闇の狐は暗がりを放浪する。曰く真っ黒なだけでそれ以外は狐そのものだと言う。フサフサの尻尾を持っていて、ピンと立つ耳を持つ。
山に暮らしていたこともあったそうだが、今は街に住んでいる。山に住んでいた頃、自分のことを人形遣い、と呼ぶ変な人間が暮らしていたと言う。不思議なことに狐はその人形遣いと意志を通わせることができたと言う。狐は自分のことを理解できる人形遣いに興味が湧いたし、人形遣いも狐を気に掛けていたようである。
ある日、狐の住んでいた山に開発の手が伸びた。顔馴染みであった動物たちは早々に去っていってしまった。でも狐は人形遣いがなんとかしてくれるだろうと思って山に残っていたが、あっけなく住処がやられて人間に訴えに言った。
「困ったなぁ……、私は人間なのだけれど……」
狐はその言葉に大いに落胆してしまった。結局山は住宅地になってしまい、狐は余儀なく街に住むことになった。人形遣いの住処は人間の集落にわずかに離れており、それに人間だと言うことで住処を奪われることはないようだった。狐はその近くに寝床を構え、僅かな食べ物を探しては生きていた。
しかし、昔のように食べ物が取れなくなり、狐はひもじくって苦しくって、ついに人形遣いに頼りに行った。
「困ったなぁ……、私は人間なのだけれど……」
狐はその言葉に大いに落胆してしまった。彼が言うには人間は自然のものに手を出してはいけないのだそうだった。むごい話だと思った。壊すだけ壊して助けることはできないなんて話があるかと。
「でも――」と人形遣いはいった。
「お望みなら、それ以外のものになって生きることもできる。私は人形遣いとして、そのお手伝いができるが――」
そして今狐は、闇の狐として生きているのである。
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