A1
ありふれている初恋でしょうか？
風の強く吹く日でした
手から攫われ舞うソルフェージュを
見知らぬ手が掴みました

笑顔の理由　交わした言葉も
頬の熱さにごちゃごちゃで
覚えてられた事は一つだけ
あなたは遠い王子様

B1
「ピアノが上手く弾けない者は
王子に会う事叶いはしません」
彼方に見かけたあなたの瞳(め)は
冬の海に似た冷たさでした

S1
奏で鳴らす日々の始まりは
逸る夢のこちら側
白黒迷路弾き終えた果ての
薔薇色の日　求めました

夜が朝に姿を変えても
決意一つ抱きしめた
震えるこの手　乱れる旋律
淡い希望に響かせる


A2
あとになるほど入り組む譜面は
静かに心削り出す
錆びたペダルを
踏みしめてみても
記憶も今も延びはせず

あなたが好きと聞いたセレナーデ
途切れ途切れてもどかしく
並び弾くため書かれた和音(コード)を
拙くなぞり　泣きました

B2
坂道転げる石の速さ
もう一目だけと狂おしいのに
もつれる指々追いつけずに
切なさ抱えて止まってしまう

S2
決して揺れず　決してあやまたず
遂げなければ届かない
初めて弾いた時よりとても
鍵が重いのは　何故でしょう？

いつの日にか優しく寄り添い
同じ歌を紡ぎたい
ささやかすぎる願いを遮る
八十八の雨が降る


S3
奏で鳴らすこの日々は何処で
終わり終わる　人知れず
寄せては返すモノクロの波に
捧げ過ぎたと知らぬまま

幾年月過ぎたのでしょうか？
記憶だけが色褪せず
ありふれている初恋でしょうが
今日の風は強いですか？



【譜割り・()は一音分】

A1
ありふれている
はつこいで(しょ)うか
かぜのつよく
ふくひでした
てからさらわれ
まうソル(フェ)ー(ジュ)を
みしらぬてが
つかみました

えがおのりゆう
かわしたことばも
ほほのあつさに
ご(ちゃ)ご(ちゃ)で
おぼえてられた
ことはひとつだけ
あなたはとおい
おうじさま

B1
ピアノがうまく
ひけないものは
おうじにあうこと
かないはしま(せん)
かなたにみかけた
あなたのめは
ふゆのうみににた
つめたさでした

S1
かなでならす
ひびのはじまりは
はやるゆめの
こちらがわ
しろくろめいろ
ひきおえたはての
ばらいろのひ
もとめました

よるがあさに
すがたをかえても
けついひとつ
だきしめた
ふるえるこのて
みだれるせんりつ
あわいきぼうに
ひびかせる


A2
あとになるほど
いりくむふめんは
しずかにこころ
けずりだす
さびたペダルを
ふみしめてみても
きおくもいまも
のびはせず

あなたがすきと
きいたセレナーデ
とぎれとぎれて
もどかしく
ならびひくため
かかれたコードを
つたなくなぞり
なきました

B2
さかみちころげる
いしのはやさ
もうひとめだけと
くるおしいのに
もつれるゆびゆび
おいつけずに
せつなさかかえて
とまってしまう

S2
けしてゆれず
けしてあやまたず
とげなければ
とどかない
はじめてひいた
ときよりとても
けんがおもいのは
なぜで(しょ)う

いつのひにか
やさしくよりそい
おなじうたを
つむぎたい
ささやかすぎる
ねがいをさえぎる
はち(じゅ)うはちの
あめがふる


S3
かなでならす
このひびはどこで
おわりおわる
ひとしれず
よせてはかえす
モノクロのなみに
ささげすぎたと
しらぬまま

いくとしつき
すぎたので(しょ)うか
きおくだけが
いろあせず
ありふれている
はつこいで(しょ)うが
(きょ)うのかぜは
つよいですか