※注意※
この小説には、ボカロ以外のキャラクターも出てきます。
オリジナルキャラクターに嫌悪を抱かれる方は読まないことをおすすめします、
それでもおk! って方は↓↓どうぞ!
光のない世界には、闇しかない。
けれども、闇のない世界に、光があるとは限らない。
*
病院というところは、何度きても苦手だ。
なんと言えばいいのだろう。死の臭いがする、とでも表現すればいいのか。うわ、僕ってば詩人――じゃなくて。
すぐに他の色に消されてしまう白が、患者を示しているように思えるのだ。ここは病院といっても、そこまで大きいものではないから、重症の人間はあまりいないのだけれど、この白さは好きじゃない。薄れゆく影が、見えてしまう――
「あ、蛍(けい)くん」
受付を済ませ、あいつの病室に向かおうとする僕を、受付の人が呼びとめる。もう十何年もここに見舞いで通っているので、だいたいの人と顔見知りだ。
「そういえば、ミクちゃんの病室変わったの忘れてたわ。ごめんね。307号室よ」
「あ、はい。わかりました」
307ということは三階だ。角を曲がると、壁の白と蛍光灯の光で、目が軽くくらんだ。必要以上の明るさは、毒なのかもしれない。そんなことを考えつつ、階段で三階へ。301から307は右か。右に折れて、しばらく廊下を進む。ふと視線を滑らせると、病室の扉が開いていて、なかが見えた。黄色い髪のちいさな女の子が、うさぎのぬいぐるみを抱きながら中庭を眺めていた。その背中が、見慣れたあいつのものと重なる。
――蛍くんの見てる世界って、どんななのかな。きらきらしてるのかな
大好きで、大嫌いだった、笑顔。
見たいのに、見たくない、仮面。
湧き上がってきた感情を、頭を振ることで追い払う。あいつは、人の心の変化に敏感だ。暗いこと考えてちゃ、だめだ。深呼吸をしてから、病室のドアをたたく。ややあって、なかから応答。扉を開ける。
「やっほー蛍くん」
僕が病室に一歩踏み込んだ時点で、そいつ――初音ミクは、言った。
腰辺りまで伸ばした水色の髪を左右でくくり、真っ白な肌をした少女は、唇の両端をかすかに上げて微笑んでいる。服で隠されているが、腕や脚は折れてしまうんじゃないかと思うほど細いのを、僕は知っている。
部屋に入った直後の挨拶は、僕らのなかでは、普通。
けれど、彼女の病気を知っている人間は、きっと驚く。
「よおミク。三日ぶり」
「明日からおばーちゃんの家に行くんでしょ? もうきてくれないかと思ったよん」
軽い口調のミクの目は、たしかにこちらに向けられているが、焦点が定まっていない。さらに、光がなく、すこし濁っているようにも思える。
ここまで言えばわかるだろう。ミクは、盲目だ。
生まれた瞬間から世界を見ることを禁じられた、少女。
闇しかない空間というのは、いったいどんななんだろうか。想像できないし、したくもない。鬱になってしまいそうだ。
しかしミクは、いつも笑っていた。
闇などないように。
世界に、光があふれているように。
僕の前でうつむいたことなど、一度もない。
普通の女の子だった。
清潔なベッドの上でいつも変わらぬ笑みを浮かべる彼女の、どこが盲目というのだ。本気で疑ったこともある。僕を騙すためのどっきりでしたーみたいな。どこに幼馴染騙すためだけに入院するばかがいるんだばか。
それは置いといて。
僕はいつものようにベッドの下から椅子を引っ張り出して腰を下ろし、ミクといろんなことを話した。
僕の学校のこと。クリスマスの思い出。ミクと親しい患者のこと。先生がたまに爆弾発言をすること。それこそ、近所のおばさんたちが集まってするどうでもいい話しかない。
それでいいのだ。
変わったことなど、いらない。
特別なものなど、いらない。
こうやって、笑い合えればいいんだから。
*
気がつけば、四時も十分前。そろそろ病院から出ないと、恐い看護師さんにさわやかな笑顔で窓から放り投げられてしまう(過去に、何度かやられかけた。死ぬかと思った)。僕が携帯を取り出して声を漏らせば、ミクはそれだけでわかったようだ。もうそんな時間かあと伸びをした。スカイブルーの髪が、動きに合わせて踊る。
「時間が経つのは早いね。でもきっと、蛍くんを待ってる一週間は長いんだろーな」
「……そうだな」
退屈な時間ほど、遅く感じる。こいつはいったい、僕の何倍の時間を生きているんだろう。こんなところで一人、目の不自由な生活をするくらいだったら、学校に行って勉強したほうがはるかにましに決まってる。僕がなにかを考え込んでいることを感じたのか、ミクが促すように僕の腕を押した。
「ほらほら、ルカさんきちゃうよ。早くしないとー」
「あ、うん。それじゃあ、またな」
「ばいばーい!」
手を振るミクを、病室を出る直前に振り返る。気配に敏感なミクは、僕が止まったことに小首を傾げた。無言で、どうしたのと訊いてくる。
特に理由があったわけじゃない。
ただ、なんとなく、見たかっただけ。
しかしわけがないのもあれだな。ちょっと考えてから、切り出す。
「都会ってさ。星、見えないよな」
「そーなの?」
てっきり頷きが返ってくるものだと信じていたので、一瞬呆けてしまう。遅れて、やってくる大量の後悔の波。唇を噛み締める。
僕のばかやろう。
こいつは、普通じゃないんだ。
普通じゃないことが、普通なんだ。
忘れるな。
こいつがミクだってことを、頭にたたき込め。
「あ、あ。見えないんだ。建物とかが、明るすぎて」
「ふーん……」
忘れがちな現実。
目をそらしたくなる現世。
気まずくなって黙っていると、ミクは普段と変わらぬ微笑みで僕を見た。
「蛍くんは、星好きなの?」
「いや、見てるときれいだなあって思うだけで、興味とかは特に」
「なんとか流星群がくるってなると、病院も大騒ぎだよ。もうね、ほんとにおまつりみたい」
ミクは、窓のほうに顔を向ける。
空は青。
それすらも知らぬ少女は、黒い空を見上げる。
僕は、なにも言えなかった。
服の裾を握って、自分のなかの感情と戦うことしか、できなかった。
何時間経っただろう。廊下を歩くスリッパの音で我に返った。
ミクは、音楽でも聴いているように静かに目を閉じていた。
卑怯だ。
僕はお前のことがなにもわからないのに、お前は僕のことをすべて知っている。わかっている。
ずるいとは思わないか?
なあ。
「蛍くん、あんまり悩みすぎると身体に毒だよ」
「知ってる」
「そ。ならいーよ」
「……じゃあ、ばいばい」
「ちょい待ち!」
そそくさと帰ろうとすると、制止の声。
「いってきます」
「え?」
「いってきます、でしょ」
思わず、笑みがこぼれた。
本当に、お前はずるいよ。
「いってきます」
「いってらー!」
僕がばあちゃんの家から帰ってくる日は、検査のために入院していたミクが退院するのと同じ日。家に着いたら、真っ先にミクの家を訪ねようと心に決めた。
つづく
盲目の宇宙飛行士―小説02―
おはようございますこんにちはこんばんは、パレェドです。生息地は関東ですが、生きています。大丈夫です。
地震で大変ですが、こんなときにこそ普通の生活をするべきだと思い、小説をうpしました。これがだれかの目に触れ、すこしでも気がまぎれればいいなあと思っています。
さて。
黒髪ストロングPの盲目の宇宙飛行士、小説02です!
01をうpした時点で、なんとなく書く手が止まっていたのですが、先日メッセージが届いていることに気がつき、見てみれば続きも期待しているなどと書かれているではありませんか。こんな小説でも、だれかが見てくれてるんだと実感したら、続きを書かなきゃだめでしょう、というわけで執筆再開。
メッセージくれたかた、ありがとうございました。とても励みになります。面白いって言葉が一番嬉しかったです^^
作品の話に移りましょう。
・主人公の名前、下だけですけど出ましたね。蛍(けい)です。名字はここでは明かしません。そのうち出てくると思います。
注意※オリジナルです。ボカロとは一切関係ありません。
・とりあえず、ミクとルカの名前が出てきました。いまのところの登場予定人物は、ミク、ルカ、リン、レン、カイト、メイコです。増えるかもしれませんが、減ることはないです。
・作品中の、「大量の後悔の波」。これは、後悔を別の漢字にすると、航海。海といえば波、と、一応工夫しています。これで今回の津波を思い出させてしまったら、申し訳ないです。けれど、どうしても使いたかったのです。
まだまだ語りたいのですが、文字数が心配なのでここらへんで失礼します。
タグは、基本的に「小説」と「盲目の宇宙飛行士」だけでいこうと思っています。ミクとかルカとか、キャラ名をつけてるときりがないので。
次回、【きみの瞳にグッドナイト☆】お楽しみに!
※タイトルと内容は、予告なく変わる場合があります。ご注意ください※
【!】3/15追記:盲目の~小説01、変に改行されてたところ直しました。
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想