スタジオでの3日目の夜。

ここで仕事をしていることを知らないはずの、ミクさんからメールが来た。
リンちゃんと相棒のサナギちゃんが、首をかしげ、顔を見合わせているところに…

また、部屋の電話が鳴った。おずおずと、リンちゃんが受話器を取る。
「あ、ベニスズメさん? はい。え?」

さっきと同じように、何かけげんそうに聞き入るリンちゃんを見て、サナギちゃんはさらに不安になった。
眉にしわを寄せたまま、受話器を置くリンちゃん。

「なんだって?ベニスズメさんでしょ?いまの」
「うん。…なんかさ、変なんだよ。よくわかんないんだけど」
リンちゃんは、頭に手を当てるようにして考え込んだ。


●食べたら、早く寝てください

サナギちゃんは、彼女の顔をのぞきこんだ。
「なんだって言うの?」
「それがね。これから食事を運ばせるから、それを食べてくれって。それで…」
「それで?」
リンちゃんは、相棒の顔をみつめ返した。
「食べたら、早く寝てくださいって。いろいろ仕事してくれて、疲れてるだろうから、って」

サナギちゃんは、なんとなくホッとした表情になった。
「なんだ。けっこう優しいじゃん」
「でも、そう言った後にね」
リンちゃんは、まだ眉にしわを寄せている。
「こう言うんだよ。眠ったら、できるだけ明日の朝まで、部屋を出ないでくれ、って」

「ええ?何でさ」
ゆるんだ表情が、また不安になって、聞き返すサナギちゃん。


●いつもの口調じゃない

「部屋を出ないで、って、なにそれ。なんで出ちゃいけないの?それって監禁じゃん」
口を尖らす相棒に、リンちゃんもうなずく。
「だよね。やっぱさ、いま帰ったほうがいいかな。なんか、いつものベニスズメさんじゃないんだよね、言い方が」

2人はしばらく、顔を見合わせていた。
意を決したように、サナギちゃんが立ち上がる。
「なんで、部屋を出ちゃダメなの?ひょっとしてもう、閉じ込められてるとか?」

そういって、足早にドアの方に向かい、ノブを回してドアを開く。
そして、廊下に出ようとしたとたん…

「お食事をお持ちしました」
部屋の前の廊下に、ホテルのボーイがワゴンとともに立っていた。

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玩具屋カイくんの販売日誌(253) やっぱり帰ったほうが… ~スタジオでの出来事 5

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投稿日:2015/06/06 21:20:45

文字数:914文字

カテゴリ:小説

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