注意書き
 これは、『眠らせ姫からの贈り物』を題材にした作品です。
 ですがろくな話じゃありません。
 書き手が趣味に走った結果、原曲とは大分設定や内容が変わった上に、
 ジュリア:死ぬほど性格の悪いねーちゃん
 マルガリータ:度を越したバカ
 と化してしまいました。しかも悪趣味な内容……。
 というわけで、どんな話が出てきても大丈夫という方だけ、お読みください。
 絶対原作者のイメージがこんなのじゃないことだけは、保証いたします。
 

 【眠らせ姫からの贈り物】


 ハァイ、みなさん! ジュリアおねーさんのお話タイムにようこそ~!
 今日は、エルフェゴートって国にある、トラゲイって街で起きた事件のことをお話してあげるわね。あの街で大勢の人が死んでからまだそんなに経ってないし、みんな憶えているんじゃない?
 あの事件を起こしたのがマルガリータ・ブランケンハイムって女でね。まあ、色々言われてるわね。毒婦だとか、哀れな女だとか、狂信者だったとか、本当に色々。ああいうのって確かに、話のネタとしては面白いのよね~。よく言うじゃない、受ける話を書きたけりゃ、色恋沙汰と人死にを盛り込めって。ちょうど両方を満たしてたからね、あの話は。
 本当のマルガリータはどんな女だったのかって? じゃ、それを今から話してあげるわ。何しろあたしは、本物のマルガリータと会ったことがあるんだもの。
 え? あたしは幾つなのかって? やーね、レイディに年なんて訊くのはマナー違反だって、お父さんお母さんに教わらなかったの?


 あの当時、あたしはトラゲイでちょっとした店をやってたのよ。「ジュリアの何でも屋」って名前のね。そこで占いをやったり、ちょっとしたおまじないの品や、色んな効果のある薬なんかを売ってたわけ。まあ、ほとんどの場合は遊びみたいなもんだったけどね。相手の話を聞いてあげて、適当に頷いてりゃ、向こうは納得しちゃうんだもの。いや、世の中単純な人が多くて助かるわ。
 とまあそんなわけで、その日もあたしは店のカウンターの向こうに座ってたのよ。そうしたら、店の前に馬車が止まってね。中からいかにも高そうな外出着を着込んだ、若い女が降りてきた。一目見た瞬間、あ、上客だって思ったわね。
 彼女はしずしずと中に入ってくると、あたしの前に立った。あたしは営業スマイルを浮かべて、こう言ったわ。
「いらっしゃい、『ジュリアの何でも屋』にようこそ。あたしが店主のジュリアよ。お客さんのご要望は何?」
 ま~どうせ恋わずらいの類でしょ、と、その時あたしはそう考えていた。だってこの店にくる若い女の客の九割の用事って、それだもの。いや本当に、みんな飽きないわね。まあ仕方ないか。人間ってのは、年がら年中発情してる生き物なんだから。
「あ、初めまして。わたし、マルガリータ・ブランケンハイムです」
 ブランケンハイム……どっかで聞いた名前だわ。あ、そうそう、この街にでかい屋敷を構えている貴族が、そんな名前だったわね。ブラケンハイム侯爵。ということは、この女はそこの人間か。
「ブランケンハイムっていうと、ブランケンハイム侯爵の……?」
「妻です」
 ああ、そういや今の侯爵って若い男前だったわね。で、この目の前のマルガリータとやらがご夫人か。
「ブランケンハイム侯爵夫人は、このジュリアに何をお望みなのかしら?」
 侯爵夫人ってことは、恋わずらいじゃあないのかもね。まだ若いツバメを必要とする年齢でも無いみたいだし。
 マルガリータは店の中をぐるっと見回した。ちなみに店の中にはあたしの趣味で、でかい水晶の塊とか、ドライフラワーの束とか、トカゲの干物とか、いろんなものが飾ってある。うーん、実にうさんくさい雰囲気。
「あの……」
「うん?」
「ええと……」
「どうぞ」
「わたし……何をしにきたんでしたっけ?」
 あはははは、と、乾いた笑いがあたしの口から漏れた。何なのこの人。それはあたしが訊きたいわよ。あいにく、あたしは読心能力は持ちあわせちゃいないんだから。
「何かあたしに頼みたいことがあるから、ここに来たんでしょ、ブランケンハイム侯爵夫人」
「どうぞマルガリータ、いえ、マリィとお呼びください」
「ああそう、じゃ、マリィ。あなたの望みは何?」
 マリィは首を傾げて天井を見た。結構美人……というか、可愛らしいタイプだ。ま、あたしにはどーでもいいことだけどね。
「あの……」
「うん?」
「ええと……」
「で?」
「わたし……夫がいるんです」
 はあ。あたしはカウンターに突っ伏したくなるのを必死でこらえた。そりゃいるでしょうよ! ブランケンハイム侯爵夫人なんだから。あ、未亡人になっても夫人は夫人ね。でもブランケンハイム侯爵がピンピンしてるのは有名だしなあ。
「それで? 夫が何? 浮気? ギャンブル? 暴力?」
「あ……その、一番最初の奴です」
 つまり浮気か。珍しい話じゃないわね。
「あ~はいはい、浮気ね。心配しなくてもよくあることだから。で、あなたの要望は? 亭主に死んでほしい? それとも相手の女? あるいは両方まとめて? あ、復讐はしたいけど死なれるのは嫌ってんなら、不能にするって手もあるわよ」
「わたしとあの人……政略結婚なんです。わたしは裕福な医者の娘。財産目当てだということは、最初からわかってました」
 あたしの説明を無視して、マリィはとうとうと自分の事情を語りだした。どうでもいいんだけどなあ、そういうことは。死ぬほどよくある話だし。
「でもわたし……それでも良かったんです。わたし……小さい頃は見た目がぱっとしなくて、いつもいじめられて泣いてばかりいました。そんなわたしにカスパルが言ってくれたんです。『君はとても魅力的な人だよ。大きくなったら、僕のお嫁さんになって』って。わたし、その言葉を支えに今までがんばってきました。一生懸命外見に気を遣って、魅力的に見えるよう努力して。カスパルのお嫁さんにさえなれればいい……たとえあの人が昔とは変わってしまっていても、傍にいられさえすればいいって……」
 うーん、外はいいお天気ね。風が気持ち良さそう。こんな日は店にこもってるよりも、外でピクニックでもした方が楽しいんじゃないかしら。
「あの人がわたしの持参金で遊びまくっていても、毎晩のように帰りが遅くても、酔っ払った勢いで他の女性を連れてきて、わたしの目の前で行為に至っても、そんなのはどうでもいいんです。だって……愛しているんですから」
 うわあすごい自己完結。バカじゃないの、この女? そこまでコケにされてんのに怒りもしないで、涙ながらに、でも愛しているんです、か。いるのよねえこういう女。どうしようもない遊び人タイプに惚れこんだあげく「わたしの愛情に気づいて、いつかあの人も変わってくれるわ」って思い込む生き物が。断言しちゃうけど、そんなことあるわけないじゃないの。少しは現実ってものを見てみたら? ああ、バカだからできないのね。
「……で、用件は?」
 いいかげんうんざりしてきたので、あたしはマリィにそう訊いた。この女の不幸話を一日聞かされたら、さすがのあたしでも我慢の限界だわ。
「最近……あの人、疲れてるみたいなんです」
 疲れてる、ねえ。ヤりすぎって奴かしら。超強力な精力剤でも出してあげればいいのかな。あんまり飲みすぎると、髪が真っ白になって足腰が立たなくなったりするけど。
「で?」
「夜もあまり眠れてないみたいですし……」
 眠れてないんじゃなくて、寝てる暇がないだけなんじゃないの、その亭主。機会さえあればやる気があろうとなかろうといつでもOKってね。
「だから、夜はぐっすり眠らせてあげたいんです」
 へーえ。ずいぶんと変わった望みだわ。一服盛って死んでもらうとか、媚薬でも買って亭主とヤりまくりたいってんならわかるけど、眠らせてあげたいって? 永遠にってわけでもなさそうだし。
 つまんないなあ。もっと刺激的な相談なら良かったのに。ま、いいや。とっとと望みの品を渡して、お帰り願おう。幸い、金払いだけは良さそうだし。
「あ~はいはい、それじゃ、超強力な睡眠薬を出してあげるわ。飲んだらその場にぶっ倒れるぐらいよく効く奴をね」
「本当ですか!?」
 顔の前で手をあわせ、笑顔になるマリィ。うっわー、今の言葉の意味を勘ぐったりとかはしないんだ……。ま、本当にただの睡眠薬だけどね。分量を守ってれば。
「それがあれば、あの人、気持ちよく眠れるんですね?」
「まあね~。あ、でも、使用量はちゃんと守んなさいよ。でないと、眠りは眠りでも、二度と目覚めない深い眠りに入っちゃうからね」
 あたしはそう言って、うちの商品の中でも一番強い睡眠薬をマリィに一瓶売ってやった。金持ってるだろうと思ったから相場の倍ほど吹っかけてみたけど、マリィは笑顔でお金を払ってくれた。……ほんと、バカだわ。ま~いっか。金さえ払ってくれればどんな客でもね。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

眠らせ姫からの贈り物 前編

閲覧数:882

投稿日:2012/01/02 18:39:16

文字数:3,686文字

カテゴリ:小説

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