奇妙なサーカス 3
前夜の闇を払うような温かな陽光を浴び、少女はゆっくりと目蓋を開いた。
目を開いたら本当のおかあさんとおとうさんが待っていてくれる。
本当は期待していた。
だが、少女の瞳に映るのはいつもと変わらない部屋・・・
そして・・・・
「レン!」
少女は傍らに眠り続ける弟ーレンーの姿を見つけ安堵する。
あの日、
レンに「ずっと二人でいよう。ずっと眠り続けよう。」
そう言われたとき、悲しかった、怖かった。
それでも私はうなづき、レンと一緒に眠り続けた。
だって・・・一緒にいないとレンは壊れてしまいそうに思ったから・・・
やや西日となった陽光を頬に浴びレンは目覚めた。
カイトとメイコを追い出して疲労が襲ってきたのだろう、そのままリンの傍らで眠ってしまっていた。
恐る恐る声をかける。
「リン・・・」
返事はない。
レンが顔を上げるとベットの上にに少女の姿はなかった。
「リン!」
レンは身体を跳ね起こすと、身体中を指すような傷みを押して家の中を探し回る。
いない。
いない。
どこにもリンの姿はなかった。
リンが僕を見捨てて置いていくことなんてありえない・・
「きっと朝のあいつらが戻ってきてリンを・・・・」
レンは台所から錆び付いた包丁を握りしめると家を後にした。
人通りはなく、昼間でも暗い森。それだけに馬車の跡は分かりやすい。
弱った体であっても、着実にレンの足はサーカス団の所へ向かっていた。
「さあさお立ち会い!御用とお急ぎでない奴は見ていきな!とっても不思議なサーカスだよ!」
ネルが大きなブリキの拡声器を使って呼び込みをしている。
「白髪の少女ハクが操りますのは、この世で1つしかない歌を歌う生人形「ミク」!赤毛の少女テトの
異国の演舞、そして絶世の美少女!私ネルの軽業でござい!」
ここは隣村の広場。カイトとメイコのサーカスがテントを開き興行を始めていた。
「ねえ言ったとおりでしょ。この村は隊商の中継地になっているから、結構人通りがあるって。」
メイコが商売道具のタロットカードを開きながら、テント入り口のカイトに声をかける。
「人通りがあるのと、僕達のお客になるとは限らないよ」
カイトがため息をつく。
「何暗い顔になってんの!芸人が暗い顔になっていいのは親の葬式だけっていったのはカイトでしょ!」
メイコがカイトの頭を小突く。表情は芸人のそれになっていた。
「さぁ!ちゃっちゃと興行を終えて夜通し飲むわよー!」
「ウチの貧乏はめーちゃんのその酒癖のせいだって」
ボゴッ!
メイコがカイトの頭を小突く。今回は割りと本気で・・・・
リンは暗い森を1人歩いていた。
リンは知っていた。自分とレンを青い髪の男の人と赤い髪をした女の人が助けてくれたことを・・・
リンは知っていた。レンが自分達を助けてくれた人達を追い出したことを・・・
森は暗くあまり食料となるものは少なかったが、今の季節にはナツメの実が生えていることがある。
リンは生きるため、闇夜よりも暗い森を1人歩いていた。
リンの身体全体が生きることを渇望していた。
だが、生死の淵から生還したばかりの身体はもろくそして・・・
ドサッ!
その場に倒れこんだ。
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