こうして思いを伝えようとしている間に日が暮れる。
最近なんだ。
何か伝えようと思っても思うように口が動いてくれない。
それ以前に、脳みそが動いてくれない。
まるで、と例えようにも、思い浮かばない。
目の前の状況の説明は誰でもできても、
自分の思いを伝えるのは、砂時計の砂が落ちきっても伝わりきらない。
レポート用紙に書き込む理論。
感想文という名のお勧め本紹介。
誰かが書いた文章を読み解くのは理解できても、そこから何が伝わるのか。
誰もわかりやしない。この伝えたい思い。
ふっと気づくと、日が暮れている。
まただ。
口が動かなくなってきた。脳みその細胞が眠っていくのがわかる。
視界から入ってくる情報のみを処理し、理解できたのは・・・。
君の泣き顔。
何か言っている。
耳と意識が遠くなっていく。
僕が最後に伝えたいことは。
伝えたいこと。
初めて作ったのは、ロボットの耳。
私の声が聞こえるように。
それから、正確な理解能力のプログラムを打ち込まれた本体。
耳と回路をつなげ、手を握りながら完成を待った。
私があの子に伝えられなかったことを。
自己満足な世界だけど、お願いだから、言わせて。
完成してからは、毎日君にむけて伝え続けた。
机の上の砂時計の砂が落ちきるまで、伝えたの。
実験のレポートを作成するときに覗き込んできたり、
本を読んでる私のまねをして、逆さに本を開いたり。
そのときはいきなり来た。
でも、不思議と寂しさを感じなかった。
すっきりとした別れになると思ってた。
一方的にあの子と重ねるために生み出した物。
もう、役目は果たしたの。
苦しむ前に、ゆっくりと私の手で機能をおとしていった。
ロボットの口が動く。
いつもより人間らしい動き。
「ボクの伝えたいことが、伝えたい」
私は、この子に何を伝えられたのだろうか。
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