『テンガ』
朽木の山道の外れ 山紅葉の群生を抜けて
薄暗い獣道を掻き分け 息を切らし登ると
岩肌が剥き出しの断崖絶壁がそそり立つ
意識が遠退く程の息を吸い込み
ありったけのバカ声で叫ぶと
そいつはその岩場をピョンピョン飛び降りて来た
天狗に俺は問いかけた
「俺は幸せになりたい」と
天狗は俺に問いかけた
「お前にとっての幸せとは?」
俺は思案する 黙り込む
山の谷あいの小川 もっと上流に向かい
シダの葉が生い茂り サンショウが現れ
やがてその流れも先細りもはや湧水となり
得たいの知れぬ木々を打ち払うと
天狗の住み処が当たり前のようにそこにある
天狗は俺に問いかけた
「お前はこの世にとって何だ?」
天狗に俺は問いかけた
「そんなこと聞いてどうする?」
天狗は俺を指差す 笑笑う
天上テンガ 唯我独尊
我思う故に我あり
天上テンガ 唯我独尊
我思う故に我あり
自分で決めるしかないのさ
自分で行くしかないのさ
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