ルシフェニア国首都ルシフェニアン。その中央に設立された私立ルシフェニア学園。一階の突き当たりに位置する一室を金髪の少年が訪れる。
「遅いではないか!何をしておった!」
 少年が部屋に入ると同時に怒号が飛んでくる。その声の主は少年に瓜二つの少女だった。部屋の中には少女だけではなく他にも何人かの人影と、羽の生えた奇妙な動物たちがいた。
「すみません、少し授業が長引きまして……」
 素直に謝る少年。少女は怒りを収め号令をかける。
「そうか、それならば仕方があるまい。では、今からペールノエルの会議を始める!」

 この世界には、妖魔と呼ばれる存在がいる。
 彼らは大昔に人によって創られたのだが、人や物に取り憑き、悪意を振り撒く危険な存在だ。
 そんな彼らを野放しにはできない。だが、妖魔を滅ぼすには彼らと似たような力を持つもの、悪魔と呼ばれる存在と契約しなければならないのだ。
 悪魔と契約し妖魔を倒す役目を担う……それが、秘密結社ペールノエルだ。

「では、まず始めに出席の確認をしようか。我、傲慢の悪魔マリーと一番目のサンタクロースはここにいるぞ」
「こらマリー!わらわの頭の上に乗るでない!無礼者!」
 先ほどの少女が、自分の頭上に乗った羽が生え喋るネズミに対し怒る。ペールノエルはセプトと呼ばれるコードネームのようなものを持っている。
 サンタクロースと呼ばれた少女の本名はリリアンヌ=ルシフェン=ドートリシュ。このルシフェニア学園理事長の娘だ。そして彼女の契約悪魔が、ネズミの姿をしたマリーだ。
「全く、少しくらいいいではないか……次に、四番目のシャドウ」
「ここにいます」
 頭から降りたマリーが次のセプトを呼ぶと、先ほどの少年が答えた。
 彼はアレン=アヴァドニア。彼もこの高校に通う生徒の一人だ。
 リリアンヌの双子の弟だが、訳あって今は別々に暮らしている。そして、ペールノエルでも例外的に悪魔と契約していない。その性質からイレギュラーとも呼ばれている。
「五番目のピエロ」
「いますよー」
 金髪のサイドテールの少女がイナゴの佃煮を食べながら返す。
 彼女はネイ=フタピエ。彼女もまたルシフェニアの生徒である。
「……悪食の悪魔はどうした?」
「あのお方は面倒だからパスだそうです」
「全く、あやつは我らをなめすぎだ!」
 その場で地団駄を踏むマリー。
 ネイは悪食の悪魔の契約者だ。そして悪食の悪魔は非常に気紛れで、会議に出席することは少ない。
「まあいい……次だ!六番目のヴェノム!」
「ああ、大丈夫だ。ちゃんといる」
「我もここにいるぞ」
 青髪の青年と羽の生えた山羊が答える。
 青年の名はカイル=マーロン、悪魔の名はジル。彼らは色欲の悪魔と契約者だ。ちなみにカイルはマーロン高校という別の高校の生徒であり、リリアンヌたちより先輩だ。
 さらにネイとは兄妹だが、とある事情で家も通う高校も別である。
「次は……七番目の手品師!」
「はいはーい!いるッスよ!」
「わたくしめもここに」
 今度は赤毛の少女と羽の生えた魚が返事をした。嫉妬の契約者と悪魔、シャルテット=ラングレーにラハブだ。
 彼女はルシフェニアの生徒だ。
「では最後だ。八番目の狙撃手」
「あ、あの……います」
 弱々しく答えたのは白い髪と赤い瞳が特徴的な少女、聖エルフェゴート学院の生徒、クラリスだ。
「憤怒の悪魔はどうした?」
「さあ……おそらく、冥界の主と一緒にいるかと。彼は彼女と一緒のことが多いので……」
「そうか……二番目のディーラーと三番目の眠らせ姫は欠席すると聞いているから、これで全員だな」
 ディーラーは強欲の悪魔と、眠らせ姫は怠惰の悪魔と契約している。ここにペールノエルの創設者、零番目のMASTERエルルカ=クロックワーカーを加えた九人がペールノエルの主なメンバーだ。



「ではまず最初に、今日の議題を説明するぞ」
 マリーによる出席確認が終わったのを見計らい、リリアンヌが口を開く。
「みなに集まってもらったのは他でもない。昨日MASTERから連絡があってのう。この学園に大規模な妖魔の群れの反応が現れたそうじゃ。そこでみなで妖魔の殲滅にあたろうと思う!そのための作戦を知らせよう!」
「ふむ、その作戦というのはどのようなものなんだい、リリアンヌ?」
「ペールノエルの活動時はセプトで呼ぶようにお願いしてるじゃないですかヴェノム兄様!」
「す、すまない……未だに慣れなくて……」
 作戦を聞こうとしたら不注意で怒られてしまった。
「まあ、お兄様はダメダメの凡夫ですからね~」
「……青いのらしいわね」
 更に妹と狙撃手に追い討ちをかけられてしまう。
「女子にこれほどまで嫌われるとはな。貴様、本当に色欲の契約者か?」
「お前がそれを言うかジル!」
 ついに契約している悪魔からもそんな言葉をかけられる始末だ。
「まあ、ヴェノム殿の方は置いておき……サンタクロース、早速作戦をお教えください」
 アレンが話を本題に戻す。
「うむ、ではよく聞くがよい!妖魔たちの反応があったのは校庭じゃ。そこでまず、ピエロよ。最初にお主の能力で敵を戦力を大幅に削てもらう」
「なるほど、広い場所で大勢を相手にするには私の能力がうってつけですね。承知しました」
 ネイが最後のイナゴの佃煮を口に放り込みつつ、承諾する。
「うむ、期待しておるぞ。次に二陣目、これはシャドウと狙撃手、お主らに任せる」
「分かりました」
「は、はい……頑張ります」
 アレンが綺麗に礼をしながら、クラリスはおずおずと返事をする。
「ええっと、最後の残ったやつの相手じゃが……手品師とヴェノム兄様に任せたぞ!」
「了解ッス!」
「あ、ああ……全力を尽くそう」
 シャルテットが手を上げながら元気よく答え、カイルは先ほどのダメージが残っているのか少し落ち込みながらも答える。
「よし、ではさっそく出陣じゃ!」
「あらあら、少し待ちなさいな」
 リリアンヌの号令にラハブが待ったをかけた。
「先ほどの話を聞く限りあなたとマリーの担当がないようですが?」
「……全く、ラハブおばさんもわざわざ分かりきっていることを聞かなくてもいいというのに。そういうところが意地が悪いというのだ」
「何か言いましたか、マリー?」
「いえ!何も言ってませんラハブお姉さん!」
 ラハブににらまれたマリーはそう言うとリリアンヌの後ろに隠れてしまった。
「……まあいいでしょう。それで、あなたたちは何を担当するのですか?」
「フン、わらわたちの担当など決まっておろう」
 リリアンヌは自信満々に答えた。
「もちろん、後方から全体の指揮をとるのじゃ!そういうのはリーダーであるわらわの役目じゃからのう!」



 夕暮れの時刻を逢魔が時という。何故そのように呼ばれるようになったかというと、その時間帯になると鬼や妖怪が活発に動き出すと信じられていたからだ。
 そしてそれは決して間違いではない。実際に妖魔たちが活動を始めるのはその時間帯なのだ。
 血のように赤い空の下、ルシフェニア学園の校庭に数多くの妖魔が集まっていた。その中には人形に取り憑いた妖魔も複数見られた。
「厄介だな。物に取り憑くほど強力な妖魔が相手か」
 マリーが冷静に分析する中、ネイが一人前に出る。
「大丈夫ですよ~。ペールノエルのメンバーがこれだけ揃っているんですし、何より……私たちにはあのお方の加護があるんだから」
 ネイはニヤリと笑うと、懐から赤いグラスを取り出した。最初は空だったそれにみるみるうちに液体が溜まり、彼女はそれを地面に撒く。すると地面から白い肌の化け物……屍兵が現れた。
 これこそ悪食の悪魔の能力だ。妖魔を取り込みそれを屍兵に変え操る能力。そしてその妖魔を取り込む方法は……
「ウフフ……あれが今日の食事ね」
 いつの間にかネイの側に赤いドレスを着た婦人が立っていた。
「さあ……あなたたちはどんな味がするかしら?」
 婦人はそう呟くと屍兵と共に妖魔の群れに襲い掛かり、食らい始めた。
 彼女こそが悪食の悪魔だ。悪魔自身が妖魔を食らうことで取り込む。
「さてと、それじゃあこちらも始めますか」
 ネイはナイフを構えると妖魔の群れに向かって飛び掛かって行った。

 ネイたちが戦闘を開始してものの数分、既に敵の勢力は半分になっていた。
「さて、そろそろ僕たちも始めようか」
「は、はい!」
 アレンは剣を握り、クラリスはブリオッシュを抱え戦闘体制を取る。ネイが討ち漏らした妖魔がこちらに向かってきているのだ。
「狙撃手は左を頼む!僕は右を!」
「わ、分かりました!」
 アレンは短くそれだけ言うと近場の妖魔を斬りつけた。
 本来ならば契約者ではなければ倒すことのできない妖魔。それを契約せず生身で倒すことのできるイレギュラーがアレンなのだ。
 一方のクラリスは妖魔の口に的確にブリオッシュを投げ入れる。するとブリオッシュを食べた妖魔たちは泡を吹いて倒れていった。
 これは彼女がブリオッシュに妖魔に対して毒となる黄金の粉末を混ぜこんでいるからだ。そしてこの黄金の粉末こそ、憤怒の契約者しか使うことのできないアイテム、グリムジエンドの一部であり力なのだ。

「戻りました。これ以上の力は行使できません」
 グラスに悪魔と屍兵を戻し前線から戻ったネイが報告をする。顔には少し疲れが見える。
「お疲れ様ッス、ネイ!あとは私たちに任せるッス!」
「油断してはいけませんよ、シャルテット。残った妖魔は人形に宿った妖魔たち。人に取り憑くものほどではないとはいえ、強力なのですから」
「大丈夫ッスよ!どんなやつ相手でも……私を傷つけることなんてできないッスから!」
 そういうとシャルテットは大きな剣を抱えて敵陣に向かう。彼女の言う通り誰もそう簡単に彼女を傷つけることはできないだろう。頑丈な鱗の肌、それが彼女の契約者としての能力だ。ちなみに大剣を担ぐ馬鹿力は本人のものである。
「やれやれ、世話が焼けますねえ……」
 ラハブはそう呟くと目を閉じた。すると次の瞬間、ラハブの体がぐったりその場で倒れるのと同時に、シャルテットの近場にいた一体の妖魔が彼女に味方する。
 相手の体を乗っ取る転身の術、これはラハブ自身の能力だ。

「ジル、どうだ?やつらの中に女の妖魔はどれほどいる?」
「ふむ、どうやら結構な数がいるようだ。あの人形は女性型のものが多いからそれが影響しているのかもしれんな」
「そうか、ならば私たちにとって好都合だ」
 ジルと短い会話を終わらせたあと、カイルは妖魔たちの方向をじっと見つめる。その瞳が紫色に光ったかと思うと、突然妖魔たちが仲間割れを始めた。
 相手を洗脳し意のままに操るのが色欲の能力だ。もっとも、妖魔にも性別があり、異性相手にしか効かない限定的なものだが。

「うむ、順調なようじゃな」
 リリアンヌは後方に控え満足そうにメンバーの活躍を眺めていた。彼女は戦いというものが非常に苦手なため、いつも後ろで指揮を取っていた。
 そんな彼女の背後に二つの妖魔の影が忍び寄る。
 そして彼女を襲おうとした次の瞬間、一体は青い炎に、もう一体は緑色の霧に包まれ、倒れてしまった。

「ホー、どうやらなんとか間に合ったようですな」
 学校の屋上に赤髪の女性と黒髪の女性が立ち、校庭を見下ろしている。そして彼女たちの側にはミミズクと人形がいた。ミミズクが話を続ける。
「心配になって来てみれば、あのガールとマリーは相変わらず危機感が薄いようですね」
 この喋るミミズクこそ、強欲の悪魔セイラムだ。
「ねえ、そろそろいいかい?」
 突然ミミズクの隣にいた人形が話始める。
「もうやることが終わったなら、帰りたいんだけど……僕は眠いんだ……だって僕は……あれ?僕は……私は誰だっけ?私は……私の名前は……」
「ホー……どうやら力を使い過ぎたようですね。とりあえず、今は眠っていていいですよ。お疲れ様です、ミセス『怠惰』」
「うん……そうさせてもらうよ……」
  人形はそう言うと何も喋らなくなった。
「さて、それでは我々は戻りましょうか。我々は我々で忙しいですからね。行きましょう、ミセスマーロン、我がマスター」
 次の瞬間、屋上には誰もいなくなった。



「さて、残るはあやつだけじゃな」
 戦い始めてから約一時間、残るは巨大な等身大の人形に憑いた妖魔だけとなっていた。
「さあシャドウよ!奴に止めをさすのじゃ!」
「かしこまりました。さあ、これで終わりだ!」
 アレンは剣を構えると、人形に向かって斬り込んだ。人形は妖魔の力で強化された腕で応戦しようとするが、軽くいなされ斬り捨てられる。
「終わりました、サンタクロース」
「うむ、ご苦労……アレン後ろ!」
 リリアンヌが慰労の言葉を中断し、差し迫った表情で叫んだ。アレンが振り返ると、人形から出た妖魔が爪を振り下ろそうとしていた。
(しまった!まだ生きていたか!)
 咄嗟に避けようとするものの、避けきれない……と思った瞬間。
「るりら……るりら……」
「!!」
 どこからともなく歌声が聞こえてきた。そして不思議なことにそれを聞いた妖魔の動きが止まる。
 その隙を逃さず、今度こそ妖魔を倒したあと、歌の主に礼を言う。
「ありがとう、助かったよミカエラ」
「どういたしまして。偶然クラリスに会いに来たんだけど、ちょうど良かったみたいね」
 彼女はミカエラ。エルルカの弟子の一人で、呪歌により妖魔の動きを止めることができる。その能力から歌姫と呼ばれることもある。
「アレン、無事で良かった……ミカエラ、わらわからも褒めてつかわすぞ!」
 リリアンヌが二人の元へ駆け寄り、そう述べる。
「さて、敵も倒したしメンバーも集まっている。となると、することは一つだな、リリアンヌよ?」
 羽をはばたかせリリアンヌの肩に止まったマリーがそう言った。リリアンヌは頷くと、その場で号令をかける。
「さあ!パーティーよ!」



「……失敗した、か」
 リリアンヌたちの様子を学校の影から覗き見る一人の女性の姿があった。
「まあいいわ。機会はいくらでもある。今日のところは勝ちを譲ってあげるわ」
 女は赤い猫を肩に乗せ、その場から去っていく。
 彼女の名前はジェルメイヌ=アヴァドニア。アレンの義姉である。
 彼らの物語はまだまだ続く。

 悪の因果は終わらない。

この作品にはライセンスが付与されていません。この作品を複製・頒布したいときは、作者に連絡して許諾を得て下さい。

悪ノ娘物語

(一応)公式コラボの応募作品です。

これはおふざけの物語。何から語りましょうか?
キャラ崩壊しまくりの完全に趣味に走った作品です。悪ノPさん曰くモンスターや宇宙人が出てきても大丈夫らしいので、妖魔を出しました()ちなみに続きはありません。
できるだけネタを詰め込もうとした結果がこれだよ!6000字では色々足りず、泣く泣く削った場面も多いですが……リリアンヌやエルルカの活躍とか、カイル弄りとか。最初は章仕立てでしたし。他の作品もそうでしたが文字数の制限辛い。

本日でコラボ終了ですね。初めて悪ノ娘、悪ノ召使を聴いたときの衝撃は、今でも忘れていません。これからも忘れることはないでしょう。
悪ノ娘シリーズはもちろん、その他の作品も楽しませていただいています。素敵な作品をありがとうございます。この場を借りて、mothy_悪ノPさんにお礼を申し上げます。これからのご活躍も、応援しています。

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投稿日:2018/09/28 00:22:06

文字数:5,919文字

カテゴリ:小説

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