朝の太陽。眩しくて直視できない。
「そんなのはいつの太陽でも一緒でしょ。」なんて言われたらイラっとくる。
毎日違う空だから、太陽だって違う。そんなのも分からないの?と問い詰めたい。
「おはよう。」会社の先輩の海斗に背中を叩かれる。完全にボーっとして歩いていた。
「流華ちゃん、さっき部長が呼んでた。」
「部長が?」
一体何の用なんだ。呼び出さないで欲しいわ!
「流華ちゃ~ん入っていいわよ。」
部長の芽李子に呼び出されるのは、クレームが来たときか面倒くさい仕事を頼まれるときと決まっている。
「で…分かったわね?」
今回の仕事は、書類制作とそれをまとめて配っておく。しかも二百部。期日はあさっての昼まで。不可能だ。はい、とは返事したものの、心では無理に決まってんだろ!!と怒りが爆発していた。
「やらなきゃ進まないよね…。」
やる気が半分以上も失われていたが、やらなければ言いと言うわけでもない。出来るところまでやるのが私のルール。
自分に言い聞かせて、書類を作り、いよいよ印刷だ。気づくと外は暗く、オフィスには私と海斗と数名。それからも一人二人といなくなり、ついに二人きりになった。
「先輩も残業ですか?」
二人だけの空間で気まずくなった空気に穴を開けた。
「いや…そういう訳じゃないんだけどさ。」
「え、じゃあどうして…。」
「んー…何ていうんだろう。流華ちゃんが追い詰められたら手伝おうかなって。」
追い詰められたらって早く手伝ってくれても…という言葉を飲み込み、「大丈夫ですよ、多分…終わると思いますから、先輩休んでください。」と言う。
それでも海斗は動かない。ただ、私の方を笑って見てる。
少しだけ気味が悪いと思ってしまった。
「先輩お茶飲みますか?」
「うーん、飲む。」
先輩の机にお茶を置いて、そのまま自分の机に戻った…はずだったが、気づいたら床にいた。
倒れるとき一瞬、「あ、具合悪いんだ。」って思ったけど、もう遅かった。頭がジンジンする。痛い。だけど起きないと、海斗に見つかる。手を床に着こうと思ったら、目の前に手があった。
「ほら。」
手を差し出すと力強く握られ、引っ張られた。
「ありがとうございます。」って言いたかった…のに力が入らない。ただ、手を引かれてついていくだけ。
「あっ…あのっ。」ようやく口が動いたけど、肝心な一言がいえない。口をパクパクさせていると、海斗が笑っている。
「変なヤツ。」って言われたとき、私の顔が真っ赤になってることに気づいた。恥ずかしいのと…何かもう一つ…
「ほら、横になりな。」
接待用のふかふかのソファーに座らされ、言われたとおりに横になる。
「書類まとめておくから。冊子にすればいいんだろ?」
「あ、はい…。ページ番号入ってるんで、順番に。」
「ほーい。」
後姿をみて、気づいた。
海斗が好きなんだってことに。
この気持ち伝えたいな…。どうしたらいいんだろう。先輩だよ?
自分と問答を繰り返していた…はずだったが、外を見たらほんのりオレンジがかった空が見えた。
「あ、起きた。」
目の前に海斗の笑顔。
「ほら見て!空綺麗だよ。」
指の先の空は、数秒前と既に色が違う。
「ですね。」
「空気吸いに行こうよ。」
外に出ると、肺に冷たい空気が溜まる。
さっきまでの具合悪さが飛んでしまった。
そういえば、と海斗に尋ねる。
「資料…任せて私寝ちゃったみたいでスイマセン…!」
「いいよ、部長も無理言うよね、あんな量一人でって。」
太陽がどんどん視界に入る。高層ビルの上からうっすら顔を出した日が笑ってる。
「そろそろ戻って再開しましょう。」と海斗を誘う。
「え、あぁ、終わっちゃった。」
驚いた。もう終わったのか。さすがだなぁと思う。
「配るのは…。」
「あっ、それはまだしてないや。」
「じゃあ、戻りましょ。」
海斗の手を引っ張り、オフィスに走る。
気持ちを伝えられない分…行動で頑張るんだって決めた。
「先輩!」
「ん?」
「気づいてくださいよ!!」と叫び、手を離し一人で走り、振り返ると、きょとんとした海斗が日の光に照らされていた。
ほら、同じ空なんて無いんだよ!
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