(8)

 海の向こうに渡る為に王女さまはとても大きくて豪華な船を作らせていました。国の外に出るのなんて殆どはじめての事だったのですから、王女さまがはしゃぐのも無理はありませんでした。レンは船旅を心から楽しんでいる女王さまの様子にとても満足していました。国中の人も、この二人だってまさかこの船旅が血みどろの戦争に向かっているだなんてことは全く想像もしませんでした。


 青い国は栄えていて、お城に行くまでの道々に活気が溢れています。店には何種類もの新鮮な食料がたっぷり行き届いていて、道端では子どもたちが笑顔で走り回っています。そんな様子をレンはぼんやり眺めていましたが、その傍らに居る王女さまは身づくろいに夢中でそんなものには目もくれません。しきりにレンに髪飾りがずれていないかどうかを尋ねていました。


 立派なお城には色々な国のお姫様たちがここぞのばかりに着飾って、その美しさを競い合っていましたが、中でもリンのドレスは群を抜いていてたいそう目立ちましたから、お姫様たちの嫉妬と羨望のまなざしを受けて王女さまはたいそうご機嫌でした。そして念願の青い国の王子を見るとあっというまに恋に落ちてしまいまい、王子さまの方もリンの整った顔立ちと目の眩むようなドレスに目を留めないわけにはいきません。

 いよいよダンスが始まると、元からこういう席が好きではなく、女王さまの邪魔をするのも良くないと思ってレンはそっとお城をでていってしまいました。


 華やかなオーケストラの演奏を遠くに聞きとめながら、お城の入り口向かうと、階段の下でレンは小さなガラスの靴が落ちているのを見つけました。ふと階段の上を見上げると、そこには緑の国からやってきたとても可愛らしいお姫さまが座り込んでいます。どうしてかは分かりませんが自然に急く足で階段を駆け上がりガラスの靴をそっと差し出すと、お姫さまはとても優しく微笑んで、

 「ありがとう」

 とだけ言うと小走りに階段を下りて行きました。レンは、生まれて初めてリン以外の人の笑顔を愛しいと感じました。レンが、この女性と顔をあわせたのはこれが最初で最後でしたから、彼がその感情に名前を与える事はとうとうありませんでした。


 それからほんのすこしのたつと、リンが一人だけで引き返して着ました。王女さまは今までに見たことの無いような、歪んだ表情をして忌々しげに言い放ちました。

 「一体何処に行っていたのよ!こんな場所もううんざりだわ、さっさと国に帰りましょう」


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

悪くて可哀想な双子 (8)

!! CAUTION !!

これは悪ノP様の言わずとしれた名作「悪ノ娘」と「悪ノ召使」を見て感動した上月がかってに妄想を爆発させたそのなれの果てです。

・当然の事ながら悪ノP様とは何の関係もありません。
・勝手な解釈を多分に含みます。
・ハッピーエンドじゃありません。(リグレットとの関連も無いものとしています)
・泣けません。
・気付けば長文。(つまり、要領が悪い)

以上の事項をご理解いただけた方は読んでみて下さい。

閲覧数:358

投稿日:2009/12/13 01:18:43

文字数:1,052文字

カテゴリ:小説

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  • ぐんそう

    ぐんそう

    ご意見・ご感想

    はじめまして、きょあと申します。
    作品を読ませていただきました(*^□^*)

    スゴく面白くて最初から最後まで、一気に読んでしまいました!!!
    言葉使いや設定まで細かくてすごいなと思いました♪♪

    続き楽しみにしていますo(^-^)o

    2009/12/13 09:17:27

    • 上月物子

      上月物子

      >きょあさん
      はじめまして、上月と申します(。。*

      長々と続けてしまっているので一気に読むの、大変でしたよね。すいません。そして嬉しいお言葉ありがとうございます。これを励みに精進しようと思います。

      オフの方がごたごたしていて更新が滞る事もあるかと思いますが、お付き合いくださると嬉しいです(*´ω`*)

      2009/12/13 21:05:18

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