「王女様、どうされたのですか」
「……何も無いわ」
王宮に帰ってからのリンの沈み様は、家臣達も心配するほどだった。
いつもは何度も着替えるドレスも、今日は1回も衣装を変えなかった。レンの作るいつも楽しみにしているおやつにも、手をつけようとしなかった。
おかしい。使用人たちがそう思い始めた。
……リンの中で湧き上がる嫉妬には、誰も気が付かなかった。
「レン」
ある日、レンは突然リンに呼び出された。
レンはきっと隣国に行った時の話だろうと、いつものように柔らかく微笑んだ。
しかし、その命令は悲惨な物だった。
「緑の国を滅ぼしなさい」
……レンの顔から、一気に表情が消えた。
リンは依然としてレンに背を向けたまま、窓の外をじっと眺めている。その表情は分からなかった。
「あの娘が憎いの……」
リンが言葉を続ける。リンの声は若干震えていた。窓を爪で掻く嫌な音が、時折響く。
「あの娘が。私の好きな人を奪った……あの娘が……」
まだ言葉が言い終らない内に、レンは跪いた。
「……かしこまりました。王女様……仰せのままに」
レンの顔は……悲しげに微笑んでいた。
* * * *
蹄の音が林道に鳴り響いた。
馬の背に跨っているのは、レンだ。片手に松明を持っている。
レンの表情は松明の光の逆光と、不気味な闇を醸し出す森の影で見えなかった。
レンは松明をどこかへ投げる。当然松明は周りの物に引火して、瞬く間に向こうへと燃え広がった。
「一体何なの?」
数十分待っていると、ターゲット……緑の髪の少女、ミクが家から出てきた。炎を見て驚愕したように目を見開く。そして、俯くレンをそっと見つめた。
「もしかして……貴方が?」
ミクは炎を指差した。その身体は震えている。
レンは……黙って、いた。何も言わずに、ただ視線の焦点が定まっていなかった。ミクは……何かを察知したように、すっとレンを見据えた。
「……貴方、なのね」
ギュッと、レンは拳を作った。目の前のミクは、それでもレンを見つめ続けている。まるでレンの全てを受け入れるかのように。
「……なさい」
喉を振り絞って出した言葉は、不安定に震えた言葉だった。
「ごめん……なさ…い」
カラカラと乾いた声。ミクはレンに近寄った。レンはビクッと肩を震わせて、一歩身を引く。
「ごめんなさい……王女の、命令なんです」
「やっぱり。貴方の髪の色で分かるわ…きっと黄の国のお方だと、思っていたから。」
これから死ぬというのに、ミクの声は落ち着いていた。
ミクは急にレンに接近した。また身を引こうと思ったが、レンはそれを止めた。
……ミクがレンの手を握り、涙を流していたからだ。
「……ごめんなさいね」
レンのナイフが握られた手に、涙が零れ落ちる。
レンは、ミクの気持ちが痛いほど伝わってきた。自然とレンの瞳から涙が零れる。
「やっぱりっ……僕には、貴女を殺すことは……できない」
レンのナイフを握っていた手と体から力が一気に抜け、レンは地面にへたり込んでいた。その瞳からは、溢れんばかりの涙を流している。
「……貴女は生きるべき存在です」
「有難う。……でもね」
ミクは服が汚れるのも気にせず、レンの目線までしゃがみ込む。
ミクはニッコリと、優しげな微笑みを向けた。
「これは私の運命だから」
レンには、ミクの言葉が理解できなかった。
自分が死ぬというのに、何で彼女は僕の心配をしているのか―?
自分の大切な姉と、好きな人を天秤にかける。
どちらも大切な存在。だけど、片方が片方を無くせと命令している。
……レンは傍らに落ちていたナイフを拾った。
「うあああっ……」
そして……その鋭く光る刃を、彼女の腹部へと刺した。
刃は紅く染まり、そしてミクの腹部も紅く染まる。
「……く…」
レンはミクを抱き上げた。ミクの瞳はもうはっきりとレンを捉えていない。
ミクはそっと片腕を上げて、レンの頬に触れた。
「貴方……は、生きて」
時々痛そうに顔を歪めながら、必死で言葉を紡ぐミク。
「生きて……生きるの。私の分まで……なんて、いわない、から」
だんだんとか細くなる声と息。
「っ……」
レンの心を罪悪感が襲う。
レンはミクを強く抱いた。
元から白い肌が、より一層白く見える。
「サヨ……ナラ」
ミクの片腕が、パタリと地面に落ちた。
ミクの瞳が閉じられる。
「ミクさっ……ミクさん……」
レンはミクの冷たくなった遺体を、地面に置いた。
雨が空から、ミクの死を悲しむように降って来た。
それは、レンの瞳から零れ落ちる水分を洗い流す。
「はは…は」
レンは、顔を両手で覆った。
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