その日の昼過ぎ、るかは仕立てに使う縫い糸がなくなったので隣町に買いに出かけました。
町はいたって普段と変わらない穏やかで平和な日常です。



「いらっしゃいるかちゃん」

「こんにちは。いつもの糸を下さいな」

「あぁ。待っとくれ……しかしるかちゃんもわざわざこんな遠くまで買いに来なくても近所じゃあもっといい糸が売ってるよ」

「『仕立てに使う糸はなじみのここが一番』って母さんが言ってたもの。いくら腕が確かでも糸がすぐ使い物にならなくなるんじゃ意味が無いわ」

「ははは。それもそうだな………ほら。いつもの糸束だよ。今日は少しおまけしといたからな」

「ありがとう。今度はお店にも寄ってね」



買い物を終えたるかは散歩のため少し遠回りをして帰る事にしました。やがて茶店や甘味処が並ぶ大通りに差し掛かり、ふと見るとあの人がいました。
その隣には知らない女がいました。




「こらこら走ったら危ないよ」

「だって二人で甘味屋なんて久しぶりじゃない」

「これはめいこさんかいとさん。こんにちは」

「これは神威さんこんにちは」

「お二人でお出かけですか?」

「えぇ。めいこが新しく出来た甘味屋にどうしても行きたいというので…」

「おやそうですか」

あの人は格子柄の赤い着物の女と一緒に楽しそうに話をしている姿を見たるかは堪え切れなくなった様にその場をすぐに離れました。






店に駆け戻ったるかはあの二人の事を思い出しました。

「あの人の隣にいた女…まるで仲睦まじそうに歩いていたわ…あの赤い着物が良く似合ってて…」

そしてしばらくその場にうずくまっていましたが

「『だけど仕事は頑張らなきゃ……』」

あのいつもの口癖を呟くと鋏を取り出し仕事に取り掛かりました。

「いくらなんでも仕事を休む訳には行かないもの…」

るかは頬を涙で濡らしながら着物の縫い直しを始めました。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

円尾坂の仕立屋 第二幕 -赤い着物の女-

円尾坂の仕立て屋ようやく本題です(;´・`)
登場する『女達』の持ち物にはそれぞれ
強調を兼ねて柄や模様を入れました。
がくぽはお二人のご近所さん設定です。
(曲には出てませんから苦笑)

※後半を少し修正しました

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投稿日:2010/08/02 17:24:11

文字数:803文字

カテゴリ:小説

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