【第九話】TALK

　リンとメイコ姐がリビングを出るのを確認し、俺は大きな溜息を吐いた。

　「…はぁ……」

　「どうしてそんな大きな溜息吐くの?嫌なことでもあった?」

　いつも通りの優しい口調で、俺に訊くのは、カイト。

　「いや、別に……」

　「まぁた、そうやって。レンくんがそういう時は大体何かあるんだよ、知ってる?」

　俺は何も言えなかった。
図星だし、自分でも自覚してることだし。

　「リンちゃん、すっかり、僕のことを『運命の人』と思ってるみたいだよ」
　
　そう話を切り出して、手際良く、俺の傷を治していく。

　ナイフを横にして、側面を傷にあてる。
「癒」と、呟いて、ナイフを傷から離すと、もう傷はない。
かさぶたさえも残らない。

　「よかったじゃねーかよ。そんで、カイトもリンのこと好きになれば、両想いじゃん?万々歳だろ」

　相変わらず、俺は可愛くない。
男だから可愛さなんて必要としてないけど、つい、憎まれ口を叩いてしまう。

　どうにかしようにも、どうにもできない。

　「ほんとに、そう思ってるの……?」

　「……っ…」

　「…素直だね。レンくんのそういうとこ、嫌いじゃないよ。まあ、僕もちゃんと、あの簪は僕のじゃないって言えばよかったんだけど…リンちゃん訊いてなかったからなあ……。レンくんからちゃんと、言ったほうがいいんじゃない?あれは、れっきとしたレンくんのモノなんだから」

　「タラタラお兄ちゃんぶってんじゃねーよ」

　「……グミに似てきたね…。やっぱりレンくん、素直じゃないや」

　うるさいな。
そんなのわかってるよ。

　「カイト先、部屋戻ってろよ。俺喉乾いたから、なんか飲んでく」

　「そっか、じゃあ、おやすみ」

　カイト１人が出て行っただけなのに、部屋は急に静かになった。

　世界に俺しか存在してないみたいだ。



　―――コンコン――

　

　リビングのドアを、誰かがノックした。
小さな音が消えて、数秒してから誰かが入ってきた。

　金髪の、ショートヘア。

　「どうしたよ、寝てたんじゃなかったのか?」

　おずおずとリビングのドアを閉めた、リン。

　「え…、と。お礼…、お礼、言いたくて……。」

　何のお礼だよ。
俺は何にもお前にしてないし。

　「……何」

　だいぶ間を空けてから、リンは話し出した。


　「―――あの、後、一番最初に…、しかも、優し…言葉かけてくれ、たの、レンだから……。カっカイトさんとのお話も…終わったみたいだし…明日じゃ……忘れそうだか…ら…、えと……あり、がと」

　「……何それ」

　「えぇ!!??」

　ほんと、何それ、だよ。

　カイトのこと『運命の人』と思ってて、好きなくせして。
俺にそんな顔、するなよ。



　あの簪は、俺のなのに、気付きもしなくせに。



　ありがとなんて言うなよ。







　どんな顔したらいいか、わかんないから……。