町外れの小さな港に、みすぼらしい格好をした『少年』が一人、両手を広げて立っていた。彼は知る人ぞ知る無名の語り部だ。
深く帽子を被ったその顔は見ることが出来ないが、身に纏ったベストはどこか王宮の小間使いを思わせる風貌だった。だがその服はひどく汚れており、見る影もない。持つ詩は一つだけだが、その詩には深く真実味がある。時には栄華の影を、時には悲壮の色を濃く映しながら彼は歌った。
ある所遠い国、黄の国の話を。
「むかしむかしあるところに
悪逆非道の王国の
頂点に君臨するは
齢十四の王女様――…」
「王女の召使志願って、正気なの?!」
何度目になるか分からないような問いに、少年は内心うんざりしつつも首肯した。今ほど正気な時もない、小声でそう返したきり少年は黙り込む。二つの靴音だけが絨毯に沈み込むような篭った音を立て、だんだんと彼の目指す扉が近付いてきていた。
「……汚名を着ることになる。それでも行くの、レン?」
「汚名なんて覚悟の上さ」
到底立ち止まりそうにない彼を挑発するような視線で静かに見やれば、酷く落ち着いた声でメイド―ネルが言う。それにレンと呼ばれた少年は、険しい表情のままはっきりと言い放つ。迷いも躊躇いもないとでも言外に言っているような声色だった。
表情に揺らぎ無い決心を見てネルは怯みかけたが、もう一度レンを睨むように見据えて目の前に立ち塞がる。至極不機嫌そうなレンの表情とぶつかり、一度開きかけた口を閉じてしまう――だが思う言葉は、さらりと口に出せるものだった。
「……、本当にわかってる?『レン王子』」
落ち着いた声でメイドが言う。言われた瞬間こそレンは眉を顰めたものの、すぐに持ち直してもとの無表情に戻ってしまった。
「僕はただの小間使いだ、十一年前のあの日からずっと」
感情すら感じられないようなその言葉に、今度はネルがひどく顔を歪める番になった。ネルの表情を一瞥しただけで、レンは気にしたふうもなく彼女の隣をすり抜けてしまう。
振り切られまいとネルは早足に追うが、距離は開いていくばかりで埋まる気配はない。レンは息一つ乱れずに歩き去ってしまうが、その背が完全に見えなくなる前にネルは大きく息を吸い込んだ。
「~~っ……戻って来たら承知しないから!」
ただっぴろい廊下に吸い込まれるようにして、ほとんど絶叫に近いネルの声が消えた頃、レンが行くべき扉に手を掛けて振り返った。涙目になりながら息を乱すネルを見て、苦笑にも近い表情を浮べてレンは軽く手を振った。
「……ありがとう」
ネルの執拗な追求が心配だと悟ったレンは、そう言って心からの笑みを見せ扉の向こうへと消えていった。彼が志願したその職――悪の娘、リン王女の召使となる為の扉へと。眉を寄せ、ネルは一目散に扉から遠ざかる。
物語は紡がれ始めた。
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続くと思い…ます。
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