―キーン コーン カーン コーン、キーン コーン カーン コーン…―

 一日の学校生活の終わりを示すチャイムが鳴り、担任がホームルームの終わりを告げる。と同時に、ある生徒は急いで部活へ向かい、またある生徒は友達同士で「帰りどこ寄る?」「カラオケなんてどう?」などと楽しそうに喋りながら帰り支度を始めている。
そんな生徒達を横目に見ながら、特に急ぐ用事も無い私は、窓際の自分の席で頬杖をつきながらしばらくぼんやりと窓の外を眺めていた。

 運動部が練習を始めた校庭の周囲では、満開を過ぎて散り始めた桜の花弁達が、地面に淡いピンク色の絨毯を作り上げている。
開いたままの窓からは爽やかな風が入り込み、どこからか連れて来た草花の匂いと共に私の頬と髪をくすぐる。
今は、世間では『新しい事が始まる季節』なんて言われたりもする春真っ盛りの四月。気候も、暖かなものから暑いと感じるものへと日々移り変わっている。

 私は一年前とあまり変わり映えしないその光景を眺めながら、たとえ私がどんな風に過ごしたとしても季節は以前と何も変わらず巡って行くんだよね、なんて事を考えつつ、少し物思いにふける。

 【あの決意】から一年と少し、私《菊音 奏(きくね かなで)》は高校二年生になっていた。

 一人で過ごすために人との関わりを最低限まで断つと言っても、全く他人と話さないわけではない。挨拶は普通にするし、何気ない雑談を振られた時はちゃんと相手をしている。何も応えないのは、私に話しかけてきてくれた人に失礼になるからだ。
いくら私が人との関わりあいに疲れたと言っても、礼儀知らずにはなりたくない。
ただ、必要以上に深い関係になりたくないだけなのだ。だから部活にも参加していない。(この高校は部活動の入部が強制ではなく希望制。それを知った時に私が、助かった、と心から安堵したのは言うまでもない。)

 礼儀知らずになってしまわぬ様に気を付けながら、私は自分に課した【ルール】(『自分を出し過ぎない』、『目立つ様な事はしない』、『もう二度と他人と必要以上に関わらない』)に従って過ごしていく事を実行した。
分かりやすく言うなら、“演じる”事にしたのだ。

 まず、引っ込み思案で喋るのが苦手な事以外特徴なんて無い性格、一人で過ごす方が好きそうな人、といったいくつかの設定を決めておく。
そして周りにそれが私のキャラだとして認識させる様な行動をとる、といった感じだ。

 こうして私は自分で決めたキャラの仮面を被って過ごす事で、周りに『誘ってもツマンなそう』というイメージを定着させる事に成功した。
入学から一年以上経って仲良しグループが決まっている今では、積極的に誘ってくる生徒もいない。せいぜいクラス替えで新しく一緒になった子が顔見せ程度に来ただけだ。
最初から興味を持たれなければ、それ以上の関係になる事も無い。だから、誰に迷惑をかける事無く自分だけの時間をきままに過ごせる。まさに私の理想とした状況であり、我ながら上手くいったな、と満足している。

 最初こそ一人で居るのを寂しいと感じる事もあったが、どうやら元々私にはこっちの方が性に合っていたらしい。今では慣れたもので、逆に一人で過ごす時間が心地よいとすら感じている位だ。昼食を食べ終えた後、人が少ない図書室に行って一人静かに本を読む時間なんて、至福の時になりつつある。

 「さて、と。私も帰るとするか。」
窓の外を眺めるのをやめると、伸びをしながら誰にともなくそうつぶやく。
いつの間にか教室には夕日が差し込み、周りには誰も居ない。どうやら思ったよりも長い時間ぼーっとしていたようだ。
私は窓を閉めた後に帰り支度をして電気を消し、学校を出た後は、鞄から取り出したお気に入りの曲が入った音楽プレーヤーを聴きながら家路についた。

 家に向かって歩きながら、この後は何するかな、なんて予定を立てる。
(家に帰ったら、あのゲームの続きでもやるかな。あ、でも先に明日の用意しとかないと。まだ授業始まったばかりで忘れ物するとか、思いっきり目立っちゃうしね。)
私の好きなものの一つはゲームで、色々なジャンルに手を出して遊んでいる。
元々ゲームをするのは好きだったが、一人で過ごす時間が増えてからはやりこみ度が上がってしまっていた。だから、夢中になりすぎて明日の準備をするのを忘れたがためにうっかり必要な物を忘れる、なんて事が時々起こるのだ。
(あれは恥ずかしかったからなー。またやっちゃわない様に気を付けないと。)
そんな事を考えながら家に帰った後は、リビングでテレビを見たり、自分の部屋に戻ってネットサーフィンをしたり、好きな音楽を聴いたり、お気に入りのゲームを遊んだりして一日が終わる。
そして翌日には、またキャラの仮面を被って“普通の”学校生活を過ごしてから家に帰って、一日を終える。

 こんな単純な毎日の繰り返しでも、あの頃の地獄に比べたら全然良い。いや、むしろ天国とさえ言えるかもしれない。ただそれを繰り返す事で、私にとって平和な日々となるのだから。

 私はきままに一人で過ごせるこの状況が気に入っていたし、これからも変わらずにずっとこの調子で過ごしていけると思っていた。そのはずだった。

 ―そう、あの時までは…―

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

闇を照らす光 1 ~平和な日々~

投稿二作目です。
やっと小説本編スタート。だけどまだ主人公しか出てないという…(^^;)

主人公プロフィール
 名前:菊音 奏(きくね かなで)

 髪型・目の色:黒髪・黒目で、肩よりやや長い髪をポニーテールにしている。

 年齢:17歳
 身長:160cm
 体重:55kg(太り気味なのは本人も結構気にしている)

 好きなもの:ゲーム(特にRPG)・音楽・読書・歌う事

 苦手なもの:集団・人混み・運動

 特技:一度聞いた音楽は、すぐに耳コピできる。歌も同様。

 性格:仮面状態の時は『引っ込み思案で周りに流されがちな、無口で特技も無いおとなしい』少女を演じているが、実際は『周りに関係なく、常に冷静に状況を見て最善と思える行動を実行する』という全く違う性格。素になると口調が丁寧なものからぶっきらぼうなものへと変わる。どちらの状態の時も、礼儀やルールはきっちり守るタイプというのは変わらない。

 名前の由来は、特技の『聞いた音楽』を『耳コピ』→『聞いた音色』をそのまま『奏でられる』→『聞く音』→『菊音』+『奏でられる』の漢字部分をそのまま使用、といった感じです。

最後までお読み下さり、ありがとうございました!

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投稿日:2010/06/04 20:57:08

文字数:2,185文字

カテゴリ:小説

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