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その翌朝。
私はいつも通りに朝練に出ていた。
ウォーミングアップをして、軽く走る。
その日の朝練は、あんまり集中できなかった。
「美術室からだと、グラウンドがよく見えるから……」
悠のそんなセリフが頭から離れなくて、私はつい校舎を見上げてみてしまう。
でも、そのときの私にはそもそも美術室がいったいどこにあるのかもわかってなかった。とりあえず、どの教室の窓も閉まっているのを見てがっかりして、ため息をついたりしていた。
美術部は、朝練なんてしないかもしれない。
そんな単純なことに気がついたのは、朝練が終わって制服に着替えてるときだった。
それなら、教室でなら会えるのかな。そんなことを考えてしまって、私は落ち着かなさげに教室へ向かった。悠に会いたいと思ってはいたけれど、会ったらいったいどんな顔をすればいいのか、どんなふうに声をかけたらいいのか、ちっともわからなかった。
今なら、普通に「おはよう」とかあいさつをして、下手に気負わなければいいだけなんだって思うけど、あのときは本当に、顔をあわせるのすら恥ずかしいような気がしていた。
あのときは……結局どうしたんだっけ。
えーっと……。
……ああ、そうだ。
そんなことを考えてどきどきしながら教室まで歩いていたら、後ろから声をかけられたんだった。
「初音さん、おはよう」
「ひゃうっ!」
それはまさに不意打ちで、私は悠から声をかけられるなんて思っていなくて、びっくりして変な声を上げてしまった。
「あ……ご、ごめん」
振り返ると、そこには申し訳なさそうな顔をした悠がいた。
「な……なんだ。浅野くんかぁ」
「う……」
その言葉に悠がうつむいてしまってから、ようやく私の言葉が彼を傷つけてしまったってことに気づいた。
「ち、違うの! え、えっと、その……朝練のときは、いないみたいだったから、今日は見てないんだなーって思って、でも、よく考えたら美術部って朝練なんてやってないかもって気づいて、それで、あの、教室でなんて声かけたらいいのか考えてて、うしろから声かけられるなんて思ってなくてびっくりしちゃって、それで――」
実際のところ、このときにどんなことを言ったのかはちゃんとおぼえてない。でも、いっぱいいろんなことをまくしたてて、言わなくてよかったことまで言っちゃって、途中でそのことに気づいて、恥ずかしくなっちゃって、やっと黙り込んだときにはもう手遅れで、私の顔は真っ赤になっちゃってて、悠の顔も見れずにうつむいちゃったことだけはしっかりとおぼえてる。
「……」
「……」
「ご……めんなさい」
お互い黙り込んじゃって、でもその沈黙にも耐えられなくて、私は謝った。けれど、こうやって思い返してみると、なにに謝ってるのかは自分でもよくわかってなかったと思う。
「……ぷっ」
そんな私に、悠は耐えきれないって感じで吹き出した。
「な、なによ!」
それがちょっとショックで顔を上げて悠を見ると、彼は本当におかしそうに笑ってた。
「ごめん。いっつも――初音さんのカッコイイところしか見たことなかったから、そーゆーところは、なんかカワイイなって思って」
「……っ!」
そんなストレートな言葉に、私はなんにも言い返せなくて固まってしまった。
だいたい、こんなふうになったことなんて今までなかったし、誰かからカワイイなんて言われたのも、はじめてのことだった。
そうやって思考停止していると、ホームルーム開始のチャイムが響く。
「……あ、はじまるから、行こっか」
「……うん」
私は、恥ずかしくて一日中悠の顔もまともに見れなかった。
授業なんて、先生がいったいなにを言ってるのかさえ理解できなかった。
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