパスの椅子に腰かけた。
今頃、リンは何をやっているのだろうか。
ふと、そう考えたのである。
ミルドガルドに大戦争が起こる、という予感はあまりにもぼんやりとしたもので、その戦いに勝つのか負けるのか、今の蓮にはどうにも想像がつかない。そもそも、なんとない未来を予知する能力はこの世界に来てから手に入れたものであったし。
僕がいれば。
そう考えて、一体何度もどかしい想いを抱えたことだろうか。
僕さえいれば、リンを安全な場所に隠して、自ら先陣を切って戦えるというのに。
「お疲れの様子ね、蓮。」
思わず溜息をついた蓮に、話しかけてきた女性がいる。蓮よりも一学年年上の、聡明な女性であった。
「先輩。お久しぶりです。」
本当ね、と女性は小さく笑った。
「前期試験以来かな?」
「そうなりますね。」
蓮はそう言いながら、ベンチの端へと体をずらした。その隣に、女性が柔らかく腰を下ろす。まるで優雅に、可憐に咲く牡丹のように。
「例の妹には会えたの?」
女性が言った。蓮の瞳を、しっかりと見つめながら。
「お陰さまで。先輩の助力があってこそです。」
蓮は恐縮しきり、という様子でそう言った。
「でも、すごく不安そうね。」
まるで心理を見透かされているような言葉であるのに、なぜか嫌な感覚はない。素直に蓮はそうですね、と答えた。
「やんちゃな妹ですから、無理をしないものかと。」
「大丈夫よ。」
何かを確信するように、女性はそう言った。
「彼女は強い娘よ。ただ少しの誤解があっただけ。」
「そうだと、いいのですが。」
「それとも、久しぶりに会った妹は、以前とまるで一緒だったかしら?」
女性が訊ねた。興味津々という様子で。その言葉に、蓮は即座にいいえ、と答える。
「まるで見違えていました。甘えん坊な所は相変わらずでしたけれど。」
「なら、大丈夫よ。」
何かを確信するように、女性はそう言った。
「本来なら、先輩にも会って欲しかったのですが。」
「そうしたら、彼女は度肝を抜かされるでしょうね。」
楽しげに、女性は笑った。
「それも面白かったかも知れないわ。」
「余計に混乱してしまいそうですけれど。」
蓮もまた、つられるように小さく笑った。
その時、ひやりとした風が二人の間を吹き抜けた。北国らしい、少し早い秋風であった。
寒いね、と女性は言った。
「もう、秋ですから。」
蓮は答えて、透き通るように高い上空を見上げた。雲一つない、美しい空だった。
「そうだ、蓮君、忘れていたわ。」
暫くして、何かを思い出したように、女性が言った。なんでしょうか、と訊ねた蓮に対して、女性が差し出したものは小さな、丁寧に包装された小さな贈り物であった。
「お土産、夏休みのね。」
少し恥ずかしがるように、女性はそう言った。少しの驚きを隠さないままで、蓮はその包みを受け取る。
「開けてみて。」
言われるままに、蓮は包装紙を丁寧に、万が一に破けないように細心の注意を払って、それを開いた。現れたものは。
タイピンであった。その中央には、白く輝く宝石がつけられている。
「真珠、ですか。」
蓮は驚きを隠さないままで、そう言った。
「ええ。いつまでも覚えていて欲しいから。その・・出会った時のことを。」
そう言って、女性は恥ずかしがるように頬を染めた。あれほど気丈な女性なのに。
思わず、蓮は思った。
今日はどうしてか、格別に可愛らしい。
「ありがとうございます、先輩。」
思わず表情を崩して、蓮は言った。
「いつか、必ずお礼をします。」
続けて、蓮はそう言った。その言葉に、女性が少し、悪戯っぽい笑みを見せた。
「なら、誕生日プレゼントでも期待しようかしら。」
はい、と答えて、蓮は直後に息をのんだ。
誕生日、そうだ、忘れていた。先輩の誕生日は八月の終わり。
「ご、ごめんなさい!先輩、その・・!」
「もう、忘れていたでしょう?」
わざとらしく、女性が不貞腐れる。
「は、はい、その、すみません。」
蓮には珍しく、しどろもどろになりながらそう答えた。
「まぁ、いいわ、のんびり待っているからね。」
女性はそう言うと、ゆるりとした足取りで立ち上がった。
そして、蓮に向かって口を開く。
「でも、そろそろ。」
私の事も見て欲しいな。
秋風に乗って、微かに耳に届くような小さな声で、女性は言った。
「でも、僕は。」
貴女の想いに答えてあげたい。僕だって、貴女と一緒にいたい。でも、その資格は、僕にはない。
蓮は、そう思った。
「でもじゃないわ。」
女性が、言った。普段通りに、気丈な姿のままで。
「蓮君、君はそろそろ幸せになってもいい頃だよ!」
そう言って、女性は笑った。まるであの時のように。
僕が彼女に戦いを挑んだ、あの時のように、まるで若草のように純粋な笑顔で。
やがてカモシカのような軽い足取りで彼女が立ち去り、蓮は受け取ったばかりのパールを見つめながら、小さく呟いた。
「ありがとうございます。」
未来先輩、と。
South Nroth Story 特別編 ―秋口の出来事―
みのり「まさかの番外編。」
満「もう書かないと思ってた。」
みのり「ということで、皆様すっごーくお久しぶりです!」
満「一応近況報告をしておくと、応募用のオリジナル作品に集中していてweb投稿が止まっているところだった。」
みのり「ラノベレーベルの大賞に応募しているの。上手くいくのかは分からないけれど。」
満「ということで本当に久しぶりです。ってか皆覚えてくれているものか・・。」
みのり「そうだよねぇ。」
満「とりあえず作品の補足をしておくと、SNSが終わって暫くしてからの事だ。」
みのり「そうよ、満はすぐに東京に帰っちゃうし!」
満「仕方ないだろ・・。」
みのり「いろいろ言いたいことがあるけど字数制限があるから後でね!」
満「・・はい。」
みのり「さて、作品自体の空想妄想はもう読まれた方にお任せします。自分はこう思った!とかあったらぜひコメント下さい。どんな印象なのか教えていただけると非常にうれしいです!」
満「こういう書き方はレイジもあまりしないからな。どんな反応があるのか興味があるらしい。」
みのり「ということで皆様お久しぶりでした!また会う日まで~!」
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