傷ついた日の夢の欠片が 残してくれた一片の羽根
もう迷わないよ、どこまでも続く蒼穹(そら)の下
降り注ぐ春の日に抱かれ 花と虫の歌を二人聞いた
こんな穏やかな日々が いつまでも続くと信じてた
僕にそっくりな影に 告げられた真実は 無情
枯れ果てていく、仮初ごと 希望も
不意に雷(いかずち)が閃き 鳥が君をさらい 夢は僕をさらう
涙に滲んだ虹色の光 不敵な声に引かれ檻を飛び出した
遠い日々の彼方 忘れられた庭君と二人で
楽園に咲き乱れる花の夢を見て笑った
僕は行くよ、何度でも この優しい世界に目覚めるため
守りたい強い気持ちが今産声を上げる
そうして一人きりどれだけ 長い道を駆け続けただろう
いつしか僕の足は 四つ足の獣のそれに
いつからだったかな あるいは 最初からそうだったのか
外の世界の人は 僕を恐れ 蔑んだ “傲慢王女の騎獣だ”と
誰も耳を貸さない 楽園も羽根の虹色も
“得意の嘘だろう、探して食べる気か”
抗う声は咆哮 ヒトは 理解しようともしてくれない
星も見えない暗い闇の中 羽根の光だけが僕の羅針盤だった
踏みしめるこの現在(いま) 見えない君と光を追う
駄獣は僕を笑いとんだ馬鹿正直だとなじる
“忠誠心?諦めろ” “お前はただ騙されていただけだ”
“愛されぬもののためなんて何になる”
遠い日々の彼方 笑い合った日々ずっと信じてる
甘く誘う蛇を踏みつけて走った
“利用されろ、いつまでも” 囁きに耳を塞ぎ牙を立てた
残された希望と愛が揺らいでしまわぬように
だけど ああ
鳥も見失って 石を投げられた体はボロボロで
走り続けた四肢はもう動かないよ 必要もないのなら 今 楽にしておくれよ
唯一取り戻せた 君が言う “大丈夫 信じてる”
ああ今分かったんだよ、狼には きっとイワンが必要だったんだって
閉じ込められているのは 僕ではなく外の人たち
緑の箱よりも厳しい、絶望の檻の中
鎖を解かれるその日を 待ち続けてるだけじゃ何も変わらない
自分の足で灯(ひ)を探す勇気を そう君がいてくれたから
冷たい極夜超えて 約束の懐かしきあの庭に
古ぼけた赤十字(ロザリオ)を羽根と共に沈めた
溢れ出す、清い水 鴻の歌が聞こえた
“これが始まりだ、これからは君と行こう”
愛の無い世界駆けて この身を盾と剣にして
馬鹿と呼ばれながら優しい夢を見よう
守り抜くよ、何度でも どんなにか世界がわがままだって
取り戻せたら、君とまた 楽園に黄金の林檎を植えよう
迫りくる終焉(おわり)超えて 遠い昔君と二人で
笑いあったこの庭を、愛する世界を守ろう
進んで行く、受け継いだ この赤い熱が僕を巡る限り
放たれた騎獣が広野を駆けてゆく
どこまでも繋いでゆく
faithful garden -大神の居た庭-
――――箱庭の国に君臨するわがままな王女。そして彼女に付き従う、忠実でちょっぴり不幸な狼の話。
新世界の子供たちを描く「英雄」シリーズ、久々の新作追加です。
前々からエピソードはできてたんですが詩作化に思ったより難儀した。タイトルも内容も何度かの変遷を経て今に至ります。
元になったのはロシア民話「イワン皇子と灰色狼と火の鳥」。イワンのわがままに付き合う狼がひたすら優しくてかっこよすぎる。
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