「未来に手を振る者たち」

木漏れ日が降り注ぐ狭い公園のベンチに、二人は座っていた。片方の青年、アキトは手にビー玉を握りしめ、それをじっと見つめている。小さなビー玉の中には、青と緑の色がぐるぐると渦を巻いていて、それが光を受けるたびに不思議な輝きを放っていた。もう片方にいる少女、カエデは何も言わず、ただその様子を眺めている。
「これが、全部の始まりだったのかもしれない。」
アキトがぼそりとつぶやいた。
「全部って、何のこと?」
カエデは首をかしげた。
「俺たちがこうして生きている理由だよ。いや…生きようとする理由、って言うべきかな。」
アキトはビー玉を握りしめ、胸の前に持ち上げた。
「これ、覚えてる?昔、俺たちがここで拾ったやつ。あの日、何もかも失ったって感じたのに、ただのビー玉ひとつで俺たちは必死に笑おうとしてた。」
カエデは静かにうなずいた。
「覚えてるよ。あの時は、本当に小さなものでも救いに感じたんだよね。」
彼女はそっとベンチに寄りかかり、空を見上げた。木の葉がそよ風に揺れる音だけが耳に届く。

二人が出会ったのは、もっと前のことだった。アキトが家族を事故で失い、ひとりぼっちになった時。カエデも同じように孤独を抱えていて、互いの存在が救いだった。公園で出会った日、カエデが道端で拾ったビー玉をアキトに手渡し、「これはね、未来の種だよ」と微笑んだことをアキトは今でも覚えている。その言葉は、不器用で何もできない自分を少しだけ強くしてくれた。
だが、それから年月が経ち、二人はまた孤独の中に閉じ込められることが多くなった。社会の中で自分の価値を探し、理由を問い続ける日々の中で、いつしか希望を見失いかけていた。

「私たち、弱いね。」
カエデがつぶやく。
「息をするだけで精一杯で、未来なんて怖くて見えない。」
「でも、それでも生きるしかないんだろ?」
アキトは苦笑した。
「生きる理由なんて、もしかしたら最初から無いのかもしれない。でも、無くてもいいんじゃないかって最近思うんだ。理由が無くても、生きていれば何かに繋がれるって信じてみたい。」
カエデは黙っていたが、その言葉に少しだけ安心を覚えた。弱さを認めること、それを受け入れること。そのどちらも簡単ではなかった。けれど、アキトの横顔を見ていると、不思議と自分の中の弱ささえ愛おしいものに感じられる。

その時、公園に風が吹いた。どこかから小さな子どもの笑い声が聞こえてくる。カエデはふと立ち上がり、目の前に広がる景色を眺めた。
「ねえ、アキト。」
「ん?」
「未来って、あの時のビー玉みたいなものなのかもしれないね。」
アキトは少し驚いた顔をしたが、すぐに納得したように微笑んだ。
「つまり、手の中にあるけど、全然中身が見えないってこと?」
「そう。それでも、ちゃんと持っていればいつか輝くもの。」

夕方、二人は公園を後にした。帰り道の途中、アキトはふと足を止めてカエデに向き直った。
「これからも、生きる理由なんて見つけられなくてもいい。でも、俺たちは必ず未来に手を伸ばせるよ。同じ奇跡を目印にしてさ。」
カエデは笑った。そして空を見上げる。そこには、まだ見ぬ未来が静かに手を振っているように思えた。

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「未来に手を振る者たち」

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投稿日:2024/12/13 07:59:43

文字数:1,341文字

カテゴリ:小説

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