18.差し出された手 X 僕のココロ
部屋には変わらず、ほこりと煙が舞っていて、必ずしも視界は良好とは言えない。
その中にいて、少女の紺碧の瞳は、はっきりと見てとれる。
少女は相変わらずの無表情である。
ライムは、先程まで少女とつながっていたはずモノが感じられずにいた。
あるいは、自身がそう思い込んでいただけなのかもしれない。
しかし少なくとも、一見同じに見える少女の無表情も先程までとは、まるで印象が違う。
今は、とても冷たく感じるその表情からは、何も伝わってこない。
あるいは、自身が拒絶してしまっているだけなのかもしれない。
あれこれとまだ少年の気持ちの整理のつかない間に、冷たい目をした少女は、
尻もちをついたままの少年に、すたすたと近づいてきた。
あらゆる出来事の真意が探れずにいる少年は、一瞬の恐怖を感じ、ビクッと身を揺らした。
その時、向かって少女よりもさらに奥に行った所辺りで、壁が崩れる音が響いた。
先程、男性が飛ばされていった辺りだ。
壁が崩壊する音が響く中、少年は少女の後ろの奥で漂っている煙の中に人影を見た。
徐々に大きな音が止むと、人の笑い声の様なものが聞こえてきた。
「――、――く――。ククク、くくく、ハーハハハハ」
耳にザラザラと当たるような、下品な笑い声が辺りに響いた。
ライムの方を向いていたミクも、その声を聞き、後ろを振り向いた。
煙がふいに晴れていき、その下品な笑い声の主が姿を現した。
鋭い目つきをした男は頭を押えている。押えた手の指の隙間からは、少し血が流れ出ている。
しかし、先程男に降りかかった災難をかんがみると、その傷はいささか浅いようにも思えた。
頭から血を流したまま男は、うすら笑いを浮かべて、こちらに大きな声で話しかけてきた。
「どうして、わかったんだ? 俺が敵だって…… ケヘヘ」
ライムにとっては、男のこのセリフは重大な内容をはらんでいた。
事態が把握できていないライムは、未だにどちらが自分に害をなすものであるのか、
あるいは、どちらもそうなのか、把握できずにいた。
しかし、男が自ら”敵”であると語ったことで、事態の一つを把握するに至った。
「……におい」
少女はたった一言、男に向かって答えを投げつけた。
「はぁ? 俺、そんなに臭せぇか?」
男は、自分の腕や脇の臭いを確認し始めた。
「……ケモノの、あのケモノのにおいがした……」
ミクの言う”あの”とは何を指しているのか、少年にはわからなかったが、
指摘された本人は、何かに気付いたようであった。
「……そうか、お前……。なるほど、そういうことか。鼻もいいってことか……」
一人で勝手に納得した様子で、なにやら満足そうな顔をしている。
男はおもむろに頭を押えていた自分の手を除け、その手に付いている自分の血を舐めとった。
遠くで笑みを浮かべているその男を見て、ライムは背筋が凍りつく感覚をおぼえた。
あれほどの大きな音がしたにもかかわらず、未だに助けが来る様子はない。
この限られた空間の中には、男と少女と自分の三人しかいない。
ふっと少年は、空間を支配する空気が変化する様を感じた。
キンッと張りつめた空気が一瞬で場を支配した。
静寂すらもその場から逃げ出したくなるような空気で、呼吸することもできない。
時間の感覚すらも無くなった、その部屋でどのくらいの時間が経っただろう。
本当は、ほんの数秒しか経っていないのだろうが――。
静止画のようなだった風景が、突然揺れ動いたように見えた。
――手が見えたんだ。僕に向かって差し伸べられた細い指をした手が……
――迷ってる時間なんか無かったんだ。一瞬だったから……
――でも……
――そんな時間は必要なかったんだ。僕のココロはもう決まっていたんだから……
手を差し出した少女とその手を握りしめた少年は、男とは反対方向へ走り出した。
すぐ目の前には外が広がっている。しかし、その間には窓が立ち塞がっている。
そして、ここは二階である。
しかし、この危機的状況においても、少年には恐怖は無かった。
手のひらから伝わってくる少女の温度をただ感じていた。
そして、そのまま窓ガラスを破壊し、少女と少年は宙へと投げ出された。
そこで見た世界は、どこまでも遠く広く彼方まで続いていた。
しかし、宙に投げ出されたモノは必ず地へと落ちるものだ。
その法則に従い、二人はやがて落下していく。
すると、空中でミクはくるりと反転し、ライムと向かい合った。
長いさらさらとした髪が風ではためいている。
月明かりに照らされたその姿はまるで、絵本の中に出てくるお姫様のようだ。
一瞬みとれているライムを、ミクは両手で優しく包み込むように抱きしめた。
戸惑うライムを次に襲ったのは、強烈なG(ジー)であった。
そして辺りには土ぼこりが舞った。
広い庭には、地面を削ったような二本の線が残り、その先には
放電音を発する少女と彼女に抱きかかえられた少年の姿が見てとれた。
それはまるで、絵本の中に出てくるようなワンシーンであったが、
くしくもそれは、少年が見た物語とは真逆の立ち位置であった。
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