23.晴天の雷鳴

 リントが空の異変を見つけた頃、医院では、レンカがゆっくりと目を覚ましたところだった。
「三日も立ち通しだったんだ、三日は寝ておれ!」
 ふらつきながらも、せっかく医院にいるのだからと仕事をしようとしたレンカを、パウロ医師が厳命してやっと休ませたのである。

「パウロさん! 水、汲んでおきました」
「お前さんも寝ていれば良いのに」
「もう十分元気ですよ、おかげさまで」

 一方ヴァシリスは、しっかりと活動している。多少の疲れは見えるものの、レンカの様子を見ながら医院に残るならばと、水汲みや雑用を引き受けていた。

「ヴァズ、あんたも貧乏性だね」
「なに、身体を動かしていたほうが楽なんですよ」
 医師のパウロのやや呆れ顔の入った視線を背に受けながら、ヴァシリスはせっせと仕事に励む。
 その様子をしばらく見守ったのち、ふと、医師が口をひらいた。

「リントとレンカのこと、気に病んでるのか」

 パウロが、水桶から甕に水を移したヴァシリスに問いかけた。
 ヴァシリスの返答がほんのわずかに詰まる。
 そのわずかな間を、医師のパウロは見逃さなかった。

「あんたが、気にしてもしかたのないことだ」

 ヴァシリスは、答えない。

「リントもレンカも、もう十八歳だ。おのれの意思に従ったまでだ。
 ……ラウーロとサーラが島を出てから、お前さんが一生懸命守ってやったこれまでの時間で、もう十分だと思うがね。
 ラウーロたちにとっても、レンカたちにとっても」
 
 ふう、とヴァシリスが、水を移し終えた空の桶にもたれかかるようにつぶやいた。

「それでもね。大事なんですよ」

 パウロ医師は笑った。

「そうだな。いつかラウーロたちに会ったら、ベビーシッター料を三倍増しで請求しとけ」

 やっとヴァシリスが医師を振り返り、やや苦笑の表情で笑う。
 表の扉を叩く音がして、にぎやかな声がした。

「レンカちゃーん! いるー?」
「お見舞いに来たよー!」

 いつも広場で遊んでいた子供たちだ。おう、入れ入れと医師が促す。
「レンカちゃん! 果物持ってきたよ!」
「花も飾っとくね!」
「お水ほしい? どこかいたい?」
「なんでも言ってよね!」

 子供たちにとっては、いつもお姉さんとして見上げる存在だったレンカの世話を焼く事が、新鮮でしょうがないらしい。

「あんまりうるさくするなよ!」

 ヴァシリスが声をかけると、レンカのベッドにたかっていた子供たちが一斉に振り向いて返事を返した。

「え、ヴァズは元気なのか? なんで?」
「倒れても知らないよ? 寝てれば?」

「こりゃ道理だな!」

 パウロ医師が楽しげに笑い、ヴァシリスは水桶をぶら下げたまま、ますます閉口した。
 その時、飛行機のエンジン音らしき音が響いた。
 子供たちの目が輝く。

「あっ、ひさしぶりに郵便かな!」
「見てこようぜ!」
「あっ、こら、ちょっと待て……!」
「大丈夫だよヴァズ! 飛行機が荷物を落とす時は近づかないからさ!」

 子供たちがレンカに手を振り、奥の部屋を走り出て医院の玄関から飛び出そうとしたその時。

 まるで雷が落ちたような激しい轟音がとどろいた。


 つづく!

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

滄海のPygmalion 23.晴天の雷鳴

青い空、青い海。いつもの朝が戻ってきた、はずだった。

発想元・歌詞引用 U-ta/ウタP様『Pygmalion』
http://piapro.jp/t/n-Fp

空想物語のはじまりはこちら↓
1. 滄海のPygmalion  http://piapro.jp/t/beVT
この物語はファンタジーです。実際の出来事、歴史、人物および科学現象にはほとんど一切関係ありません^^

閲覧数:132

投稿日:2011/07/23 21:07:51

文字数:1,346文字

カテゴリ:小説

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