俺には、ずっと前から好きな人が居て。
 でも、彼女には今、付き合っている人が居て。
 そして、その人の左手薬指には――既に、違う人との誓いの証が輝いているらしくて。


「…それって……不倫、だよね」
「そうなるわね」
 しれっと彼女は肯定した。
 真面目な優等生――それが、周りが彼女に貼り付けたイメージ。そんな彼女が不倫だなんて――と、きっと誰もが思うだろう。
 でも。少なくとも、俺は知っている。
 “だからこそ”、彼女がそんな危険な恋をしているのだと。

 毎日毎日、同じ日常をなぞらえるだけ。
 楽譜をただ追っていくだけの演奏に、彼女は即興を――刺激を求めた。ただ、それだけのことなのだ。

「……そんなの、良くないよ」
「解ってるわよ」
 だからなに、と言わんばかりに、彼女は俺に冷たい視線を向ける。
 “友達”でしかない俺の言葉は、彼女に届かない。

 俺じゃ――彼女の渇きは、潤せない?

「…めーちゃん」
「何よ」
「……、いい、なんでもない」
 彼女は苛立ったように溜め息を一つ吐いて、くるりと俺に背を向けた。
「…これから会う約束なの。じゃあね」
 心なしか嬉しそうにそう言って、歩き出した彼女を、俺は――


「――行かないで」



 捕まえるかのように、後ろから抱き締めた。


「――カイ、ト…?」
 俺の腕の中で身体を固くする彼女が、驚いたように俺の名を呼ぶ。
「行かないでよ…そんな、めーちゃんだけを見ない奴なんか、やめなよ」
「見てくれるわよ。一緒に居る時だけは」
「俺なら!」
 抱き締める腕に、一層力を込めて。
「俺なら――ずっと、いつだって、めーちゃんだけを見てる……めーちゃんだけを想ってる、のに」

 嗚呼。
 どうして俺は――彼女とまっすぐ向き合って、この言葉を言えないのだろう。

「俺――ずっとずっと、めーちゃんが好きだった」


 今だって好きで好きで仕方無いのだと、もっと早く、伝えられていたなら。
 彼女の渇きを潤せるのは――俺だったかも、しれないのに。

「……離して、カイト」
 静かな彼女の声に、俺は感情を無理矢理抑えつけて、おとなしく従った。
「めーちゃん、俺――」
「何も!」
 背中を向けたまま、彼女は、
「もう――それ以上、何も、言わないで」


 ――泣いていた、気がした。


(だって声が震えてる。)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

届かないピアニッシモ(カイメイ)

 OSTER projectさんの素敵MEIKO曲「ピアノ×フォルテ×スキャンダル」(http://piapro.jp/content/hn6mfhja8k1uofv2)のイメージでした。
 カイメイと銘打ってみたものの…名前負けな気がしてなりません(滝汗)
 なんだこの意味不明!あとタイトルも適当ですサーセン…
 “カイメイ”にタイトルホイホイされた方、本当すみません…!orz

 この歌が大好きでカイメイも正義で、ああでもこれ相手が兄さんだったら結局くっつかないんじゃ!なんて考えていたら、
 「あれ?こっちの“友達”を兄さんにしたら最後は平和にくっつくんじゃね?」
 …そんな考えが降ってきて、こうなりました。
 これがいわゆるあれか、CP化における斜め上の努りょk…げふんげふん。


 それでは、読んで頂き有難うございました!

閲覧数:346

投稿日:2009/11/18 23:36:31

文字数:993文字

カテゴリ:小説

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