(まぁ、見るだけだからすぐ終わるよね。それで一回だけっていう今日の約束は果たせるわけだし。)
流石に引きずられながら歩き続けるのも嫌になってきた私は、そう前向きに考える事にする。そしていまだ私の腕を離そうとしない初音さんに向かって
「あの、もう逃げないからいい加減離してくれないかな? すごく歩きづらいんですけど…。」
と力無く言った。しかし彼女は
「ダメ! まだ油断できないからこのまま行くよ!」
と問答無用で私の提案を却下して歩き続けるのだった。
そんなやりとりがしばらく続いていたが、どうやら目的地に着いた様で、彼女はまだ私の腕を掴んではいるものの引きずる事をやめて立ち止まった。そして、
「部長! 連れてきましたよー!」
と中に居る人物に声を掛けながら部室である音楽準備室のドアを開ける。
中に居た人物(どうやら部長らしい)は彼女と私に気付くと、
「ひょっとして隣の子が例の?」
「そうです。菊音さんです!」
といった言葉を彼女と交わした後おもむろに座っていた椅子から立ち上がり、私に向かって柔らかく微笑みながらあいさつをしてきた。
「はじめまして、菊音さん。あなたのことは初音さんから聞いてるわ。彼女ったら、『即戦力見つけたから絶対スカウトしてくる!』って張り切ってたんだから。私は三年の《巡音 流歌》。この合唱部の部長を務めさせてもらってるの。宜しくね。」
「菊音 奏です。はじめまして。」
自分も簡単にあいさつを済ませた後でじっくり先輩を見ながら、なるほどな、と私は一人納得していた。彼女を見た瞬間、以前に初音さんが言っていた『今年新しく入った生徒が何故か男子ばかり』という現象の理由がなんとなく分かったからだ。
その理由とは、いわゆる“男子の下心”。
巡音先輩は、瑠璃色の澄んだ瞳に腰のあたりまであるサラリとした長い桃色のストレートヘアーとモデルの様な洗練されたスタイルを持ち、しかも優雅な物腰と落ち着いた雰囲気からか深窓の令嬢の様な気品すら醸し出している、そんな綺麗な人だった。
新入生に向けて行われる各部活の勧誘イベントを見た年頃の男子が、巡音先輩の様な綺麗な人が部長で、その上その時先輩と一緒に部活のアピールをしていただろう初音さんという文句なしの美少女までいる、という部活に興味を持たないわけがない。だから、彼女達目当てで入部を希望した男子生徒もかなり居たのではないか、という事が容易に推測できたのである。
私がそんな事を考えていると、後ろからドアの開く音と共に元気一杯な女の子の声と、それとは正反対の落ち着いた男の子の声が聞こえてきた。
「こんにちはー!」
「どうも。」
後ろを振り返ってみると、太陽の様に輝く金髪と真夏の空の様な明るく碧い瞳を持つ、よく似た見た目の少年少女が立っていた。顔立ちもそっくりで、違うのは髪型ぐらいだ。女の子は肩までのショートカットで前髪をピンで留めており、頭上には大きなリボンが揺れている。一方、男の子の方は女の子と同じぐらいの長さの髪を後ろで一つに括っている。ただ、姿は似ていても先程の声と雰囲気から、女の子の方は笑顔が良く似合う活発そうな感じ、男の子の方は可愛い顔だがどこかクールな感じ、といった全く違う印象を受ける。
私が後ろを振り返ったので、たった今入ってきた二人と丁度目が合い、見つめ合う形になってしまった。そのため、私は慌てて視線をそらす。
二人はそんな私を見てお互い顔を見合わせた後、自分達より先に来ていた先輩と初音さんに向かって
「部長、先輩、この人は?」
「見かけない人だけど。」
と息の合った質問をする。
「彼女は菊音さん。この部の新しい仲間だよ!」
疑問を投げかけた二人に対してそう答える初音さん。
「いや、入部した覚えないから。見学で、今日一回だけだから。」
あまりにはっきり言い切られたので思わず反射的にツッコミをする私。
しかしそんな私を気にせずに二人は
「そっか、仲間になる人なら自己紹介しないとですよね。アタシは《鏡音 鈴》です。はじめまして。宜しくお願いします!」
「俺は《鏡音 蓮》です。はじめまして。」
とあいさつをしてきた。その名前を聞いて、私はあいさつを返す事すら忘れて驚く。
「あれ、鏡音ってもしかして…。あの天才双子の!?」
そう、二人はこの春弱冠14歳にして飛び級で高校に入学してきた事が話題になった、天才双子だったのである。有名なので名前だけは聞いた事があったが、合唱部に所属していたとは知らなかった。
「そうとも呼ばれてます!」
「そんな事もありましたね。」
私の言葉にどこか得意気に言う鈴ちゃんとあくまで冷静な蓮くん。どうやら最初の印象通り、二人の性格は全く違うようだ。
自己紹介を終えた後、私を置いて話しこむ三人だったが、その内容は
「もしかして、この人が先輩の言ってた人ですか?」
「それならアタシ、先輩おススメの歌声聞いてみたーい!」
「それ良い! 皆にも聞いてもらいたいと思ってたし!」
「じゃあ早速、部長に聞いて…。」
といったもので、私にとっては最悪の方向に流れが向かいつつあった。
「そ、そんな事より皆の練習が見たいな! ほら、私今日は見学に来たわけだし、部活の内容も見たいし、ね!?」
何とか話をそらそうと慌てて会話に混じるが、すでに盛り上がっている三人には相手にされない。
なんだか雲行きが怪しくなってきたので、私は藁にもすがる思いで巡音先輩の方を見る。部長は彼女だから最終的な決定権も彼女にあるはず、と考えたからだ。
(先輩、お願いだから許可しないで下さい!)
先輩の方を見ながら必死に目で訴えつつ祈る私。しかしその願いは届かなかった。
「部長! 部長も彼女の歌声聞きたいですよね?」
という初音さんの言葉に
「そうね、私もちょっと聞いてみたいかも。もちろん菊音さんが良ければ、だけど。」
と言ってにっこりと満面の笑みで私の方を見る巡音先輩。
私はその笑顔を見て苦笑しながら
「はぁ…。分かりました、良いですよ。やらせて頂きます。」
と思わず溜息をつきつつ言った後、心の中で愚痴をこぼす。
(うぅ、反則だ。この笑顔相手に断れる人が居たら見てみたいよ…。)
ああ、なんだかどんどん状況が悪化していく様な気がする。あの平和な日々はもう戻って来ないのだろうか…。
闇を照らす光 4 ~見学だけ、のはずが~
毎度おなじみキャラ設定からどうぞ。
巡音 流歌:三年生で合唱部の部長(年齢以外のデータは公式と一緒)。大人っぽい雰囲気で、後輩思いの優しくて綺麗なお姉さん。
おっとりしているが、その無邪気な笑顔の破壊力は抜群である。
鏡音 鈴:弱冠14歳で高校に飛び級入学した天才双子の姉(データは公式と一緒)。とにかく元気一杯な女の子。面白そうな事には目がないのでたまに暴走するが、その度に蓮がストッパーになっている。
しかし、結局最終的には蓮を巻き込んで、二人で何かしでかす事もある。
鏡音 蓮:弱冠14歳で高校に飛び級入学した天才双子の弟(データは公式と一緒)。可愛い見た目に反して結構クール。鈴といつも一緒にいるので、自然とストッパー役になったためだと思われる。
しかし、なんだかんだで鈴には弱く、最終的には押し切られて協力させられる事もある。
やっと当初の予定内容の半分程度までいった…。こんな長くなるはずじゃなかったのに。ホント切実に、文才が欲しいと感じる(T-T)
目指せ完結、ファイトだ自分!
最後までお読み下さり、ありがとうございました!
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