とてもとても狭い森の一角に、少女は一人住んでいました。
ある日いつもの様に一人で空を眺めていると、すぐそばから話し掛ける声がありました。
少女は生まれた時からこの場所に一人でしたから、初めて聞く自分以外の声に驚きました。
「あなたは誰?」
恐る恐る尋ねます。
「僕は風さ。色んな所を旅しているんだ。君は誰だい?」
「・・・わたしはわたし。それ以外は知らないわ。」
少女は躊躇なく話をする風を少し苦手に思いました。
自分以外の話す誰かなど、知らなかったのです。
「君はここに住んでいるのかい?」
風は少女に興味をもったらしく、すぐそばの切り株に腰掛けて言いました。
「えぇ、まぁ。」
どう話していいのかわからず俯いていると、風はなおも言葉をかけてきます。
「もしかしてずっと一人で暮らしていたのかい?こんな狭い所で一人なんて、僕には耐えられないな。外の世界は見たことないのかい?とても素晴らしい所なんだ。こんな切り株だらけじゃなくて、もっと大きな木も、春になると綺麗な花だって咲くんだ。きっと君も気に入るはずさ。今度連れて行ってあげるよ。」
風の言葉は、少女には理解出来ませんでした。
今までいたこの場所が、少女にとって一番素敵な場所であり、さらには素晴らしいと思える場所だったからです。
でも言われてみると、風の言うような花というものも、大きな木もありません。
森の切り取られたような空間に、少女の座る切り株が二つ三つあるだけです。
少女は戸惑いました。
今までこの場所から出る事など考えた事もなく、外の世界は怖い所だと、生まれてすぐに誰かが言っていたような気がするのです。
迷った末に少女は言いました。
「あなたの言う花や木は魅力的だけれど、私はここが一番好きなの。それに、外は怖い所だと聞いたわ。ここは安全だもの。私はここにいるわ。」
「これからもずっと出ないつもりかい?」
「えぇ、そうよ。」
風がまさかそんなと言わんばかりの表情をしたので、少女はすまして答えました。
「ふーん。つまらないなぁ。でも君がそう言うなら仕方がない。僕はそろそろ行くよ。」
そう言うと風はふわっと何処かへ行ってしまいました。
あまりに素早く去ってしまった風を呆気に取られて見送った少女は、ふと思いました。
風は、生まれて初めて話した外の誰かだったのです。
確かに、さも当たり前の様に話してくる態度や言葉は好きになれませんでしたが、それでも誰かと一緒に居て話をしていた事を思うと、何故か今まで感じたことのない胸が詰まるような感覚がするのです。
空を見上げてみました。
空とは遠くて話は出来ないけれど、いつも見守ってくれているようで好きでした。
でもその空でさえ、何故か今日はいつも以上に遠く感じるのです。
気がつくと、目から雫が零れ落ちていました。
初めて泣いているのだと気づいた時、どうすることも出来ず延々と泣き続けてしまったのです。
太陽が昇っては沈み、また昇りました。
三度目の太陽が真上に来る頃、少女はやっと泣き止みました。
それでもまだ心はしくしくと痛みます。
その時でした。
「やぁ、やっと泣き止んだのかい?これ以上水を浴びたら枯れてしまうところだったよ。」
声のした方に目をやると、丁度少女の足元に小さな双葉が芽生えていました。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

無題

まだ未完成です。
思いつくままに書いてしまったので、読みづらい箇所が多々あると思いますが、時間をかけて続きや全体をまとめて行こうと思っていますので、雰囲気だけでも感じて頂けたら嬉しいです。

閲覧数:168

投稿日:2013/11/17 05:39:56

文字数:1,362文字

カテゴリ:小説

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