白ノ娘
「ああ、醜いわ!どうしてこの美しい村にこんな白い髪の娘が生まれたのかしら!」
どんなに耳を塞いでも飛び込んでくる。そのたびに涙が溢れそうになった。
ああ、醜い!どうして私はこんなに醜い白なの!
そんなこと、分かっているのに。分かって、いるのに・・・。
消えてしまえたなら、いなくなってしまえたなら、どんなにいいのだろう。
「(どうして私を白い髪に生んだの?どうして、お父さんも、お母さんも、綺麗な緑色の髪なのに・・・どうして!)」
市場を抜け、村の一番端にある店へたどり着く。
早足で歩いてきたせいか、息が上がる。それを抑えるようにハクは一度大きく深呼吸をした。
持っていた手編みのかごの手をぎゅっと握り締める。
「ごめんください」
小さな声で声をかける。
誤魔化すように被った緑色のフードを深く被りなおした。
「はーい!ちょっとまって!今開けるから!」
まるで小鳥のさえずりのような、可愛らしい澄んだ声が耳に入る。
―ここも、何も売ってくれないのかしら。
市場の真ん中で無理やりフードを奪われたときのことを思い出す。
一瞬市場中の動きがぴたりと止まった。
次の瞬間にはすべての店という店がハクに向かって罵倒を浴びせた。
それとともに飛んできた様々な果実や野菜が、服にしみを作る。
『せめてその汚らしい白い髪を緑色に染めておいで!!』
その言葉が何度も何度も思い出される。そんなこと不可能なのに。
『嫌!痛い!やめて!』
どうして・・・どうして私は醜いの?
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「お待たせ!何を買ってく?」
俯いて下を見つめていた瞳に、美しい緑色の髪を捉えた。
「や、やっぱりいいです!ごめんなさい!!」
その瞬間どうしても耐えられなくなり、後ろを向いて走り出した。
「嫌!!!嫌!!!」
無我夢中で走る。右も左も分からない。
―あんな美しい緑色、初めて見た。
「嫌!!!どうして!!!どうして!!!」
市場を駆け抜け、森に入ると叫んだ。
「どうして私は緑色の髪じゃないの!!!どうして!!??」
そのまま立ち止まって空を見上げる。
深緑の木々に囲まれた青の中を、白がゆっくりと進む。
そしてそのまま膝を着いてその場に座り込んだ。
すんすんと鼻を鳴らしながら辺りを見回せば、奥から川の音が聞こえる。
ー喉、乾いた・・・。
全力疾走した上に、叫んだせいなのか、喉がからからと渇く。
ハクはゆっくりと立ち上がった。
せせらぎの音に誘われるかのようにふらふらと川の方へと向かう。
「・・・・・・え・・・?」
川を見つけたかと思えば、そこには大きく枝を開き、美しい深緑の葉をその身にまとった大木が聳え立っていた。
「これって……伝説の、千年樹・・・?」
――千年樹の周りには美しい様々な花々が咲き誇り、蝶が飛び交い、傍には細く、きらきらと輝く小川が流れている。そして千年樹を見つけた者は、一つだけ願いが叶う。
そんな伝説を思い出した。
―まさか、そんな。私なんかが見つけられるわけない。
半信半疑ながら、ゆっくりと近づく。
ハクはその前に跪き、胸の前に手を組む。
「(私の髪を、綺麗な緑色にしてください。それがダメなら―・・・誰でもいい。誰でもいいから、私に友達をください)」
そう目を瞑りながら心の中で呟いた。
もしかしたら、という思いと、そんなことありえない、という思いが入り混じる。
ハクはゆっくりと目を開ける。そしてその木に背を預け、もう一度目を閉じた。
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