【1からの続き】
「カイトさま、お待たせしました」
カイトは飲んでいた紅茶を噴出した。
2階の部屋から降りてきたリンの姿は
20世紀後半から21世紀前半に流行っていた女中服
いわゆるメイド服(ミニスカート)だった。
「大丈夫ですか!カイトさま?」
「い、いや大丈夫…ってそうじゃなくて、そ、それ…」
「どうなさいました、カイトさま?」
きょとんとした目で見つめるリン。
「そ、その服、どうしたの?」
カイトは動揺していた。
「ああ、これでしたら、きっとカイトさまに気に入って
もらえると思いまして、オーダーで拵えてもらいました」
「どどど…どうして?僕が、わわわ…」
「『どうして僕がメイド服を好きなのがわかったの?』と
おっしゃってるのですね。ああ、それでしたら簡単です。
ここに来る前にカイトさまの個人端末をすべてスキャンしましたので。
若い女性の画像がたくさんあって大変参考になりました。特に
20世紀後半~21世紀初頭のメイドファッションに閲覧履歴が
集中していたもので、こちらがご趣味だと察しました」
「め゛えぇぇ~」
「『らめぇ?』ああ、『ダメぇ~』と、おっしゃってるのですか?
すみません、なにぶん勝手がわからず黙って個人情報を見たことは
謝ります。もちろん口外いたしませんのでご安心ください。
セキュリティに関しては国家機密を200年以上も
プロテクトした実績もありますし
世界最高峰の技術でお守りいたします。
それに、このメイド服以外ですと、服を着ていない女性の画像が
大半でして、さすがに服を着用しないことにはお客様の接待に失礼
があると判断いたしました。もしご要望であれば服を脱いで
お仕事に従事いたしますが…」
カイト、顔面蒼白して口を金魚のようにパクパクさせた。
そんなこともお構いなしにリンは後ろを向き
背中のファスナーに手をかけてゆっくりと降ろした。
あわてて、それを止めようとしたカイトはつまずいてリンを押し倒した。
「イテテ…、はっ!」
カイトは息の塊をごくりと呑んだ。
眼前には背中のファスナーを下ろした隙間にリンの白い肌に
ブラジャーのフォックがちらりと覗いていた。
はじめて眼前でみた女性下着に言葉を失う。
「カイトさま、お怪我は?」
振り返るリンの潤んだ眼が心配そうだった。
ファスナーが緩んだせいで細い首の下の鎖骨まで見えた。
どうにかなっちゃいそうだったが、相手は14歳(256歳だけど)。
カイトはブルブルと顔を振り正気を取り戻した。
「リン!ダメダメ、ぬいじゃダメ!」
開いたメイド服の背中を手で隠し、カイトは眼をそらせた。
「あ、カイトさま、お客様です」
「え?」
後ろには、せっかく顔を冷やしたばかりなのに更に顔を赤くした
メイコの姿があった。
「あんたっ…、最低ね…、そんなまだ小さな娘によくもまあ…」
「え…?アレェー?」
メイド服の14歳(256歳だけど)の女の子に後ろからかぶさり
降ろしたファスナーに手をかけている(ように見える)。
このシーンをどう説明してもカイトの分が悪いのは必然であり
簡単には説明できっこ無さそうだ。
「っち、ちが!」
メイコはおもいっきりカイトを突き飛ばし、リンを引き寄せた。
「もう大丈夫だよ」
メイコがリンに言った途端、メイコの眼からボロボロと
大粒の涙がこぼれてきた。
「…あんたは、ふにゃふにゃしてるけど…、間違ったことは
しない奴だって…思ってたのに!」
メイコは堪らず走って家を出て行った。
追いかけようとしたカイトだったがリンの様子がおかしい。
「う!」と胸を押さえるリン。
「どうしたの?さっきの事でどこか怪我をした?」
カイトは心配そうにリンの顔をみた。
「いえ、私は大丈夫です。それよりも早くあの方を
追いかけてください」
少し迷ったがカイトはリンを見て言った。
「いや、メイコにはあとでちゃんと説明するよ。
それより今は君のほうが心配だよ」
カイトはリンの瞳の色が鈍く光っているのを見逃さなかった。
瞳の鈍く、濁った光はアンドロイドの起動停止直前の印。
カイトはリンを抱えて寝室まで運んだ。
「すみません、来た早々、こんな迷惑をおかけして」
「いや、いいんだよそんなこと。それより君、体重が…」
アンドロイドは人間と同じ生活圏で活動するため人間と
同じくらいの重量に設定されている。
いま、リンを抱えたら普通の人の半分くらいの重さだったのだ。
「はい、実はここでのお勤めをするにあたって
体の回路を破壊、削除されてます」
「そんな…」
カイトは言葉に詰まった。
リンの話をまとめるとこうである。
先に述べた国家機密にかかわるコンピューター(アンドロイド)は
一般家庭にいく事はまず無い。
破壊、または機能停止の上で保管という事になる。
リンの場合は特例で体に埋設されている記憶回路を破壊、削除することで
一般家庭にいく事を許可されたのである。
もちろんそれはリンが長い間、人類と国に貢献した御礼という
形で許されている部分も大きいのだが、情報の漏洩は何としても
避けなくてはならない訳で、まさに苦肉の策と言わざるを得ない。
幾重もの検査を繰り返し、体を切り裂かれ、それでもこの家
にくる理由は何だろうか?
「ねえ、なぜ、僕の家に?」
「カイトさまのお父様が誘って下さったのです。
家で一緒に暮らさないかって。
私はずーっと研究所にいたものですから、普通の人の
生活に興味があったのです。料理とか洗濯、掃除とか
してみたかったのです。ああ、あと映画や買い物や
散歩とかもしてみたいのです」
「なんだ、普通の女の子と変わりないじゃない」
カイトは微笑みながら言った。
「カイトさまはお父様に良く似ています。お優しいところが」
「そうかな…」
カイトは下を向いた。いつも周りからは頼りないって言われっぱなしで
自分に自信が持てなかったのだ。
「じゃあ、今度、映画や買い物にいこうよ!ああそうだメイコも…」
カイトの言葉が止まった。
リンはニコニコしながら手を出した。
「カイトさま、電話を貸していただけますか?私がメイコさんに
先ほどの事の顛末を説明させていただきますので」
「いや!それは僕の仕事さ。僕が話すよ」
「カイトさま」
「ん?」
「どうも先ほどの会話を思い出しますと、どうやらカイトさまは
事の説明にはあまり向かないタイプとお見受けしました。
今回は私がメイコさんとお話したほうが効率がよろしいかと」
「はひ?」
「そういうの、一番得意な仕事なんですよ」
しぶしぶカイトはリンに電話を渡した。
リンが電話をメイコにかけて早速、先ほどの説明を効率よく
分かり易く、しかも丁寧に話し始めた。
ものの5分ほどで二人で笑いあって会話してるのには
さすがにカイトも驚いた。リンは頃合を見てカイトに電話を渡す。
「あ、あの~メイコ?」カイトが会話の切り出しを始める間もなく
『あ、カイト!さっきはごめんね~、て、ゆーかさ
あんたにそんな甲斐性あるワケけないよねーって、あははは』
カイトは電話を切った。
「まあ、大丈夫みたいだね」
なにか納得が出来ない気持ちもあるカイト。
「ええ、きっと大丈夫です」
リンが笑った。
カイトも笑った。
夕飯の支度をすると言い出したリンだったが
カイトはそれを断り、今日はゆっくり休む事を勧めた。
リンはメイド服を丁寧にハンガーに掛け、部屋を見回す。
フレンチカントリー調の洒落た室内の壁には若い頃の教授と
優しそうな女性に抱きついた幼いカイトの写真が飾ってあった。
寝巻きに着替えリンは寝室の窓から夜空を眺めた。
ドアの向こうで気配を感じた。
扉を開けると下に不恰好なオニギリが二つ置いていた。
カイトが夜食を作ってくれたのだ。
「うふふ、隕石みたいだね」
それをモグモグとほおばるリン。
ちょっと塩が効きすぎてるのかしょっぱい。
『悲しかったり、嬉かったりしたら、泣いてもいいんだよ
それって、なぜか塩っ辛いけど優しい味なんだってさ』
リンの心の中で、その声を思い出していた。
数多の星星が輝いてる。その中で一番大きな星を見つけて
リンはつぶやいた。
「だいじょうぶ、きっと上手くやれるはずだよ、レン」
目からホロリと塩辛い涙が出て
少しだけリンは驚いた。
カイトは自分の部屋で考えていた。
リンのようなアンドロイドが起動停止直前になるのはおかしい。
科学省にいた時のように天文学的な数字を計算してるならともかく
機能を削除されたりした状態であっても一般のアンドロイド
以上のスペックがあるはずである。日常生活レベルでは過剰な
性能であるリンが起動停止しそうになるなんて…。
理由があるとすれば、現在も進行形で演算処理してる事が
なにかあるのではないだろうか?
ロボット工学を学んでるカイトは疑問に思っていた。
悩んでるうちに瞼は重くなり、まどろみの中に溶けていった。
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