ヴォーカロイドを使った作品を作っている人は多い。その中には私も入っているので、みんな競争相手であったり同志であったりファンだったりするわけだけど、その中でも「この人にだけは絶対にかなわない」と思える人が、3人いる。これからその3人の話をしたいと思う。
    ◆
 1人目の人。その名前を仮にA氏としておこう。A氏は、ライターのばるぼらさんが「クイックジャパン」という雑誌のコラムで取り上げたくらいなので、知名度で言えば、群を抜いているはずだ。その割にはニコニコ動画の再生数がそれほど伸びてないのは、おそらくあの雑誌の読者層がヴォーカロイドに興味がある層とずれているからかもしれない。曲調は一言で言えば、ひねくれたテクノポップ。音の感触でいうと、P-MODELとかPOLISIXとか、あの辺に近い。と言ってしまうと、元も子もないのだけど、あの路線をヴォーカロイドを使って体現するという行為そのものに、初めて曲を聞いたときに衝撃を受けたものだ。それまで「ミクミクにしてあげる」などの有名曲や、ワンカップP氏の私小説的な作品群くらいしか聞いてなかった私にとっては、ニコニコ動画のヴォーカロイド作品というのは、いわば完全な他人事で、そういう変わったムーブメントが起きてることを眺めて楽しむことくらいのものだった。でも、この人の曲は違った。何かが揺さぶられた。
 A氏が1曲だけそういう路線でやるのなら、ネタの一種として片付けることもできた。でも、この人の曲は何曲聴いても同じトーンなのだ。フィルターとエフェクトをかけすぎて輪郭さえ残ってないボーカル、ひたすら機械的なリズム、なぜか和風のコード進行とメロディ。YMOのカバーを初音ミクに歌わせてる人達のように、古き良き時代のテクノポップを再現しようというわけじゃなくて、どうも本人が好きで曲を作ってしまったら、こんな風になってしまっただけのように思えた。
 もちろん、大して再生数はなかった。人気のある曲でも4桁にすら行ってなかったと思う。ただ、それでもコメントをつけている人は何人かいて、こんなマニアックな音作りなのに固定ファンが生まれていたのだった。
 私がA氏の曲で最も気に入ったのは「インベーダー」だった。「トオイホシカラヤッテキタ」「チキュウシンリャクガモクテキダ」と、カタコトの日本語でしゃべる初音ミク。その無機質なトーンは、まさにロボットが語っているようだった。そうか、初音ミクはロボットだったのだ。人間みたいなツラをしているけど、一枚皮をはげば、そこには緑色の基盤とねじまがった配線がおさまっていて、そこには人間らしい心なんてカケラもないのだ。子供のころみた戦隊番組「デンジマン」で、敵のスパイだった少女が終盤でロボットだったことがばれて、顔面の皮をはがされるシーンがあったのを思い出した。初音ミクは萌えキャラのフリをして、アイドルマスターにはまったオタクどもから金を吸い上げているけど、実際には謎の組織の命令を淡々とこなしているだけだったのだ。こいつはとんだ曲者だ……。と、妄想が広がってしまった。
 初音ミクの声は歌手の代用としてみれば、どうしても不自然な部分がでてくる。それは私も、リスナーとして「これが現段階でのテクノロジーの限界なんだろうな」と諦め半分思っていた。しかし、A氏の曲を聴いて考えが変わった。初音ミクを人間の代用として、できそこないのイミテーションとして使うのではなく、積極的に「人間のマネをする」ロボットとして使うことによって、新たな世界が見えてきたように思えたのだ。それは70~80年代のテクノポップが、本来は通信用だったヴォコーダーを楽器として使ったのと同じように、ヴォーカロイドも人口音声合成ソフトとして使えるのではないか。あの懐かしいレトロフューチャーよ、もう一度というわけだ。エアカーもタイムマシンもできなかったけど、歌声ロボットはできました。
 気がつくと1週間後に私は近所のヨドバシカメラで初音ミクという音楽ソフトを買っていた。試行錯誤の末にできたのが、私の処女作の「チマミレア」だった。
(つづく)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

ヴォーカロイド作品にみるディスコミュニケーション描写の分析

続きます。

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投稿日:2008/04/29 18:48:53

文字数:1,699文字

カテゴリ:その他

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  • ヒッキーP

    ヒッキーP

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    つづきよみたいDEATH!

    2008/05/27 10:08:17

  • sansui

    sansui

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    あわわ、こんぺいとうさんまで!
    いずれ時間見つけて続きを書きたいと思います。

    2008/05/25 19:00:24

  • competor

    competor

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    つづきよみたいDEATH!

    2008/05/25 07:07:16

  • sansui

    sansui

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    すいません。ちょっと忙しくなってしまっていて……
    しかし、音楽への思いを言語化するというのは大変な
    作業ですね……。曲を作るのは簡単にできるのですが

    2008/04/29 18:25:55

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