『上手く降下に成功したようですね。』
無線に聞こえるその声は、今回の全作戦指揮権を握り、また、俺のサポート役でもある男のものだ。
俺は背の高い雑草の茂みへと身を隠した。
『敵の姿は見当たりますか?』
辺りを見渡しても、そこには木々が乱立しているだけであり、聞こえるものは僅かな風の音で、虫や鳥の啼く声さえ聞こえない。静寂そのものだ。
勿論、そこに人の気配はない。
「いや、見当たらない。」
『そうですか。気付かれずに済んだという事ですね。』
「ああ・・・・・・。」
俺は左の腰に手を当てた。硬い物の感触がある。
取り出すと、それは大きな液晶画面と数個のボタンがついた正方形の機械で、今回の任務で大いに役に立つ機械のはず、だった。
だが、今となっては、一目見て使い物にならないということが理解できる状態だ。
『どうかしましたか。』
「着地の衝撃でGPSレーダーが壊れた。どうやら全体重が掛かったらしい。液晶が割れて使い物にならない。」
『ふむ、そうですか。でもそれは、あれば便利という程度のものなので、それが使えないからといって任務に支障が生じたり、不便ということはないでしょう。こちらからなら貴方の位置も全て分かりますから。』
「こんなものに頼ることはなさそうだな。」
『しかし、他の装備は無事ですか?バックパックに入っているはずです。確認してみてください。』
俺は腰の後ろに取り付けられた鉄枠入りのバックパックを取り出し、中を開いた。
まず最初に目に付いたのは、今まで見たこともないほど特異な形状をした、拳銃らしき機械だった。
これが武器なのだろうか。
銃身は太く、先は三叉に分かれている。
反してグリップはやたらと細く、握ることには好都合だが普通拳銃についているはずの操作部品がない。あるとすれば、引き金ぐらいか。
しかも、オレンジを基本として部品類には赤という派手なカラーリングは、武器というより工事用製品を思わせた。
「何だこれは・・・・・・。」
『それはボルトガンです。直線状に瞬間的にアーク放電を行い、直撃した敵を感電させ、気絶させる非殺傷兵器です。スタンガンの電撃を撃てるようなものだと思ってください。』
「しかし、何故普通の拳銃じゃないんだ?」
『今回、貴方の目標地点である核発射施設には、アンドロイドが警備についているとの情報が入っています。ですから、それに対抗できるよう、民間でも販売されているものの強化型を貴方に渡したのです。』
「しかし、こんなものは使ったことがないな。」
『使い方は簡単です。銃身後部のレバーを手前まで引くことによって、バッテリーから発射機構に電気を充電します。後は、照準を定めて引き金を引くだけです。一発撃つたびにレバーを引く必要がありますが大した面倒じゃないでしょう。』
「ふむ・・・・・・。」
納得した俺は、そのボルトガンをスニーキングスーツの大腿に取り付けられたホルスターに納めた。
次に俺が取り出したのは、見覚えのあるものだった。
銃のグリップに、大柄なマイクが取り付けられた、超指向性集音マイクだ。
『それの使い方は分かりますね。』
「ああ。遠距離の僅かな物音まで、性格に捉える超指向性集音マイク。使いやすいガンタイプだな。」
『そうです。貴方がいる森のような見通しの悪い場所で大いに役に立つと思います。』
「分かった。」
他にバックパックの中に入っているものは、小型LEDライトに、電子双眼鏡のみだ。
「本当に俺の装備はこれだけなのか。」
『そうですね。単独潜入任務となると、あまり大きな荷物は持てません。身軽であることが最優先ですから。それでも必要最低限の装備ですが、それでも必要なものあれば、現地調達してください。』
「もっともだ。」
『さて、一通り説明が終わりましたので、改めて貴方の任務の目標を伝えるとします。一つ目、核発射施設の警備を全てダウンさせること。二つ目、陸軍空挺部隊の突入経路を確保すること。三つ目、突入した部隊の核弾頭処理を可能な限り援護すること。以上全てを、ソード隊のレーダー空爆が実行される前に完了してください。』
「わかってる。ところで、俺の脱出経路は。」
『陸軍のヘリに、貴方の席はありません。ただし貴方には陸軍からの置き土産があります。』
「置き土産?」
『ヘリウムガス入り気球と、特殊ワイヤー・・・・・・。』
「フルトン回収システムか。」
『その通り。貴方がサンドリヨンからC-2輸送機に移ったのと同じですよ。』
そう。俺が海軍の大型潜水艦から、空軍の輸送機へと飛び移った手段だ。
高圧のヘリウムガス入りの気球を任意の高度まで浮かび上がらせ、気球のワイヤーと自分の体をつなぐ。すると、気球を輸送機先端のアームが捉え、装備者の体は一気に輸送機に引っ張られ、そのまま引き込まれる。
元々は郵便物の運搬に考案された方法らしいが、後に軍が着目し、車両やヘリが近づけない場所での物資または人員の運搬に使われるようになったらしい。
「行きのHALO降下に、帰りもスリル満天というとだな。」
『その通り。ですから、ぜひ無事に任務を達成し、帰ってきてください。』
「当然、そのつもりだ。そういえば大佐、俺のコードネームはどうなっている?」
さっき俺のことを、シック1ともタイトとも言っていた。
『別に、コードネームに特に意味はありません。貴方のことは、普通にタイトさんと呼びます。私のことは大佐と呼んでください。』
「分かった。」
『それでは、核発射施設周辺の北の方角へ向かってください。何かあったら、また連絡をよこしてください。私はサンドリヨンの通信室にて貴方をサポートします。無線周波数は、145.67です。よろしいですね。』
「了解。任務を遂行する。」
無線を閉じ、茂みから立ち上がると、俺は今一度周辺を見回した。
かろうじて残る夕日の残光のおかげで、まだ視界は保たれているが、あと数分もすれば、空は暗黒に染まり、俺の視界は完全に闇に奪われるだろう。
俺は北の方角へ向かうために、適当な道を探した。
すると、生い茂る木々と雑草の合い間に、丁度人が通れそうな隙間を見つけた。
俺はそこに足を踏み入れ、静かに駆け出した。
最新式スニーキングスーツの効果か、足音は思いのほか静かだ。
少し行くと、なにやら木々の先に蒼白くうごめく光が見えた。
人だ。人の気配がする。
ここから少しその方角が伺えるが、見つかってしまったら一大事だ。
俺は、適当な木に身を隠し、少しだけ顔を出し、その方角に向けて電子双眼鏡を覗いた。
間違いない・・・・・・敵だ。
二人の兵士は、リーフ迷彩の野戦戦闘服をまとい、顔は同じ迷彩のフードとマスクで覆われている。肩には、興国軍のマークがある。
そして、手にはアサルトライフルと思われる銃を持っている。
蒼白い光は、そのライフルに取り付けられたライトから放たれていた。
俺は兵士の装備を確認するために、双眼鏡を更にズームした。
「FY-71に、マカロフか・・・・・・。」
とりあえず、俺の装備で挑んでも勝機はなさそうだ。
俺は兵士達を迂回する形でゆっくりと動き始めた。
そのとき、頭の中に、無線の着信音が響いた。
SUCCESSOR’s OF JIHAD 第二話「森」
帯人さんです。大好きだ。
要するに、あの時主人公達がこうしてるときに、ここでは別キャラがこんなことになっとったってことです。
知ってる人なら分かると思いますけど、この後・・・・・・。
ブラウザの調子が悪く、すんごく更新遅れました。
あ、そうそう。用語辞典に追加してほしいことがあったら遠慮なく言ってくださいね。
「ソード隊」【架空】
日本防衛空軍水面基地に所属する、第302戦術戦闘飛行隊の通称。
隊員全員が強化人間と遺伝子操作によって生まれたゲノム人間によって構成されており、専用の高性能機体も使用することから世界最強と名高い飛行隊である。
一時期戦闘用アンドロイドが性能評価のために所属していた。
ちなみに、科学的に改造を受けたパイロット達であるため戦競などの行事に参加することは許されていない。
「ボルトガン」【架空】
元々は民間で市販されていた護身用武器に改造を加えて強化した非殺傷兵器。
陸軍と、スタンガンや護身用品製作、販売しているブレイズ社との協力で開発された。
銃内部で瞬間的にアーク放電を発生させ、それを直線状に発射する。
殺傷能力はないが、市販のスタンガンよりかなり強力であり、五万ボルトクラスと思われる。被弾すれば、人間、機械共に一瞬で沈黙してしまう威力を持つ。
拳銃タイプの武器であるが、その形状はかなり特異であり、操作法も異なる。
銃後部のチャージレバーを手前に引くことによってバッテリーから発射機構へと電気を充電し、発射できる状態となる。最大射程距離は五十メートルであるが、実用的な威力を保っている距離はおよそ二十~三十メートルである。
試作段階ではあるものの兵器としての完成度は高く、これから設計を見直すことは考えにくい。
軍では、空軍基地の警備や、非戦闘員の護身に用いられる。
また、民間での使用も考えられており、警察官、バスや旅客機の運転席近くに設置され、有事の際に使用することが出来る。
従来のテイザーや催涙スプレーでは武装した犯人には対抗できないが、ボルトガンなら犯人を殺害することなく制圧することが出来る。
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