ネルが『スターシルルスコープ』を生み出してからかれこれ一か月ほど経った。
ネルはあの時の経験が生きてか、少ない材料で高品質の物を作ることにハマったらしく。
今では『ネルネル・ネルネ出張店』で売っている物はほとんど普段の半分から5分の1ほどの材料で作ることができるようになっていた。
そう、ネルはかなりあ荘に関わることによって、今まで以上の進化を遂げていたのだ。
そして。ちょうどそれと重なるように、受験生カルテット『ゆるりんてぃあゆみん』の『サクラサク』の一報が続々となだれ込んできた。
それを聞いたネルは『セールだっ!!!!』と叫ぶなり、引き換え材料を大幅に減らすという大技をやってのけたのだ。
そんなこんなでネルの技術を圧縮したセールが始まって――――――――――一か月。
お客さん、これまでに0人。
ということで。
ネルは今俺の部屋に用意した屋台で、突っ伏してぐずっています。
「ひぐっ……うー……なんでみんな来てくれないのよー……」
「み、みんな忙しいんだよ、なぁどっぐちゃん?」
「そ、そーよぉだいじょぶだって」
「うるさい雪合戦してたくせにー!!」
完全にやさぐれている。
まぁそれもそうだろう……ネルにとって改造は人生のようなものだ。生きるために欠かせないどころか、彼女の存在意義そのものだ。
しかも商売人として改造を受け持っている以上、『お客様から改造を求められない』というのは二重の意味でネルの心を滅多打ちにする。
思わずつぶやいてしまう。
「……誰か救世主はこんのかねえ。シルルスコープでもホイホイ買ってくれるような救世主がさぁ……」
「そのシルルスコープをもらいに来たんですが―……」
「そうそうそんなふうにさ、ネルのハートを燃え上がらせることのできる女の子はおらんのかと…………………………」
『え?』
後ろからの声に思わず振り向くと、心配そうな顔をしたちずさんがビニール袋を持って立っていた。
「……ちずさん?」
「あ、いやあの、シルルスコープとPCを作ってもらいたくて――――――――――」
ちずさんが最後まで言い終わる前に―――――――――――――――
『ちずさあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんんんんんん!!!!!!!!』
カウンターからロケットのように飛び出したネルが、ちずさんを押し潰さんばかりの勢いでちずさんに飛びついた。
「えええええ!? ちょ、どうしたの!?」
『うわあああああああああああああああんんんありがとおおおおおおおおおおあたしもう少しで死にそうだったよおおおおおおおおおおおおおおおお』
「ふえ? ……あ、はい……」
困惑しながらこちらに『どうなってるんですか』と言いたげな目を向けてくる。まぁ我慢したげて、今君はネルの命の恩人となったのだから。
ネルに材料を預けて一分後。
『でっきましたー!!』
「オウハヤイナー」
『>ワ<』な顔のネルが時限転移用PC破壊してるんじゃねえかと言ったスピードで舞い戻ってきた。もう速さには突っ込まんぞ!
「はいこちらPCでございまーす!」
「おー!」
「ウィルスが送り込まれると送り込んできた相手のPCに全てのデータを喰らいつくすまで活動を止めない悪食コンピュータウイルス『バニカ・コンチータ』を送り返すという優れもの!」
「お、おー……」
はた迷惑なウィルスだな。名前のおかげでめんどくささが倍増してるじゃねえか。
「そしてこちらがぁ! 『シルルスコープ・ツインサウンド』でございます!」
「おおー!」
「ほぅ?」
ちずさんだけでなく思わず俺も声をあげてしまった。何がって、そのネーミングである。
「まさかのそれを持って来たかい」
「だ……だって……材料の中にリンとレン君のキーホルダーがあったもんだから……」
顔を赤らめながら口ごもるネル。かなりあ荘の皆さんに大人気の乙女ネルちゃんいただきましたー!
形状はト音記号とヘ音記号を組み合わせた形。まさにリンとレンをイメージした形状だ。……どうやって起動させるのかがものすごくわかりづらいけど。
「いやーやっぱり改造やると心が洗われるよね! さぁてもっとお客さんこっないっかな―――♪」
さっきまでのどん底モードはどこへやら。急に陽気になってドライバーをいじり出したネルを、ちずさんが呆然とした様子で見つめている。
「ネルちゃん、嬉しそうですね……」
「……だな」
だけどこのぐらい元気なほうが――――――――――見てる側としては落ち着く。
そういう意味では、いい改造ができたんじゃないかなとも思えた。
dogとどっぐとヴォカロ町!~改造専門店ネルネル・ネルネ出張版⑥~
ちずさんマジ救世主。
こんにちはTurndogです。
材料がリンレンのキーホルダーときたらもうヴォカロ町的には名前これしかないだろうと!ww
あとPCのウイルス対策ですが、入り込んできたウイルスは卑怯にも卑怯プログラム式ウイルスセキュリティ『最強バリア』により相手に跳ね返るという残酷設定となっております。
つまり相手は自分の送ったウイルスを喰らう上に、後から全てを食い荒らす悪食娘ウィルスに襲われるわけですな!
おお、こわいこわい。
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