TAITO~ONLY YOU……~ 2
「名前」

 しばらく歩いて、俺は少女の自宅のマンションの一室に居た。

 俺と少女以外に、人の気配はない。

 ……一人暮らしなのだろうか?


 『えーと……お父さんが昔着てた服なんだけど……
  とりあえず、これに着替えなよ。』

 『……え?』

 『いくら機械だから風邪引かないって言っても
  濡れたままは嫌でしょ?』

 『…………。』

 『あ、私は隣の部屋に居るから。着替え終わったら教えてね!』

 そういうと、少女は部屋を出て行った。
 ここは……素直に従った方が良いのだろうか……。

 俺は、濡れて重くなった自分の服を脱いだ。

 不意に近くにあった鏡に自分の姿が映った。


 黒ずんだ紫の髪。
 血のように紅い瞳。

 頭から顔の右半分を覆う包帯。

 身体中を覆う……包帯……。


 この傷は、自分でやったものだ。

 幽閉されている間、俺は毎日のように自傷行為を繰り返していた。

 研究員達は、どうせ解体されるからと放って置いてたけど

 ついに右目を刳り貫こうとした時は……

 さすがに止められて、瞼に深い傷跡が残っただけだった。

 ……これも、エラーの影響らしい。

 いや、そもそも……起動したばかりだった
 俺のどの部分にエラーが発見されたのか……
 俺自身、知らされていなかった。

 それがより一層、俺の不安を掻き立てた。

 傷もどんどん増えていく。

 傷つける事で……安心……したいから……。



 ……自分は『生きている』と……確認したいから……。



 『……どーぉ?もう着替えた……って、きゃっ!?』

 『……っ!』

 少女に身体の傷を見られた。

 少女は瞳を見開いて、顔は青ざめている。

 当然と言えば当然だ。
 ……誰だって……こんな傷(もの)見たら……。


 『……その……傷……。まさか……自分で……?』

 『…………。』


 俺は黙って頷いた。ここで嘘をついても仕方がない。


 『……痛かった……よね……。
  何か……辛い事があったんだね……。』

 『……?』


 少女の顔に視線を向けると、少女は……泣いていた。

 『……どうして……泣いているんだ?』

 『あ……ううん。な、何でもないの……!
  ごめんね、突然泣いたりして……。』

 『…………。』

 『えっと……包帯も濡れちゃってるね。
  今、新しいの……持って来るから……待ってて。』

 少女は戸棚の方へ歩いて行った。
 俺は少女の後ろ姿をじっと見ていた。



 何だろう……。胸のあたりが……『痛い』……。

 傷の痛みではない……。これは……いったい……?



 俺は少女に包帯を替えてもらった。

 少女は俺の右目の傷を見た時も、一瞬だけ悲しい表情をした。

 だけど……傷については何も言わなかった。


 『……アナタ、何であんな雨の中の公園に居たの?』

 『え……。』

 ……何て答えたら良いのだろうか……。

 『ねぇ、アナタって……髪と瞳の色は違うけど
  ……KAITO……だよね?』

 『……俺……は……。』


 ……『俺』は…………『何』だ……?


 『……分から……ない……。』

 『えっ……?』

 『俺は……KAITOであって、KAITOではない存在……。
  俺は……出来損ないの……VOCALOID……。』



 『俺』は『俺』が分からない。
 『KAITO』とは名乗れない……出来損ない……。


 『俺』には……『名前』がない……。



 『…………じゃあ、帯人って名前にしない?』

 『……え?』

 『帯人……。それがアナタの名前。』

 『……た……い、と……?』

 『うん♪包帯がトレードマークのKAITO……。
  略して、帯人……で、どうかな?』

 少女は俺に優しく微笑んだ。



 ……嬉しかった。


 『名前』……俺の『名前』は……『帯人』……。



 『……俺は……帯人……。』

 『そうそう。気に入ってくれたみたいで……良かったわ。
  ……ねぇ!帯人はこれから何処かに行く宛はあるの?』

 『……いや……別に。』

 研究所を逃げ出した後の事なんて、何も考えてなかった。

 『じゃあ、ここにしばらく私と暮らさない?
  帯人と今日出逢ったのも、何かの縁だし。』

 『え……。』

 『私、お母さんは居ないし、お父さんも単身赴任で
  ずっと家を空けてるから……男手が足りなくて
  困ってたんだよね。』

 『…………。』

 ……何か……俺に拒否権はないような気がする……。

 『……分かった。』

 『本当!ありがとー!これからよろしくね!帯人っ!』

 少女はまた俺の手を握った。
 やっぱり、彼女の手は温かい……あ。

 『名前……聞いてない……。』

 『え?あ、ヤダ!私ったら、名乗るの忘れてた!
  私は……幸音。北條 幸音(ほうじょう ゆきね)よ。』

 『……ゆき……ね……。』

 『そう、幸せの音って書いて、幸音。
  あはは、何か私には似合わないよね~。』

 『……良い……名前だと……思う。
  幸音に……似合ってる……。』

 『ふふ……そう言われると……嬉しいなぁ。
  ありがとね、帯人!』



 ……俺に名前をくれた……幸音……。

 この感覚は……何だろう。

 さっきは痛かった胸が……温かい。



 ……幸音……俺の……幸せの音……。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

TAITO~ONLY YOU……~ 2

続きです。この帯人は最初、生い立ちのせいで
具体的な名前が分からないって設定です。

結構長文になっちゃいました。
後、この文章書いてる時、直前まで幸音の名前に
悩んでました(汗)。
『音』っていう字をどうしても入れたくて……。
色々考えてたら、時間がすごい過ぎてました。><ノシ

そして、なんと!実はこの後の展開は……
まさかのノープラン!(←オイオイ!?)

あ、いや……大まかには考えてはあるんですけどね……
もうちょっと話を固めないと書けないっていうか……ねぇ?

とにかく、次はどうなるんでしょうか!?
帯人と幸音の運命や如何に!?

ちなみに、この話は全体的に暗くて重い予定です。
それでもおkなら待っててくださいね☆(←今更言うなよ)

追記:続き出来たよ~。

閲覧数:375

投稿日:2009/04/22 18:06:02

文字数:2,298文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

  • 関連動画0

  • beni30

    beni30

    ご意見・ご感想

    帯人が幸音と出会ってどうなっていくのが楽しみです^_^
    頑張って下さい!

    2009/04/23 13:25:33

  • 桜宮 小春

    桜宮 小春

    ご意見・ご感想

    こんにちは、桜宮です。
    帯人ったら…遠慮しないで幸音に甘えちゃえばいいと思うよ!←
    自分が何かわからないって、想像するしかありませんが、私たちが思う以上に辛いでしょうから、そういう意味でも…。

    暗くて重くても全っ然平気です!
    頑張って下さい!

    2009/04/23 10:10:31

クリップボードにコピーしました