○中学校の教室
語り「私は、昔から彼が好きだった…。
幼馴染で同じクラス。
幼い頃から真っ直ぐでどこか堂々としてた。
なのに、私にだけは「こいつに近づいたら、たたられるぞ~」なんて意地悪を言う。
私の家は町外れに建つお寺で、墓地がすぐ隣に在るから、彼には格好のネタになってた」
○砂利道
お寺の塀沿いに歩いてる。
墓地の方から子供のかぼそい泣き声。
○墓地の風景
中央より奥に、高い菩薩像。その菩薩像を境に小さな地蔵が十以上並んでる。
どれも長年の風雨にさらされ劣化して損傷が激しい。苔の生えた地蔵も。
語り「墓地には、どの墓石よりも、ひときわ高い菩薩の石像がある。
伏せ目が妙にセクシーできれいな面立ちをしてる」
○墓地を背景にした男の子の影とか
男の子「ママ…どこ?」
語り「泣いてたのは小学校に行き始めたぐらいの男の子だった。
透ける薄い体から、一目でその子が幽体だと分かった。
でも大きな涙目と目を合わせた時…なぐさめたくなって、父から聞いた話しを持ち出した」
ゆかり「今のママは、あの菩薩様よ。今も、浄土に行っても、あなたを見守って
くださるの」
語り「男の子は、じっと菩薩像を見上げてから、明るい表情で言った」
男の子「ぼく、こんなの作ってみたい!」
ゆかり「そっか。きっと、作れるよ」
語り「そう言って私はうなずいて手を振った」
ゆかり「じゃあね!」
男の子「お姉ちゃん、この菩薩像に似てるね…」
語り「なんだか、ちょっと…嬉しかった。
欠けた彫刻刀があったことを思い出して、机の引き出しから出してすぐに戻り、
菩薩像の足元に一本の彫刻刀を供えた。
ゆかり「どうか、あの子に彫刻の才能を授けてあげてください…」
○和室
語り「夕食の時に両親に今日の出来事を話すと、住職の父は怪訝な顔をしてた。無口で普段から何を考えてるか分からない」
○闇
カッ…カッ…カッ。
なにか、固い物に、刃を立てているような、彫っているような音。
語り「なんの音だろう…私の足元の方からだ。
下を見ると…。
あの男の子が私の顔を仰ぎ見て言った。
男の子「お姉ちゃん、菩薩像にほんと似てるよ…だから」
語り「男の子は口を歪めて笑った」
男の子「…だから、お姉ちゃんを彫れば、簡単に菩薩像が作れるよね?」
(総毛立つような、ショック音)
(彫る音)カッカッ…
語り「夢の中だから?少しも痛くない。
夢だから?逃げようとしても動けない…。
だんだん、男の子の頭が私の顎に近づいた。膝から下を彫り終ったようだ。
…本当に夢なの?
そう思った。
だって、あまりにもハッキリと男の子が見える。
頭のつむじが2つあることさえ…。
ねぇ。
これが夢じゃなかったら、どうしよう?
お寺の娘が菩薩像になってたなんて?両親はどんな恥かくだろう…。
それに、彼に逢えなくなっちゃう。
まだ、好きって、ひとことも言ってない…!
いやっ!
逃げなきゃ!
なのに…体は恐怖で冷気に覆われ、なおさら身動きを阻んでいた。
けれど。
腿に刺さろうとする彫刻刀の先端が見えた瞬間、私は、喉が裂けるほどの悲鳴をあげた―――」
○和室
語り「悲鳴は家中に響き渡ってくれた。
私は泣きじゃくりながら飛んで来た両親に今見た夢を伝えた。
そして…明け方になってから、メールで正直に彼に想いを告った」
ゆかり「大好き…。大好きなの…」
○墓地
語り「数日後、墓地の一角に埋められていた児童の遺体が発見された。
父は、一箇所だけ荒らされた植木が気になってたそうだ」
○部屋の一室、またはキッチンとか
語り「あの男の子は、私と彼にとってキューピットだ。
あれから…彼と結婚した私は今、赤ちゃんを授かってる。
言い表せないぐらい、幸せ…。
だけど、妊娠ってこんな感じなの?
おなかが大きくなるほど、体の中が固くなってゆくみたいなの。
赤ちゃんの鼓動は、どこかで聞いた、寂しい音に………似てる…」
(彫る音)カッカッ…カッ……
/////// END
小説形式は「前のバージョン」に遺してあります。
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