気がつけば、誰かの腕の中にいた。朦朧とする意識の中、最初に見えたのは、金色の髪と白い肌。
「リン……?」
また彼女に助けられたのだろうか。ぼんやりと、歌うことも忘れてその顔を見ていると、金髪の少女は、そっとミクの頬に口づけを落とした。
「うん」
悲しいほど優しい声が、耳に響く。
急に意識が鮮明になり、魔力と体力が一瞬で頬から全身へ広がっていく。
驚いて飛び起きると、目の前に優しく微笑むリンがいた。リボンをはずしてはいるけれど、紛れもなくリンの姿。自分を抱きしめている細い腕も、隣に見える華奢な肩も、多少筋肉質ではあるけれど、間違いなく女の子のもの。ほんのわずかな胸のふくらみさえ感じる。
だけど、その柔らかく包み込む微笑みと声は、泣きたくなるほど懐かしい。
「男じゃなくて、ごめんね」
「レ、ン……」
分かってしまった。
彼女が、彼だったのだ。彼女の中に、彼がいた。
やっと会えた喜びと、どうしようもない絶望。たとえ人格が違おうとも、その身体は少女の、リンのもの。子を成せない、性別が人間ほどは恋愛の障壁にならない種族でも、この恋が実ることは最初からなかったのだ。
涙を振り払い、立ち上がる。こんなことをしている場合ではない。歌わなければ。
結界を見ると、今にも消えそうになっていたその光は、いつの間にかまばゆいばかりに輝いていた。
「これが、貴方の力なの……?」
彼が力を使っているところを見た者は、長い歴史の中で一人もいないという。その理由を、理解した。
彼の力は、自ら奇跡を起こすことではなく、「起こさせる」こと。自らの魔力を、他の「魔族」に分け与えること。
だから、彼はかつて、ミクに言ったのだ。君が望むなら、と。
彼自身の望みは、何一つとして叶うことなく。
しかし何故、とミクは不思議に思ってしまう。これほどの力があって、何故革命は失敗したのだろう、と。
「そう、僕は他人に力を分け与えることが出来る。でも、あの子は――リンはずっと、死に場所を探して彷徨っていた。だから僕も、ほとんど力を使えずにいた」
リンの笑顔を思い出す。死に場所を探して。あまりにも違うイメージに、理解が追い付かない。
だけど、レンのこの力を見れば、そしてリンがその身体のオリジナルであるならば、悲惨な人生を送ってきたのであろうことは想像できる。
「リンは、君と出逢って、今やっと、生きようとしてくれてる。……感謝してる」
少女の小さな手が、ミクの頬に触れる。かつては大きく感じたはずの、白い手。
力が共鳴して脈動するのを感じた。最初に、窓越しに感じた震え。あの中に、この脈動があったのかもしれない。
「リンは、記憶と一緒に、魔力の使い方も、全部僕に渡してしまったから……」
ミクは、喉の奥からこみあげてくる、熱いものを感じた。これまで感じたこともないもの。歌の力。
「……最後に出て来たのが、僕の方で、ごめん」
-----
やがて、夜が来て、朝日が昇る。
「軍人たちは、全員眠ってた」
結界の外の様子を見て来たルカは、物見台の下、紅い日差しに照らされた二人の少女の姿を見つけた。
世界中に響き渡る、少女の歌声。澄み渡る空を駆け抜ける音色。少女の身体も、朝日の中で自ら光輝いているかのように見えた。
「ミク……?」
ルカの声が聞こえていないのか、ミクはひたすら歌い続ける。ルカは、その腕の中に目をやり、目を見開いた。
ミクにしっかりと抱き寄せられた、金髪の少女の姿。どこか中性的な印象の、幼い子ども。彼女は、淡く輝いて。
――その瞳は、かたく閉ざされていた。
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見えない恐怖みたいなのあったんだけど
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mikAijiyoshidayo
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じん
おにゅうさん&ピノキオPと聞いて。
お2人のコラボ作品「神曲」をモチーフに、勝手ながら小説書かせて頂きました。
ガチですすいません。ネタ生かせなくてすいません。
今回は3ページと、比較的コンパクトにまとめることに成功しました。
素晴らしき作品に、敬意を表して。
↓「前のバージョン」でページ送りです...【小説書いてみた】 神曲
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