霧に包まれた街に、銃声が響いていた。
数メートル先すらも覆い隠す、悪い濃霧が立ち込める戦場。
少年の声を聞いたのは、偶然だったのだろうか……。
「……ハ……ッグ」
吐き出された虫の息が、濃霧にかき消される。苦しそうに胸を上下させて、空へ手を伸ばしている。
「……大、丈夫?」
駆け寄って、安否を伺う。立ち上がれるのならいいのだけど。
……差し出した手を握られることは無かった。少年の手は、ひたすら空を捜している。
「ハ……ア……」
血のニオイ。絞り出された声は声ではなく、終わりが近いことを語るような吐息。
ああ、大丈夫なわけがない。少年の背に接した地面には、血のりが溢れているではないか。
「……誰かに、伝えたいことはある?」
どうして。どうしてこんなにも冷静なのだろう。
目の前にある光景を、自然なものだとでも思っているのだろうか。
「……ゴフ……ア……」
何かを必死に伝えようとする彼の声が、血となって吐き出された。
「…………」
どうしようもない。この身には、どうにもできない。
それが悔しくて、奥歯を強く噛み締めた。
「……すく……て……」
それは――
すくって……
――。
空をさまよう少年の手が、携行していたのであろう武器を取り出す。
銃。大まかな分類で言うところの、ライフルというもの。
「……まさか……キミは……」
虚ろな少年の瞳が、こちらを向いた。
大粒の涙を浮かべて、しかし彼は微笑んでいた。
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