目を開けると白い壁天井と壁が見えた。辺りに微かに漂う消毒薬の匂い…病院…?
「大丈夫か?」
ふっと自分の前に影が差した。顔を上げると長身の人が私を見下ろしていた。驚いて思わず体がビクッと強張った。
「どこか痛むのか?」
「え…?あ…あの…大丈夫で…痛っ…!」
慌てて起き上がろうとしたら、脚に力が入らなかった。視界がぐらりと歪んで目の前が暗くなった。床が近くなって、ぶつかると思って目を閉じたけど、大きな腕が私を抱き止めた。
「急に起き上がるな。」
柔らかいベッドの上にそっと下ろされる。ふわりと甘い香りが鼻をくすぐった、この香り…バラの匂い?
「あの…貴方が助けてくれたんですか?」
「密。」
「え?」
「惑音密だ。」
「密…さん?」
――トントントン。
ノックと共に白衣を着た人が顔を見せる。ここのお医者さん…だよね?白衣だし。
「あ、気が付いたみたいだね、気分は?眩暈や吐き気はあるかい?目に見える怪我の
手当てはしたけど、痛い所や違和感を感じる所があったら遠慮なく言って。」
「えっと、少し足首がフラフラする位で、他は何とも無いです。」
「ん…そっか。」
お医者さんは大きな手で私の頭をぽんぽんと軽く撫でると、密さんに鍵を渡して言った。
「密、車使って良いから彼女送ってやれ、安全運転でな。」
「はい。」
密さんはごく自然に私に手を差し述べた。動作の一つ一つが流れる様にスムーズで、少し見惚れてしまう。
「密は代々執事を務めてるんだよ、素直にエスコートされて良いから、安心して。」
「し…執事?!」
「そう、執事、バトラー。」
「…実在したんですね…てっきり二次にしか居ない生き物かと…。」
「ま、まぁ、探せば居る所には居るんだよ。」
執事…思わぬ所でレア職業に遭遇してたんだ。執事フィルタでも掛かったのか改めて所作を見ると確かに動きに無駄が無いというか、洗練されて見えて来るから不思議…。
「…名前…。」
「え?あ、私は、朝吹浬音と言います。」
「朝吹…浬音?」
「はい。」
気のせいかな?少し、顔が曇った気がした。
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