【碧の国ひと】

美鳥が謳うノクターンに乗せて
彼女は微笑んで 伸びやかに
美しい髪と歌声に舞うのは
碧の国の 神様(じょおう)でした

風が小さく誘い 水が囁く
美しい国のお姫様 女王様
炎が燃ゆる夕日 ルビーの朝焼け
そこは夢の様な国でした

毎日 笑い声の絶えぬ 優しい箱庭でした

「ああ、あの街は美しくない」
ご存知ですか? 隣の街が消えました
優しい歌声に眠るように 静かに消えていきました
「ああ、あの娘(こ)は美しくない」
ご存知ですか? 領主の娘が消えました
涙をひたすら流しながら 悲痛に嘆いて消えました

1人遊びでしょうか
「誰かと?あなたと?いいえ私と。」
今日はどんな歌に溢れのでしょう


碧が輝くト短調にあわせて
彼女は涙を流し しんしんと
澄んだ心と願いに込めるのは
優しい世界の 優しい日々でした

花が咲き乱れ あなたが愛を語る
幸せの国のお姫様 女王様
立ち昇る虹の谷 サファイアの血
ここは彼女の世界でした

毎日 彼女のための 太陽しかありません

「ああ、誰も裏切りはしない」
ご存知ですか? ウサギが消えました
小さな鼓動と共に 草木に消えていきました
「ああ、あなたは愛しい人」
ご存知ですか? とある薔薇が消えました
朝露に濡れて水晶のように 凍てつき消えました

微笑んでいますか
「私は幸せだもの。みんなも幸せよね」
今日は何に傷つきましたか


緑がくすむ大地は割れていきます
彼女は泣き叫び 歌います
世界の崩壊という末路は
他ならぬ彼女の 省みぬ願いでした

誘惑のアメジスト 愛してくれたはず
喜色のシトリン 支えてくれたはず
私はペリドット この世界の光
ここは私の世界だった

毎日 私が幸せでいていい 私の国

「私は 何も知らなかった」
誰もが優しく 全てが真実で
誰かが傷つく事など ありはしないのだと
「私は 愛される存在だった」
ずっと続くと 永遠があるのだと
私の幸せが絶対であれると それでいいのだと

消えないで
「私の世界、私を愛してくれる世界」
今日も私は歌うから

消えないで 消さないで
私の世界 ここは私の世界
私の幸せを受け止める 私の涙を飲み込んでくれる
何がいけなかったの 終わらないで 終わらないで

目覚めてしまいたくなんてない
歌を 愛を 全てを

小さな硝子の首飾り
彼女が愛し 彼女に応えた一輪の花
碧の国のひと ああ気付いて
貴女の忘れた想いを 朽ちてゆくあなたの花を

碧の国のひと あなたを愛していた私こそが
あなたを閉じ込めてしまった
もう愛を囁くことも 夢を見せることもありません
貴女と共に壊れ 眠ります

碧のひと 水晶の私が焦がれた 美しいひと





 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【碧の国のひと】

歌詞っぽいような、そうでないような。

緑の国は彼女の世界。
彼女の生んだ彼女の世界。
やがて朽ちる、かつて愛したはずの水晶を忘れて。
何も知らないまま、終りを迎える。

閲覧数:33

投稿日:2011/11/03 23:20:57

文字数:1,142文字

カテゴリ:その他

オススメ作品

クリップボードにコピーしました