奇妙なサーカス 5

「やっと峠を越したようだな・・・」
カイトは粗末な椅子に凭れかかり、汗だくになった白衣を脱いだ。
テントのハンモックの上では黄色い髪の少女が安堵の息を立て眠りについていた。
「なんでこの娘は一人でこんな所まで・・・」
「キャァァアアアアアア!」
テントの荷物置き場のところから、絹を裂くような悲鳴が上がった。
「ハク!」
カイトが悲鳴の聞こえた荷物置き場へ行くと・・・
錆びついた包丁を手にしたレンが、ハクの首元にその刃を突き付けていた。
「リンを返せ!」
「リンなんて団員なんていないですよ。」
ハクがおびえながらもレンにそう告げるが、レンは聞く耳を持たない。
「お前たちがリンをさらっていったのは知っているんだ!」
レンにとってはリンの存在は絶対だった。
リンがレンを見捨てる事はない。
あの日、お父さんとお母さんが森に僕らを捨てても、リンは一緒にいてくれた。
だからこそ、そのことがレンを追い詰めていた。
「どうする団長?この距離ならあたしのナイフ投げでも・・・」
ネルが団長のメイコの耳元で囁く。
二人とも舞台衣装のままだ。軽業師であるネルの手元には演目で使用するための投げナイフが仕込まれている。
「やめたほうがいいわ。この位置なら確かに刺さるけど手加減ができないわ。」
「チッ!」
「あの子なら私たちが保護しています。」
テントの奥からカイトが現れた。
「やっぱりさらっているんじゃないか!今すぐリンを返せ!そしたら出て行ってやる。」
「カイト!あの子を渡しちゃいなよ!」
ネルが避難の声を上げる。
「あの子は衰弱しきっている。今は絶対安静だ。」
「人さらいの言うことなんて信じられるか!」
レンはなおもハクに刃を突き付けていた。
その時だった・・・

「レン止めて・・・」
レンが振り向くとそこには先ほどまで、眠り続けていた少女が立っていた。
「この人は悪くないの・・・悪いのは・・私」
そこまで言うとその場に倒れた。
「リン!」
すぐさまレンがハクを放し、リンに駆け寄る。
「リン!リン!しっかりしろよ!俺だけ置いていかないでくれ!」
レンが少女を揺り起こす。
「お前、寝てろ。」
背後から忍び寄ったテトがレンの急所に当身を放つ。
「グッ!」
うめき声を漏らしレンはその場に倒れこんだ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

奇妙なサーカス 5

閲覧数:309

投稿日:2008/10/17 17:49:35

文字数:964文字

カテゴリ:その他

クリップボードにコピーしました