※パラレル要素・カップリング要素あり。ご注意を。

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 星と月の光、雪降る音。あなたと共に一夜限りの夢を。


 風凍る12月の深い森の奥。
一人の少女が雪を踏みしめ歩いていた。
白いリボンで括られた金のツインテール、白のケープ。青のゆったりした上着、黄のふわりと広がるシンプルなフリルのドレス。
まるでどこかのおとぎ話から抜け出したかのような、お姫様の姿。
「(…なんて、ね)」
自分の姿を見て、くすりと笑う。
お姫様、だなんて、自分には縁遠い言葉。それこそ夢物語の存在だ。
少女は顔を上げて森の向こうを見る。遠く遠くに、ちょっぴり見える屋敷の明かり。
そう、お姫様は自分じゃない。あそこで踊ってる、お嬢様にこそふさわしい。

 あのお屋敷に住み込みメイドとして移り住んでから、幾数年。
今日は初めて聖夜のパーティーに、お嬢様付きのメイドとして出席した。このドレスはそのためにと、お嬢様直々にくださったものだ。
けれど、目まぐるしい人の流れ、煌びやかな会場。目にするもの全てが想像を超えていて、私はただ圧倒されるばかりで。ちゃんとお務めをしていたかもあやふやだ。
そんな私の様子に気づいて、お嬢様は笑って言ってくださった。
『お疲れ様。交代の時間みたいだから、後はゆっくり休んでて、ね?』
…本当に私は良い主人に恵まれたと思う。お嬢様はとても優しい。
その言葉に甘えて他のメイドと交代して、…けれど、とても休む気分になんてなれなかった。
私の脳裏にはっきり残っている。きらきらしたホール、艶やかなドレスの貴婦人、音楽団の奏でる美しい曲。
それは記憶に新しく故にどれよりも輝いて、私の心を離さない。
ましてや屋敷中がうきうきするような空気に包まれていて、とても眠れそうにない。
だから私はここへやって来た。1人であの記憶に浸るために。

 雪が降る。手のひらに乗せると、すうと溶けて消えていく。
空を見上げる。灰色の雲の狭間から、たくさんの星たちが光を降り注ぐ。
どうしてあんなに黒い空から、こんなに綺麗なものが降ってくるのだろう。
雪が降り積もる。深々と、雪の降る音が、静かに聞こえてくる。
記憶の中、美しい音楽で華麗に踊る、鮮やかなドレスの貴婦人たち。
とん、と足がリズムを刻み出す
ドレスの裾をふんわりつまむと、誰にするわけでもなく、柔らかに一礼する。
そして、くるりと踊り出す。
音楽は雪降る音。観客は森の木々たち。
私は、ただのメイド。だけど、今だけは、小さなお姫様。
足の動くまま、心のままに、私は踊る。
心の中でそっと呼びかける。
夜空に散らばる星たちよ、どうか今だけは、私を照らしていて。
星の光の中、少女は踊る。星たちは少女を照らし続ける。

 風凍る12月の深い森の奥。
1人の少年が雪を踏みしめ歩いていた。
黒い飾り紐で結った金の髪、優雅な白の燕尾服に黒のタイ。手には白のシルクハット、肘には長いステッキ。
まるでどこかのおとぎ話から抜け出したかのような、王子様の姿。
「(…なんて、な)」
自分の姿を見て、小さく笑う。
王子様、だなんて、自分には向けられるべきではない言葉。それこそ、遠い世界の話。
少年は顔を上げて森の向こうを見る。遠く遠くに、ちょっぴり見える屋敷の明かり。
そう、王子様は自分じゃない。あそこで貴婦人たちに囲まれているだろう2人の兄の方がふさわしい。
 
 音楽一家の末っ子として、将来を生まれながらに決められた身として生まれて幾年。
今日は2人の兄と共にあの屋敷へ依頼演奏をしにやって来た。
途中で楽団の人たちと落ち合い、数時間音合わせをしただけ。それでも、バイオリニストの長兄とフルート奏者の次兄の演奏は、素晴らしかった。
自分は、ちゃんと歌えただろうか。改めて不安になってくる。
楽器奏者の名門として名を馳せる一家にあって、僕が選んだ楽器は自分の声だった。兄たちは笑って納得してくれたが、父親は古い伝統がどうのこうのと中々認めてくれない。
1つ1つ実績を重ねていくしかない、と長兄は言ってくれた。
そうだ、言葉で通じないなら、相手が1番納得するものを示すしかない。
分かっている。分かっては、いるものの。
はあ、と息を吐く。白くもやが立つ。
演奏が終わってすぐにあの屋敷を抜け出した。歌は最初の3回だというのが、父親と交わした出演の条件だったから。…けれど、それだけじゃなくて。
ひゅるり、冷たい風が通り抜ける。体がぶるり、と震えた。
僕が今ここにいる理由は単純だ。…貴婦人方と話したくないからだ。
芸術家というのは、孤独な職業だ。誰の助けもなければ、あっという間に貧窮し自殺する者も少なくない。故に音楽や絵画に携わる者は、力ある貴族に気に入られパトロンとなってもらうことを第一とする。
だから、こういう貴族の個人的なパーティーは、大きなチャンスとなる場だ。
…なの、だが。僕にはそれがどうしても出来ない。
無意識にシルクハットを握る手に力が篭もる。
僕は歌うことが好きだ。大好きだ。声楽家は天職だと思っている。
…けれども、そのために貴婦人たちに取り入ることは何だか違うような気がする。
それは仕方のないことだと長兄は言う。楽しいだけの世界じゃないと次兄は言う。だけど、僕は2人程大人にはなれない。
自分のために歌うこと、誰かのために歌うこと。ただそれだけがどうしてこんなにも難しい?

 すう、と息を吸う。体の中に冬の清らかな空気が満ちていく。
白い吐息は澄んだ音色となり、灰色と漆黒の空に高く響いていく。
一呼吸置いて、誰にするわけでもなく、優雅に一礼する。
そしてまた、歌い出す。
伴奏は風吹く音。聴衆は森の木々たち。
僕は一介の歌い手。だけど今だけは、小さな王子様。
風の吹くまま、想いのままに、僕は歌う。
心の中でそっと呼びかける。
夜空に輝く月よ、どうか今だけは、僕を照らしていて。
月の光の中、少年は歌う。月は少年を照らし続ける。


    ―奇しくも、同じ場所、同じ時に同じ願いをした2人。
   星と月に込められた願いは、輝く雪となって、彼らに降り注ぐ。―

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

【リンレン風味】 Minuit Noel ① 【支援】

初めまして!世界の端っこで毎日リンレンを叫んでいる者です。
何の気の迷いか小説を上げることとなりました。
初めては、支援小説で『Minuit Noel』です。この曲、リンレンの声は素晴らしいし歌詞もすごく素敵なのに、何 故 伸 び な い …?!

初めての投稿(というかネットに小説上げること自体初)で右も左もわからない初心者ですが、双子愛で突っ走ろうと思います。よろしくお願いします!

感想・批判・誤字脱字の指摘どんとこいです。…あ、やっぱり批判は怖いです(じゃあ言うな)。お待ちしております。

続きも近いうちに上げたいと思います。

…今気づいた。この曲クリスマスのだ…!(今は夏) うわわ初っ端から季節ガン無視でごめんなさいっ!!(締めがこれってどうよ)

閲覧数:586

投稿日:2009/07/28 01:44:02

文字数:2,524文字

カテゴリ:小説

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  • 七瀬 亜依香

    七瀬 亜依香

    ご意見・ご感想

    は、初めまして!yukikoさん、コメント一等賞です、ありがとうございます!
    素敵だなんてそんな…!世界観が良いのは原曲が神だからです、ハイ。
    続きも近いうちに、上げられたら、いいなあ…(遠い目)。
    打つのが遅いのでのろのろ更新だとは思いますが、どうぞ気長に待っててください。
    本当にコメントありがとうございました!

    2009/07/30 21:39:04

  • yukiko

    yukiko

    ご意見・ご感想

    はじめまして!
    素敵な世界観の小説ですね!続きがとっても楽しみです!頑張ってください!

    2009/07/28 20:25:08

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