「わぁ、可愛いーっ! ほら、見て!」
並べられた商品を見てははしゃぐあたしに、げんなりとしてついてくるレン。
高熱にうなされているレンに無理やり、街へ出かける約束をさせて、今日ようやくのデートとなった。少し離れた場所を、何食わぬ顔してカイトが歩いている。一応、用心棒だ。
「なんなのレン、もっと楽しもうよ! 街に来るのなんて、三年ぶりなんだよ!」
あたしだって、心配じゃないわけじゃない。どこから狙われているのか分からないし、いつ体調が悪化してもおかしくないし。
でも、王宮に閉じこもっていたら、もっと悪くなっていくだけのような気がした。一番好きだったはずのあの場所が、もう嫌いになってしまいそうだった。
「あのなぁ……」
レンは、嫌そうに自分の服を見た。
まだスーツだのコルセットだのは生まれる前の時代、男女ともに基本はチュニックなのだけれど……まぁ、簡単に言えば女装。それがおそろしく似合っている。服を選んだミク姉も、ものすごく満足げだった。
「ほら、行こう!」
レンの腕を抱きしめて、引きずるように歩いていく。
なんとなくレンの視線を辿って、その先に自分の腕輪があることに気付いた。
「分かった! レンにもおそろいの腕輪を買ってあげよう!」
「はぁ!? ちょっと、おい!」
あたしは、勝手にそう行って、レンを装飾品の店の前に連れていった。
「可愛いね。双子さん?」
気さくな店主が、そうきいてくる。
「はい。こっちが妹です」
あたしがレンを指してそう言うと、レンは嫌そうに、しかし否定できずに黙りこむ。自分の服を見下ろして落ち込んでいるレンがちょっとかわいそうだったけれど、構わずに追い打ちをかける。
「この子に何が似合うと思います? あたし、これもらっちゃったんです」
店主に、何気なく腕輪を見せる。店主が驚いて目を瞬かせた。当然だ、これは仮にも、この国に次の王が生まれた記念品だったのだ。そこらの街娘が持っているようなものじゃない。
「それはちょっと……うちでは、扱ってないですね」
自然と、店主の口から敬語がもれる。何やっているんだろう、とでも言いたげに、レンが溜息をついた。それを軽く睨みつけてから、並べてある商品を見る。
「あ、これ可愛い」
どうかな、とレンに見せると、その顔がわずかにひきつった。金細工に桃色の石がはめ込まれた、綺麗で女の子らしいデザインの腕輪。
「あのさ、なんか、大事なこと忘れてない?」
「えー、なんのことー?」
わざととぼけた顔をして、レンの左手に無理やりはめてみる。
「んー?」
留め具が複雑で、あたしはうまくはめられずに試行錯誤する。
レンが盛大な溜息をついて、貸せ、と言って奪い取った。右手だけで、器用に自分の左手に腕輪をとめる。そして、それを空にかざすようにして、目を細めて眺めた。
「似合うんじゃない?」
「……それで褒めてるつもりかよ」
だって、男物似合わないことに気付くより、女物似合うことに気付く方が、ショック小さいでしょう、多分。と、口には出さなかったけれど。
「それでいいのかい? そんなに高い石じゃないよ? 金も、もっといいのあるよ」
店主が申し訳なさそうに言うけれど、あたしは大きく頷いた。
「これが似合うから、これでお願いします」
複雑な表情のままのレンに笑いかける。
「ま、おそろいじゃなくなっちゃったけどね」
本来の目的は果たしていないけれど、まぁ別にいっか。あたしが抱きつくと、レンはやっと、ほんの小さく笑ってくれた。それだけで、あたしは泣きそうになった。
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王宮に無事に帰ってきて、ずっと影から見守ってくれていたカイトを、一応ねぎらう。背中をばんばん叩きながら。
「なんなんだろこの扱いー」
涙目でカイトが救いを求めたのは、メイコ姉だった。それを、馬鹿みたい、とでも言いたげに見下しているルカ姉と、苦笑しながらレンに服を渡しているミク姉。
「だってカイトだもん」
メイコ姉はそう言い切って、ねー、とルカ姉に同意を求める。無言で頷くルカ姉を見て、カイトはその場に崩れ落ちた。ご愁傷さま。
「本当に、酷くないかこの扱い」
「男なんてそんなものよ」
メイコ姉の追い打ちに、レンも目をそむける。ただでさえ、すっごく可愛く女装してるのに。
「めーちゃん、君は僕の婚約者じゃなかったっけ?」
カイトの一言に、あたしは「はぁ!?」と叫んだ。
メイコ姉もルカ姉も普通にしている。レンでさえ。知らなかったのは、あたしだけ、ということだ。
「なんでなんで!? 政略結婚!? カイトごときとっ!?」
メイコ姉の肩を揺らして問うと、「ごとき」呼ばわりされたカイトはもう、泣きだしてしまった。
「いや、一応、仮にも重臣なわけよ」
「うそー、やだぁ、カイトがお兄ちゃんなんていやーっ!」
一通り叫んでから、同意を求めてレンの方を見る。
でも、レンは、あんなに脱ぎたがっていた服を着替えもせずに、じっと部屋の隅の方を見ていた。そこには、暗い顔をしたミク姉がいた。
そういえば、と思い出す。何やら、親しげだったミク姉とカイトのことを。
カイトがメイコ姉の婚約者なのだとしたら、あれは一体、どういうことだったのだろう。
ルカ姉は、口止めされている、と言った。それは、ただならぬ関係なのだと言ったのと同じだ。
そして、もうひとつ思い出した。
ミク姉には、婚約者がいた。それをお父様に破棄させられて、強引に妻にされてしまったのだ。
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作詞作編曲:まふまふ
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