その場所に何気なく通り掛った時、小規模ながらも人だかりが出来ていたのは知っていた。但し、立ち止まってその方向を見ている人が殆どで、誰も話しかけたりはしていないらしい。なので有名人、と言う訳では無さそうだ。ならば何故人だかりが出来ているのだろうか。
 ただ、通り過ぎるだけだったが、己の好奇心に負けて、ベルはその人だかりが出来ている方向へと足を進めた。
 幸いに人はその人だかりが出来ている所以外は少なく、難なくその場所に行く事ができた。その、輪の中心にいたのは―――・・・
「綺麗な人・・・」
 ホゥ、と思わずベルは息を漏らした。その輪の中心にいたのは、白く長い髪がウェーブがかっていて、うなじ辺りで二つに分かれている、そして同じく白色のロングドレスに身を包んでいる、女性だった。キラリ、と白い髪が日の光で銀色に見える。目の色は透き通った、晴れ渡る空の様な綺麗な蒼。
 ふと、ベルはこの人と何処かで会った事がある様な錯覚に陥った。勿論、会った事など無い。こんなに綺麗な人と会っていたならば、必ず覚えている筈だ。
 ならば何故こんな風に思うのだろう? うんうん唸っているベルの方を、チラリと女性は見ると、その美しい顔に美しい笑みを浮かべ、ベルの方に近付いていった。思考に頭が向いているベルは、その事に全く気がつかない。
「ベルさん・・・ですよね?」
 凛とした、しかしはっきりとした声がベルの頭の上から降ってきた。下げていた頭を上げると其処にいたのは先程まで向こうの方にいた女性だった。パチクリ、と目を瞬かせた後、一瞬遅れて「ふ、ふえぇ!?」と何とも間抜けな声を出してしまった。その様子を見て女性はクスリ、と笑った。
「やっぱり。娘から聞いてた通りだわ。可愛らしいお嬢さんね」
「あ・・・あうあう・・・」
 羞恥心から顔を赤くし、口をパクパクさせるしかなかった。でもふと引っ掛かった。娘? この人の娘さんとあたし、何か関りがあるの?
「あ、あのう、娘さんって・・・」
 フゥ、と一回深呼吸をしてからベルは女性に問い掛ける。すると女性は意外そうな顔をした。
「あら、娘は私の事、貴女に喋ってないのかしら?」
 可笑しいわね~、ま、あの子らしいっちゃらしいけど。独り言の様にそう呟く女性。
(すいません、貴女が誰のお母様だか分かってないんですけど・・・)
 心の中で、謝罪するベル。
「まぁ良いわ」
 フ、と息を付き女性はベルに微笑みかける。女性の一つ一つの動作が良く似合っていて、凄く綺麗だ。同性ながらもドキリとしながらベルは少し不思議そうに(実際かなり不思議なのだが)首を傾げた。そしてふと、思い当たる。
(この人、ホワイトに似てる・・・)
 自分の幼馴染であり、同性でありながら思い人でもある、ホワイト。髪の色などは違うが、醸し出す雰囲気が何処か似ていた。
(・・・ま、そんな訳ないよね・・・)
「娘から聞いているわ。ベルさんはとても優しくて、強い人だって」
「え!? あ、あたし強くないですよう! ・・・バトルだってチェレンやホワイトの方が強くって、あたしなんか全然・・・」
 言いながら何か空しくなってきて、ベルはベレー帽をキュ、と掴むと俯いた。
「強さはバトルの強さだけじゃないわ」
 優しい音色の声が降って来た。少しだけ、ベルは顔を上げる。
「心の強さも大事。ううん、どんなにバトルが強くても、その後、相手を見下すようではいけない。思いやりが無い様ではいけない。バトルの強さを持つ事は、大変ではあるけど誰にでも出来る。でも、心の強さを持つ事は、とても、とても難しい。バトルの強さを持つ事よりもね。誰もが持てる訳じゃないの。でも誰もが本来ならば持っている筈の力なの。其れを引き出す事は簡単な事じゃない。だから、自信を持って、ベルさん。貴女は強いんだから。強さにも種類はある。誰かを護る強さと、誰かを助ける強さ。ベルさんは誰かを助ける強さを持ってる。だから大丈夫。貴女は芯の強い子。どんなに親から反対されても自分の意思を貫き通したじゃない。誇りを持って。大丈夫、大丈夫だから、ね? 泣くのは止めなさい。折角の可愛い顔が台無しよ?」
 そっと、女性の細く長い指がベルの目尻の涙を拭う。何時の間にか泣いていたらしい。けれど涙は止まらない。止められない。女性はその長身の身体を、ドレスを地に着けて、ベルの目線と己の目線を合わせる様にしゃがみ込んだ。女性の蒼い瞳にベルのオリーブ色の瞳が映っている。涙で歪んでいた。
「あらあら、泣き虫さんね。如何したら泣き止んでくれるかしら?」
 困っている筈なのに全然困っている様に聞こえない。何処か楽しそうに女性は微笑む。何でこんなにこの人は楽しそうなのだろう? そう思いながら自分でも涙を拭っている時だった。

「母様・・・、ベル・・・?」

 ホワイトの声が聞こえた。涙を拭いながらもその声の方を見ているとやはり其処にいたのはホワイト本人で。少し呆れた様な、驚いた様な表情をしていた。
「あら、ホワイト。遅かったのね」
 女性は顔だけをホワイトの方に向け、呑気そうに言った。
「え・・・? え、ホワイトのお母さん? ? あれ? て事は・・・。・・・! レ、」
 言いかけて、慌ててベルは口元を手で押さえた。忘れていたが此処は道路なのだ。そんな中で炎を司る白き龍の名を出す訳にはいかない。
「えぇ、そうよ。・・・“名前”としてはヴァイス、と呼んでね」
 女性―ヴァイスはそう言うとニコリとベルに微笑んだ。そんな母親に娘は言う。
「母様・・・。何が如何したらベルが泣くなんて事になるんですか・・・?」
「別に泣かせた訳じゃないのよ? それにしてもホワイト、貴女この子に私の事、言ってなかったのね?」
「あ・・・。ご、ごめんね、ベル。あの後七賢人探したりするのに忙しくって・・・」
「良いよ、ホワイトが忙しいの分かってるもん!」
 グジグジ、と少し乱暴に目尻に残っていた涙を拭い取るとベルはニッコリとホワイトに笑いかけた。
「始めまして、ホワイトのお母さん、ベルって言います!」
 そう言うとベルはヴァイスにベレー帽が落ちそうな勢いでお辞儀をした。

 ~余談~
「それにしてもホワイトのお母さん、綺麗な人だったね~・・・(ホウ・・・)」
「まぁ、人じゃないしね、一応・・・」
「! あれ、て事は・・・」
「?」
「親の紹介も済んだ事だし次はいよいよ交際開始だね!?」
「ちょ、ベル!? どうやったらそんな展開になるの!?」
「大丈夫、絶対幸せにしてね! お嫁さんはあたしがなったげるから!」
「何、あたし婿!? 婿なの!?」
「そしたら・・・・・・・・・はこうして・・・・・・・・・・・・・・・は・・・して・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、で、・・・・・・・・・・・」
「ベル~、お願いだから戻ってきて・・・」

 当分ベルの思考は元に戻りそうにありません。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

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こうなったらもう止められないですよね、被害被りたくないし。
前に書いた「あたしが好きなのは、」よりも話は昔です。
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閲覧数:182

投稿日:2011/04/25 16:34:25

文字数:2,850文字

カテゴリ:小説

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