久々にピアプロの大地に足を踏み入れたら商業作詞家を目指してそうな方がちらほら見えたので、身の丈に合わない大いなる野望を持った皆様の参考になればと筆を持ってみた次第です。とはいえ僕も商業音楽の全てを知っているわけではないので、あくまで参考ぐらいにしておいて下さい。

【本日の三本柱】
・体育会系のメンタル(ヤクザ耐性)
・不採用が続いても折れない心
・最低二年間無収入でも耐えられる収入源

1⃣商業作詞家になると何が起きるか

 基本的に駆け出しの頃はピアプロの歌詞募集への応募みたいな事が無限に続きます。商業音楽のお仕事には大別して二種類の決め方があって、一つは「決め打ち」、もう一つが「コンペ」です。実力・人脈・実績がものを言う業界で何の実績も無いうちはひたすらにコンペです。たとえあなたのいる事務所が大御所で、あなたが期待の新人で、ほとんど決め打ちに近い状態であったとしてもクライアントは地雷を踏むわけにはいかないのでコンペが行われます。また、そういったコンペであなたがモブ役を演じる事もあります。不誠実に思えるかもしれませんが、それが生き馬の目を抜く者達が支配する弱肉強食の世界の掟です。慈悲はありません。基本的には宝くじを作り続ける仕事です。これは商業作曲家さんも同じです。

 正直言って新人が裸一貫で挑むコンペは採用される事の方が稀です。では、何故コンペをするのかというと実績と人脈を積む為です。たとえそこで不採用であっても、偉い人の目に留まっていれば次は好感度プラスの状態で強くてニューゲームに挑む事ができます。採用する方も人の子です。毎回クオリティの高い作品を上げてくれる若手がいたら、試しに使ってみようかなと思って貰えるかもしれません。コンペは自分が商業で通用する歌詞を書ける事を証明をする場であり、クライアントに対して自分を売り込む場でもあるのです。そうやってだんだんと偉い人の好感度を上げていくと、コンペで採用して貰えたり決め打ち案件に関わらせて貰えるようにもなったりします。なのでコンペだからといってサボったり手を抜いたりする事は許されません。事務所の社長にドチャクソ怒られるぐらいならまだいい方で、こいつ駄目だなと思われたら静かに永久に干されます。音楽は信用で成り立っている商売でもあるので、駆け出しの頃のコンペは本当に仕事を任せて良いのかの信用判断を試されている場でもあるのです。そういった意味で事務所社長の持つ実績と人脈と権力は偉大です。音楽業界はどこを切り取っても基本的に体育会系の世界なので、社長を含めて権力者の機嫌は損ねないようにしましょう。

 そう言えば大事な事を忘れていましたが、リテイクは日常茶飯事ですし同じ曲で別パターンを二つ提示してくれとかも日常茶飯事です。そもそもワンハーフのデモが仮にコンペやクライアントの審査を通過したとしたら本番ではフルサイズの執筆と共にここをこうして欲しいという指示が飛んでくる事が殆どです。クライアントありきの仕事なのでクライアントの要望に応えるだけの応用力というかリテイク力は常日頃から意識的に培っておきましょう。また、メロディがリテイクされる事によって巻き添えのリテイクを食らう事も往々にしてあります。リテイクにかけられる時間はそれほど長くありません。というかデモ作成の段階で時間はあまり貰えません。マネジメントする人にもよるでしょうが、具体的な時間の指示などなく、ただ「なるはや」と言われる事が殆どです。24時間あれば良い方だと思っていて下さい。そういう意味で執筆速度は速いに越したことはないです。また、メロ譜と呼ばれるメロディスコアに譜割りを記入する時間も必要です。音符が読めなくて譜割りを多用される方はわりと地獄を見ます。余裕をもって執筆にあたりましょう。また、手書きをする場合はプリンタとスキャナも必須です。コンビニのネットプリントとかでもできるんですが、誰がどこで見ているか分からないのでお勧めしません。インクも高いので嫌だとは思いますが、できる限り作業は自室で完結させてください。これはわりと信用に関わる問題で、秘密にしておかなければならない情報が漏れたりしたら色んな人を巻き込んでやばい事になります。ちなみにメロ譜を手書きする際にはフリクションがお勧めです。断言しますが絶対に一枚に一回は書き間違えます。フリクションでもスキャンしてしまえばわりとしっかり読めます。あと、仕事道具に違いは無いので字は綺麗に書かないと普通に怒られます。奇麗に字を書く練習もしておきましょう。

2⃣商業作詞家って儲かるの?

 儲かってたら僕は今頃ヒルズに住んでます。残念ながら商業作詞家に最低時給は存在しません。事務所にもよるでしょうが、何百本仮歌詞を書こうが、コンペに参戦しようが流通ルートに乗り印税が発生しない限りは無給です。また、流通ルートに乗る作品でも元が取れる案件と、あまり元が取れない案件があります。つまり、案件に正式に関われるようになってはじめて「当たり入りの宝くじを作り続ける仕事」ができるようになるのです。ようこそここが地獄の一丁目だ。

 ぶっちゃけて言うとCD音源だけの案件とかに関わってても食えません。アニメの主題歌とか何らかのメディア利権が絡む案件に継続的に携われるようになって初めて人並みに生きれるだけの人権が発生するのです。駆け出しの頃の最初の印税明細とか受け取るとわりと絶望します。そして、アニメの円盤売り上げを見ればわかるように、一口にアニメ主題歌といってもピンキリです。もちろん大きな案件に関わるためには、それこそ小さな案件からコツコツと実績を積む必要があります。そして、印税が入るまでには流通に乗ってから一年間というタイムラグがあるのです。あなたがどんなに有能で、話がトントン拍子に進んで、一年で決め打ちが安定して取れるようになっても食えるようになるまで二年はかかります。

3⃣最低二年間はほぼ無収入…ってコト?!

 専業作詞家を目指すあなたには大きく分けて三つの選択肢があります。芸術家を目指す事に寛容な太い実家に生まれる。パトロンになってくれる異性に取り入り紐になる。貯金とバイトで極貧生活をやり過ごすの三点セットです。バイトに関しては急にコンペの話とかが来るので突発的な休みを受容してくれる職場が必要になります。居酒屋とかだと無理無理の無理です。事務所の育成方針にもよりますが、アシスタントとして事務所のアルバイトをさせてくれるところもあります。ただ、この手のアシスタント業務は、だいたい機材方面の扱いに適性のある作曲の駆け出しさんとかがやります。作詞の人も頼み込めば何か仕事を用意してくれるかもしれませんが、そのあたりは社長とよく相談しましょう。アシスタントをしながら事務所に所属するというのは、駆け出しにとっては弟子入りに近い状態です。ヤクザの若い衆がやれるぐらいの社会性と根性が無いと詰みます。その上でアシスタント業務をやりながらコンペに挑むという名門野球部みたいな生活スタイルになるのです。そこに加えて拒否権の無いコンペや仕事や案件が突然飛んできたりもします。休日は友人とカフェにいったりポケカやったり、記念日には彼女とデートしたりしたいといった人間らしい生活に少しでも未練がある場合は、悪い事は言わないので音楽は趣味と割り切って安定した仕事を探した方が無難です。まぁ、リアルには別の仕事を持ちながら副業としてサブで両立している人もいらっしゃったりはします。このあたりはタイミングと運です。でも、実力を蓄えつつも運を掴む準備をしておかないと運を掴む事もできません。

4⃣それでも商業作詞家を目指したい危篤なあなたへ

 ネットの片隅で頑張ってお金も実績も人脈もある大御所に声をかけて貰って大成するシンデレラストーリーもあるにはありますが、そんなか細い可能性に賭けて時間を無駄にしてしまうのはかなり時間の無駄です。あなたに失うものはありませんが得る者もあまりありません。時間は有限なのです。一日でも早く経験を積める環境に身を置きたいのであればシンデレラストーリーやオーディションなんて待たずに恐れず事務所のドアを叩きましょう。実力が見合わなければボコボコに言われて追い出されるかもしれませんが、基本的にああいった変な商売をしている方々はそういった無謀で身の丈を弁えない若者の事が結構好きです。なぜなら彼らもまた、かつて音楽を志してチャンスを掴んできた人間だからです。

 もちろんリリックライターが手ぶらで門を叩いたって相手をして貰えるわけもありません。デモ音源を用意しましょう。ボカロじゃなくて人間が歌ってる奴です。仲良くなった作曲の友達がいたら音源を用意して貰っても良いですし、作曲家を目指している友達がいるならデモの為の歌詞を書いたり、すでに事務所に所属している友達がいたりするなら一緒に仮歌詞を書いたりして一緒に商業音楽の世界に殴り込んでも良いです。出版社に持ち込む原作と原画コンビみたいなものですね。バクマンみたいなものです。最近だとルックバックですかね。

 注意点が一つあります。プロデュース料とかコンペ参加料とかでお金取ろうとしてくる事務所はやめておきましょう。そういう事務所もあります。ただでさえあなたはここから二年間。少なくとも音楽から収入を得る事はできません。その上投資を求めてくるような事務所に入ってしまうと先ず間違いなく財布が詰みます。どんなに順調に話が転がっていったとしても元を取るのにもう一年プラスされます。先に財布がパンクする確率の方が高いです。悪い事は言わないのでマジでやめておいたほうが良いです。確実に夢を追う為の寿命が縮まります。パチスロでビッグボーナスを引き当てるまでゲームを回すためには財布にかかるダメージの調整がマジで大事なのと同じです。

 最初に印税の取り分についてもお話があるかと思いますが、無かったらしておいた方が良いです。特に今はインボイス導入によってカオスになっています。例えばあなたが印税で200万稼いだとしましょう。マネジメント料を差し引いた取り分が5:5だと実収入は100万円にも届きません。作家に社会保険なんてものないのであなたはここから健康保険料と国民年金を支払わなければなりません。確定申告をちゃんとやってそれぐらいの収入だったら所得税はある程度取り戻せるかもしれませんが、とても生活できるレベルのお金ではありません。条件の良いところだと7:3ぐらいのところもあるみたいですが、6:4ぐらいのところも多いですし、5:5ぐらいのところもあります。ここの1は滅茶苦茶大事なのでちゃんと吟味しましょう。とは言え基本的に拒否権は無いので、提示された条件によって今後の生活をどうするのかの目算をちゃんとしておく必要があります。ちなみにこの三桁万円を目指せるのが最低でも二年後以降です。死ぬ。

5⃣身ぎれいになろう(男性向け)

 音楽の実力と同じぐらい必要なものは社会性です。音楽事務所は信用商売ですので社会性が求められる事は再三申し上げて来ましたが、同じぐらい見かけの清潔感が求められます。このあたりはオタクが声優に美少女である事を求めるのと同じです。というか、音楽業界は基本的には華やかな業界なので華やかな身なりをしていた方が信用を得やすいです。よくモンペみたいな芋臭い服を着て出版社の社交パーティに出てくる漫画家とかを漫画で見たりするかもしれませんが、あれは漫画です。100歩譲って出版業界ではそれが許されているとしても音楽業界ではあまり許して貰えません。何故ならあなたの身なりが、あなたを抱える人達への信用にも直結しかねないからです。何度でも言いますが、あそこは基本的にヤクザみたいな世界だと思っていた方が良いです。でも安心して大丈夫です。流石にホストみたいに数十万円とか数百万円とかするものを身に纏って着こなせとは言われません。ただ清潔感のある身なりをして、清潔感のある生活を心掛けていれば良いだけです。

 少なくとも仕事で顔を出す時に着る服にはそれなりにコストはかけた方が良いです。ファッションに無頓着な人にとっては結構な冒険かもしれませんが、それなりのものを着て下さい、ファッションに無頓着なカビゴン体型の人だったらサカゼンで一式揃えるぐらいでも良いです。できれば女友達さんとかいかした店員のお兄ちゃんとかにコーディネートして貰って下さい。もしも今までファッションに無頓着でいたのなら絶対に自分のセンスを信じるな。後、臭いは馬鹿にできません。あれは人間が人間と言う生物である以上、外観以上にあなたの清潔感という名の印象に影響を与えます。何万円もするコロンを取り揃えろとは言いませんが、とりあえず毎日風呂に入って歯を磨け。そして、できれば良い石鹸を使って、香水を一本は持ちましょう。コロンでも良いですが、ボディクリームとかは一日を通して長持ちするのでお勧めです。つけすぎるとかえって公害になるので、その辺のほどよさは経験を積んだりそっち系の動画見て勉強して下さい。髪もちゃんと毎日整えましょう。女性の人達は素面でそれをやっていて煩わしいメイクの勉強と修行まで日々行っているのです。音楽業界はそんな華やかさを極めたヒロイン達と同じ職場で仕事をする場でもあります。音楽業界で殊更身ぎれいさが求められるのはそういった背景もあるのです。声を商売道具にしている人たちが多いので職場に顔を出している時は煙草も基本的にNGです。ステージで煙草吸ったりするボーカルがいるのはロックバンドだけです。まぁ、僕の追いかけてる地下アイドルはインスタでもツイッターでも配信でもバキバキ煙草吸ってますけどそれは例外中の例外です。

(後半へ続く)

ライセンス

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投稿日:2024/07/30 03:43:34

文字数:5,665文字

カテゴリ:その他

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