風に吹かれて兄さん
工場の煙突からふき出る煙は風にあおられ、空を切るように白い線を描いていた。
「…今日は風が強いな」
真横に流れる煙を見てカイトは「風」という言葉を口にしたが、その風を体感した事は一度も無かった。
どんな大きな音も漏らす事のない密閉された部屋で生まれ、そして今まで作られてきた。
小さな窓から見える煙の傾きで風の強さを判別する知識は持っていたが、この施設から出る事を許されないカイトは、その風を体感する術がなかった。
「あの工場の上で、風を感じてみたいな…。」
― そう思った事が、すべての発端だった。
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発端とありますが特に何もはじまりません。
工場はウチの地元の工場です(笑)