地面が音をたてたとき
わたしは靴を買おうとしていた
新しい生活への
期待と不安を胸にして

母に手を引かれて店を出た
大きな看板が ぐらぐらと揺れていた
あのときと同じだ、とうわごとのようにつぶやく母の
背中を何度も何度もさすった

家の中はぐちゃぐちゃに崩れて
足の踏み場もなかった
テレビに罅が入っていた
大事にしていたCDは生きていた

その日は車の中で眠った
水も電気もとまっていた
買ったばかりのスマートフォンは繋がらなかった
ラジオから見知った町の名前が聞こえた

数えきれないほどの人の死体が
積み重なっているのだという
夜が恐怖を深くさせた
何が起こっているのか わからなかった

給水所で出会う人々は
必死に笑っているみたいだった
大事にしていたCDを
飽きるほど聞いて 何度か夜をやり過ごした

顔がかぴかぴになって 髪がべたべたになった頃
電気がついて 水が流れた
画面の向こうから海が迫っていた
そのときようやく 
とんでもないことが起こっているのだと わかった

それから数日たって
画面の中で あのCDのアーティストが歌っていた
曲の終わりに 小さく聞こえた“がんばれ”

大きな被害も受けずに 生きていられたわたしは
なぜだかそのとき 涙をこぼしていた

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

あの日の備忘録

忘れませんように

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投稿日:2016/03/11 13:39:36

文字数:541文字

カテゴリ:歌詞

ブクマつながり

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